ルナレスカを迎えに(ライウス視点)
「ライウス様?今、なんと…」
「だから、暫く結婚式を延期して欲しいんだ」
「そんな!式までひと月後に迫っているのですよ!?両親になんと言えば良いのですか!」
うるさいな、俺のせいだと言いたいのかよと怒りが膨らんだ。
(元はと言えば、ローズナリアだって悪いんだ)
彼女がルナレスカを良く思っていなかったことくらいは知っている。
民衆の不満が大きくなっているのを良いことに、国外追放の道を俺に焚き付けたのは、他でもないローズナリアである。
(ルナレスカはこんな時、食い下がるようなことはしなかっただろうに)
第一、俺だって本音を言えばルナレスカと結婚したかったんだ。この国に、生活基盤である水の輸出以外に強みがないのは事実。火の力があれば、様々な工業製品を作ることが可能だとローズナリアは言った。
ところが、金属をも溶かす程の火を扱えたところで、それを活かせる職人など、この国にはいなかった。
(大誤算だ…)
これがボードゲームなら、盤面をひっくり返したくなるような結果だ。
(くそ!まさか、自国が困るほど水が枯れるなんて想定外だぞ!)
なのに
「殿下は、私のことがお嫌いになりましたのね」
「…君は、何を言っているんだ?」
愛のための結婚などではないことくらい、ローズナリアだって分かっているはずなのに。
(ここのところ、面倒なことばかり言うな)
思えば、ルナレスカは絶対に俺の愛を試すようなことなどしなかった。そんなことをしなくても、お互いの愛を確かに感じていたからだ。
(なのに…)
ローズナリアは、ぷうと膨れてみせている。その顔にげんなりした。
確かに初めは可愛いところもあるなと思ったものだが、それももういまいち思い出せそうにない。
(火の聖女は、もともとデューべの国に産まれるはず…だったよな、確か)
ならばあちらの国では今現在、火の聖女は不在ということになるか。
(確かに、先代の火の聖女が身罷られてから久しく新たな聖女の名前が出てこないのだから、恐らく本当にデューべに聖女は不在なのだろう)
あの卑しい国に聖女は不要と神がお気づきになり、アクアクォーレが豊かになるため聖女を二人采配したに違いないだろう。ならば、その二人の聖女を両輪に活路を見出すべきであったのだ。
完全に臍を曲げてしまったローズナリアの肩を、俺は半ば仕方がなく抱いた。
「今、アクアクォーレは災害級の水不足に陥っているんだ。そんな時に式典を強行することができないことぐらい、君にだって分かるだろう?」
「でも、私は嫌なんです!せっかく殿下と結ばれる時が来たのに…」
「もしも今、式をあげるとしたらそれは簡素なものになると思う。君だって、きちんとしたものにしたいだろう?」
「それは…そうですけど。なら、なんとかしてください!」
「なんとかって…」
側近が小走りで走ってきて、俺に耳打ちした。
「………なんだって?」
✳︎ ✳︎ ✳︎
俺は急ぎデューべへ向かう事となった。
砂漠を渡るにはラクダに乗ることになるが、どうもラクダの臭いが気になって輿に乗ることになった。
「おい、揺れるじゃないか。もっと慎重に歩けよ」
輿を担ぐ男達はお互いに見合って「…かしこまりました」と言うと、大義そうにまた歩き出した。
「全く」
(しかし驚いたな)
側近の報告は、ルナレスカの所在に関するものだった。
『デューべで枯れた水路に満々と水が流れたとのこと。恐らく、ルナレスカ様かと』
(本当なら、ルナレスカはこの砂漠を渡ったのか)
まさか歩いて?と考えたが、すぐにそれはありえないと思った。
(なぜ俺はあんなにもルナレスカを早く追放しなければと焦ったのだったか)
そう、たしか…
『民衆の、ルナレスカ様に対する不満は抑え込むことが不可能なほど膨れ上がっています。このままでは、いずれ夫婦となった暁に、殿下にまでその累が及ぶのでは…』
ローズナリアにそう言われたのだ。
焦って自分の保身に走ってしまった。国益を優先したつもりが、却って国民の生活基盤が揺らぐ事態を招いてしまった。
(しかし、ルナレスカを連れ帰った後、ローズナリアをどうする?)
彼女にはもうたくさんだ。面倒なことを押し付けてくる父上にも、何も動こうとしない下臣達にも。
(ルナレスカに会ったら、きちんと謝ろう)
水の聖女の不在がどれほど国益を損ねるか、どれだけ生活の質を落とすか、こんなことが続けばいずれ命の危機をも危ぶまれるではないかと、国民も痛いほど実感したはずだ。誰もがルナレスカの帰国を歓迎するだろう。
(と、いうより…民衆から早くルナレスカを連れ戻せ、王太子は何をやっているんだという声が大きいらしいが)
手のひら返しは懲り懲りだ。国の政策に振り回されているという顔をしている民こそ、実は国を振り回しているのに気が付かない。
(くそ!)
熱波が、乾燥して巻き上げられた砂埃を容赦なく顔に叩きつけてくる。
スカーフで口元を覆った。
(誰も来たがらないのは、当然と言えば当然か)
俺と離れたくないと言っておきながら、俺が砂漠を横断することを知るや、ローズナリアはあっさり王宮で待っているなどとほざいた。
(まあ、ここに来てわがままを言われても困るから着いてこなくて良いわけだが)
遠くにデューべの街並みが見えてきた。ルナレスカがあそこにいるのかと思うと、早く君を抱きしめたくなった。
(ルナレスカも俺が迎えに来れば喜んで帰るだろう。愛する祖国への帰還に、俺がわざわざ砂漠を横断して迎えに行くのだから泣いてしまうかもしれないな)
きっとルナレスカも、今頃自分の行いを反省しているに違いない。
早く君に会いたい。
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