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ルナレスカを返して欲しい(前半、ローズナリア視点、後半、シエルフォード視点)

「はぁーーー」


 超ド級のため息に、侍女たちがみな眉を顰めたのを私は見逃さなかった。


「なによ。私はこれから王太子妃になるのよ?そうなったらアンタ達なんかすぐにクビにしてやるから」


 ビクビクしながらお互いを見て、何度も頭を下げている。


(本当に、腹が立つ)


 王宮に入れば、煌びやかな生活が待っていると思っていたのに、退屈で退屈で死んでしまいそうだ。

 もちろん、王太子妃教育なんて鼻からやる気などない。


(だって私は火の聖女なのよ?)


 有り難がられこそすれど、私が何か努力をするなんて望むところではない。


(それにしても、この前の火の祭りはある意味最高だったわ)


 あまり盛り上がらなかったのは癪だけれど。

 ルナレスカが追放されたことで、急に梅雨祭りから火の祭りに変更となって、ただみんな困惑しただけ。来年、再来年と回を重ねていけば、そのうち段々慣れてくるだろう。


(今まで散々私を妬んで嫌がらせをしていた令嬢達も、私を見るや凍りついて皆頭を下げていたわね)


 いい気味である。

 陰湿な虐めをしていた相手が、まさか聖女でいずれこの国の国母になるなんて、今頃血の気が引いているに違いない。


(でも、私は自分の手を汚すようなことはしないわ)


 断罪なんてもっての外。一生私に媚を売って、頭を下げて生きていってほしい。


(しかも、お相手は誰もが羨むライウス様…)


 指を咥えて見ているあの目線!この上ない心地良さに気絶しそうになった。


(美男美女が並んで歩く様は、いつの時代も映えるものよ)


 ライウス様と並んで歩くなら、それだけの地位と私ほどの美貌がないといけない。ルナレスカなんてただの庶民が並ぶ時点で見合っていない。


(おまけにあんなガリガリ)


「…ライウス様…」


 デューべへ急ぎ旅立ってしまった、大切な未来の旦那様。無事に帰って来てほしい。砂漠はさぞ暑いのだろう。けれど、この国の宝である私がそんな思いをしてはならない。ライウス様がいらっしゃらないのは心が引き裂かれるほど辛いけれど、それも少しの間の我慢と思うしかない。


 少々窮屈なソファに沈んで、ベルを鳴らした。ほとんど間をおかずに侍女が「ご用ですか」と頭を下げる。


「お昼まで待っていられないの。すぐにお茶の準備をしてちょうだい」

「かしこまりました」


 昨日はレモンパイだった。今日は何が来るかしらと考えるだけで、ライウス様がいない寂しさなど呆気なく吹き飛んでしまう。


「はあ、聖女って楽でいいわ。その肩書きだけで王太子妃になれるのだものね」


 程なくして運ばれた紅茶に砂糖を五つ入れて、ケーキは足りなかったので三回ほどおかわりした。


「本当に、ルナレスカ様にはどれももったいないわ」





✳︎ ✳︎ ✳︎





 アクアクォーレの王太子、ライウス・アクアクォーレ。


(…いずれ来るとは思っていたが、予想よりも随分早いな)


 ふむ、と思う。無機質な笑顔は余裕のなさの裏返しか。


(貴重な水源をみすみす手放したことにようやく気づいたアクアクォーレが、差し詰め責任を追求する形で、付き人も最小限にやむなく砂漠を横断したか。哀れな男だ。……それとも)


 応接間に流れる微妙な空気は、お互い腹を探り合っているからなのだろう。一向に話の糸口が見つからない。


(カマをかけてみるか)


「今年の梅雨祭りはもう終わられたのでしょう?聖女の祈りに呼応して、雲もないのに空から雨が降り注ぐ。言葉にできぬほど美しいと聞きます。僕も一度見てみたいものだ」

「……ああ、その件ですが」


(食いついた)


 ライウスは貼り付けた笑顔を崩さず、口元に手を当てている。恐らく本音を語るつもりはないのだろう。

 次第にその眉根が下がっていき、困り果てた顔で訴えた。


「内密の話ですが…アクアクォーレの水の聖女が、デューべへ行ったきり戻って来ぬのです」

「それは大変だ」

「ご冗談を。ご存知でしょう?」

「さて…あの砂漠を一人で横断できたとは考えにくい」


 真顔で僕を見るライウスは、恐らくイライラし始めている。彼はほとんど聞こえないくらいの小さな舌打ちをした。


「単刀直入に言いましょう。デューべで、枯れた水路に水が出現したと聞いた。あなた方がそれを知らないはずがない。知ったら王宮入りさせるだろう、デューべに生まれるはずの火の聖女がいないのだから」

「………なるほど?」

「ルナレスカはいるのか、いないのか。いるならここに出さない法はない」


 僕は逡巡して、隣国の王太子を睨め付けた。


「ライウス殿…なぜデューべに聖女がいないことをご存知で?」

「は…?」

「やはり、アクアクォーレに火の聖女が現れたという噂は事実なのだな?」

「っっっ!」

「…知られてまずいことでもないでしょう。ルナレスカ殿が好き好んであの砂漠を横断したと?違う。彼女はあなた達に追放されたのだ。そして、ルナレスカ殿が追放されたのは、その聖女が原因なのでは?」

「やはり、ルナレスカはこの王宮にいるのだな!?我が国の聖女を返して欲しい」

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