川が枯れて雨が降らない(ライウス視点)
水の聖女不在のため、梅雨祭りは変更となった。火の聖女・ローズナリアのための火の祭りと改めて、国を上げて大いに認知度向上を図ったが、当日人の出はまばらだった。
それで、ローズナリアはすっかり臍を曲げてしまったらしい。
(それだけでも面倒だと言うのに…)
「今度は西のハンナ川が枯れました!」
「っっっ!儂は知らん!お前たちでどうにかしろ!」
「そ、そう仰られましても…」
ちょっと、なんか冗談じゃなくなって来た感じだ。
みんながじとっと俺を見ている。
いつものように両手を広げて笑った。口元がヒクつく。
「なんだ、みんなして俺を見て…」
「お前がルナレスカを追放したからだろう!」
父の激昂に、椅子から転げ落ちた。心臓がバクバク言っている。
「な、お、俺は…ただこの国を思って…」
「水源をみすみす他国に差し出したようなものだ」
「なんだよ!俺が悪いって言うのかよ!お前ら全員、あの日、即日国外追放した方がいいって……」
無能どもに指を指して喚いた。けれど、父の視線が刺さって、恐る恐るそちらを振り返る。いつもただふんぞり返っているだけのくせに。
「お前が緊急招集したその議会に、国王である儂が不在だったのはなぜだ?」
「ち、父上に良き報告をと…」
「勝手にルナレスカを国外追放した挙句、婚約破棄など許されるとでも?」
「俺はただ、この先父上がいなくても、この国の先を見据えた政ができると…」
「儂がいなくても?」
「だ、だから、火の聖女・ローズナリア伯爵令嬢に求婚したんだ!そう、国のために!」
「呆れてものも言えんな」
父上だけじゃなく、あの日議会にいたメンバーまで目を逸らしてため息をついている。
あまりにも腹が立って叫んだ。
「お前達だって賛同したじゃないか!」
ネント宰相がズレた眼鏡を直して言う。
「恐れながら…あの日は陛下もおられませんでしたし、殿下が即日国外追放すべきだと仰っても、陛下の判断を待ってから裁判で決めることなのだろうと理解しておりました」
「なんだと!?」
「ルナレスカ様を追放せよと言う民の声に、大きな暴動が起きかねない事態だったのは事実。追放するならするで、然るべき処置は必須でしょう。それが代わりに火の聖女では、各地の水が枯れ、雨が降らない事態になるのは目に見えていたかと…」
「っっっ!!!」
父はガン、と机を叩いた。
「…連れ戻せ」
「な、ローズナリアとの結婚式が迫っているのですよ!?」
父は濁り切った目で俺を睨んだ。
「じゃあ何か、お前が枯れた川に水を流すことができるのか?」
そう問われて、何も答えることができなかった。
「儂は責任を取らんぞ。お前が全てやったことだからな」
「そんな…」
「いいか、すぐにアクアクォーレを元の水の国に戻せ!」
さっと血の気が引く。
(まさか本当にルナレスカがいなくなったから川が枯れて雨が降らないって?)
そんな馬鹿な、と思う。確かにルナレスカはその手から水を出現させることができた。けれど、まさか、このアクアクォーレの広大な大地の隅々に至るまで、水を循環させていたなんて。
ルナレスカは何度ダンスを練習しても、なかなか上達しなかった。
『今はそれより、南の田畑に雲を集めることに集中したいのです』
俺はそんなルナレスカに対して(これだから庶民は)と何度思ったことだろう。
母上は幼い頃からずっと寝室から出てこないから見たことないけれど、国妃に相応しい振る舞いをしていたと聞くし、ならばやはりルナレスカが駄目なんだろう。
気がつくと、俺はほとんど数ヶ月ぶりに母上の寝室の前にいた。
ノックをしようか逡巡して、やはりやめておこうと踵を返した時だった。
「どなた?」
扉の奥から声がする。
「どなたかしら?いるんでしょう?」
俺は躊躇いながらドアを開ける。
ふわり、と滞留していた風が鼻腔をくすぐる。なんだか埃とカビが混じったような匂いがした。
「……ライウス?」
「…お久しぶりでございます、母上」
見ればところどころに埃が積もっていて、ここにあまり人が立ち寄らないのがわかる。
「母上、ここは…どうしたことですか?随分と、その…手入れがされていないようですが。すぐに使用人に掃除させるように言って……」
「……貴方、人のことが言えて?」
「え?」
「ルナレスカのことをぞんざいに扱う貴方に、人のことが言えるのかしら?」
「母上?何を仰って…」
「水の聖女なんて、所詮は水を与える者。いつから与える側が卑しく、与えられる側が偉くなったのでしょうね」
じとっと嫌な汗が滲んだ。見れば水指の水が枯れている。
「…母上、お茶でもお持ちしましょう」
「結構よ。喉の渇きくらいどうにでもできるから。…動くことはままならなくても、最低限の食事で私は生きていける。だからでしょうね、随分手入れもされていないの。病に倒れるその時まで、この国のために水を与え続けた聖女だと言うのに」
「っっ!」
「貴方にも、聖女の血が半分流れているのに、本当におかしいったらないわ」
(これが、母上なのか?)
記憶の中の優しい母と随分違う。
「…本当に国のことを思うなら、火の聖女とは別れなさい」
「っ!この国は水を売るばかりで、ひとつも発展しない!その点、砂漠の国では美しい調度品がある…それは火の聖女がいたからだ!」
「何が原因でアクアクォーレに火の聖女が生まれてしまったのか分からないというのに?元々は砂漠の国の聖女。然るべき場所にお帰り頂くことも考えなければなりませんよ」
「…母上、貴方も…貴方まで俺を無能だと言いたいのですか!?」
「自分が有能だと勘違いしているような台詞ね。自分の息子ながら恥ずかしいわ。振り回されたルナレスカが本当に可哀想」
ルナレスカ!ルナレスカ!!ルナレスカ!!!
みんなそればっかりだ。
「母上がなんとかしてください」
「何を言っているの?」
「母上も水の聖女だったのでしょう!?どうにかしてください!」
「…それは無理ね」
「なっっ!」
「私にはもう、そんな能力は残っていないの」
今まで、周りがどうにかなんとかしてくれていた俺は、初めての事態に嫌気が差していた。
置いてあった水差しを、床に叩きつける。
「…ライウス、貴方は次期国王に向いていないわ」
「それは父上とて同じことです」
「本当にそうね」
(本当に、腹が立つ)
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