デューべの国王(後半、シエルフォード視点)
「ふむ、そなたが水の聖女・ルナレスカ、か」
「お初にお目にかかります。国王陛下におかれましては…」
「ああ!よいよい、堅苦しいのは抜きだ。まず、そなたに確認したいことがある」
「っ…なんでしょうか」
「面を上げなさい」
一度深く頭を下げてから、背筋を正して真っ直ぐに陛下を見た。
「…うむ、素晴らしく意志の強い目だな。アクアクォーレを追われたと言うのは、真か?嘘偽りなく述べよ」
「真実にございます。水の聖女としてアクアクォーレに尽くして参りましたが、国外追放となりました」
「国に尽くした聖女が追放など、私は聞いたことがない。自分で申してみよ」
「た、他国民へ、水を無償で与えてしまったからです。…それも、幾人も…」
「…うん?」
「アクアクォーレでは、水を売買することで生計を立てている者も多いのです」
ふうむ、と陛下は考え込んでしまったようだ。
シエルフォード様をチラリと見る。ただ跪いて頭を垂れたまま、一切の動揺を見せない。
(…てっきり、シエルフォード様に求婚せよと王命が下ったのかと思ったけれど、どうやら違うようね)
考えてみれば、わざわざシエルフォード様に求婚させるより、私を王宮に呼び出して陛下直々に命を下せば済む話だ。一体どんな思惑があるのだろう。
「シエルフォードがそなたを妻に迎えたいと言っておる。そなたもそれに応えたと聞いている」
「はい」
「一つだけ問いたい、水の聖女。そなたは真にこのデューべのために尽くせるか?」
「勿論でございます」
「いやにハッキリ言うな。アクアクォーレはそなたの祖国であろう?」
「祖国であるなら、なんでも寛容に受け入れますか?」
「…ほう?含みのある物言いだな。申してみよ」
「私は、アクアクォーレのためにこの身を捧げて参りました。ですが、思い知ったのです。本当に届いて欲しい人のところには、私の能力を搾取して高い税金で売りつけている。到底許せない、と」
「ほう?」
「でも、デューべは違いました。私のような他国民を当たり前に助け、水の聖女と知りながら尚、私に水を差し出すような優しい人々です。私は、デューべの人達のためにこの力を使いたい。そして…この世界を根本から変えられるのはこのデューべなのではないかと、そう思うのです」
国王は、ニッと笑うと大爆笑した。
「わははははは!シエルフォード!お前も隅に置けぬな!」
「…父上、何も試すようなことを聞かなくても良いでしょうに」
「いやあ、すまんすまん。アクアクォーレはほれ、あの通り難しい国だからの。一応は本人の口から、あの国と縁が切れていることを言ってもらわねば」
「言質をとったのですか?」
「そう怖い目で見るな。…ルナレスカ、すまんかったな」
急な展開について行けず、あたふたしながら「いえ、当然のことだと思います」となんとかそう言った。
「水の聖女がいてくれれば、この国の水路循環システムが止まることもなくなるだろうが…。まあ、シエルフォードがやっと妻を娶る気になったので、どんな女性かと思ったが、なかなか肝が座っとるみたいだな」
水路循環システムとは、一体何だ。
(普通の水路とは、違う?)
恐らく簡単には教えてくれないだろう。本当に気になることは隠して、結婚の障害になりそうなことを敢えて問うた。
「…一つだけ、確認したいことがあります。私は市井の出身です。本当に私をシエルフォード様の妻に迎えても良いとお考えでしょうか?」
「市井だろうが貴族だろうが、聖女は聖女。それも水の聖女だ。乾いたデューべにとって、これほど喜ばしいことはないだろう」
「寛大なお心遣い、感謝申し上げます」
「それより、砂漠で倒れているところをシエルフォードが見つけたと聞いておる。大事はないのか?」
「お陰様で、この通りなんともございません」
「それは何よりじゃった。疲れておるのではないか?部屋を用意させてある。少し休んだほうが良い」
「お気遣い感謝申し上げます」
✳︎ ✳︎ ✳︎
ルナレスカ殿が退出した後、父は厳しい表情に戻って僕に言った。
「…はあ、今回はどうも早計なことだな。お前はもう少し中長期的な視点で物事を捉えられると思ったが」
「父上が気にしていらっしゃるのは、アクアクォーレとの軋轢でしょうか?」
「水で生計を立てている国が、みすみす水の聖女を追放するとはとても思えなくてな。余程の馬鹿でない限り」
余程の馬鹿、ライウスの顔がちらりと浮かぶ。
(本当にただの馬鹿なのか…実はとんだ食わせ者かもしれぬ)
そう思ったけれど、調べれば調べるほどにライウスの人間性の薄っぺらさが露呈するばかりだった。
「恐れながら…それについて随分と調査したので、王宮に迎え入れるのが遅くなったのでしょうに」
父は額に手を当てて考えて込んでいるようだった。
「火の聖女についても報告は上がっているが…」
「はい。ここ十六年間の火の聖女の不在の理由ですが…先にお伝えした通り、アクアクォーレの令嬢が火の聖女として生を受けたようです」
「あちらの国の王太子は、水の聖女と婚約破棄してまで火の聖女を娶りたかったか」
「お陰で僕はルナレスカ殿に求婚することができたわけですが」
アクアクォーレが水の聖女を代々王妃としたように、火の聖女はデューべの王室と婚姻してきた歴史がある。
「…シエルフォード、儂は危惧しておるよ」
「アクアクォーレがルナレスカ殿を取り戻そうとしまいか、ということでしょうか?」
「分かっていてようやるわい。契約魔法を使ってまで水の聖女が欲しかったのか」
「…父上ならお分かりになるのでは?」
「さあな」
(僕だって、分かっていないわけではない)
一礼して、廊下に出ると、乾いた風が窓から吹き抜けてきた。
乾燥して細かい砂が混じった風に、何度か咳き込みながら窓の外を見た。
まるで、遠くの砂漠がルナレスカの故郷と、このデューべを分断しているかのようだ。
(…分かっている)
ルナレスカ殿が僕の求婚に答えたわけは、アクアクォーレからの追手を恐れたからだ。
そんなことも分からぬほど、のぼせ上がっているわけじゃない。
(それでも僕は…)
ぎゅっと唇を結んで、長い廊下を歩き出した。
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