脱出
「フィシィは凄いな、本当に凄い魔法使いだよ」
エルドレッドに褒められフリージアはとても嬉しい。
エルドレッドを驚かせたくて自分なりに魔法の使い方を学んだけれど、どうやらその方法は間違っていなかったらしく、フリージアは大満足だ。
まさか魔法の呪文がニホン語だとは思わなかったけれど、物語の中の異世界ならば納得。
あり得る話だと思う。
それに凄い魔法使いだとも言ってもらえて、それが嬉しい。
前世、自分が出来ることが徐々に減っていき、人にお世話をしてもらうしかなかった日々を思えば今は夢のようだ。体が動かせるだけで奇跡だと思える。
魔法を使えることがただただ楽しくて嬉しかった。
「エルドレッド、ありがとう、私、エルドレッドに褒めてもらえるのが一番うれしいの」
フリージアはエルドレッドの言葉に笑顔を向けた。
褒められてちょっと自慢げだったのは仕方がないと思う。
だってエルドレッドの言葉がそれほど嬉しかったのだから。
「エルドレッド、あの水晶、魔力球はどうするの? 壊す?」
褒められてからちょっと時間がたち、気持ちが落ち着いたフリージアはエルドレッドに疑問をぶつける。
分からないことをすぐに聞ける距離に人がいてくれることが嬉しい。
ここ数日自問自答が続いて、自分的にはあまり成長できていない。
それも聞ける相手は大好きなエルドレッドだ。
エルドレッドを凄い魔法使いだと信じているフリージアは、どんな答えが返ってくるかワクワクしていた。
「うん、壊したい気持ちは山々なんだけど……あの魔力球にはフリージアの魔力がたっぷり詰まっているだろう。だから壊すとそれが一気に飛び出して、この国だけじゃなく世界を壊してしまう可能性があるんだ。魔力を貯めるってことはそれほど危険なんことなんだよ。だからこの魔力塔はいろんな国から危険視されているんだ。何かあった時にこの国が自滅するのは良いけど、巻き込まれて世界滅亡なんて嫌だからねー。まあ、だから僕がここに来たともいえるけどね」
「そうなんだ……魔力球って大きな爆弾みたいなものなんだねー」
エルドレッドの言葉をすぐに理解するフリージアを見て、エルドレッドは良い子良い子と頭を撫でる。見た目通りの小さな子供だと思われているようでちょっと恥ずかしい。
「それにフリージアの魔力が詰まった魔力球を壊してしまうのも忍びないよね……すごく綺麗だからさ」
「綺麗?」
「うん、フリージアの魔力は金色ですごく綺麗だよ」
「えへへ、嬉しいな」
エルドレッドがまた褒めてくれてフリージアは嬉しくなる。
自分のことを綺麗だと言われたわけではないけれど、魔力が綺麗だと言われて嬉しくない訳がない。
フリージアも水晶の中に入れられた金色の魔力を綺麗だなと自慢に思っていただけに、尚更エルドレッドの言葉が嬉しかった。
「この魔力は何に使っているの?」
「あー……国のため? かな……フリージアの魔力を魔石代わりに使っているんだ。灯りをつけたり街を守ったりしてね」
「ふーん、じゃあ、私がいなくなったらみんなが困る?」
「そうだね、困るかもしれないけれど、他の国には魔力塔なんかないんだよ。自分たちの力だけで国を守っている、それがが当たり前なんだ。だからフリージア一人の魔力をあてにしているこの国の方が可笑しいんだよ」
「そうなんだ……」
エルドレッドが言葉を選びながらフリージアに現状を教えてくれた。
フリージアは姫様と呼ばれていたけれど、どうやらその存在は奴隷以下だったらしい。
フリージアは魔力を供給する道具であって、人間扱いもされていなかったと分かる。
あのメイドたちの様子から何となく分かっていたことだったけれど、ちょっとだけ胸が痛む。
フリージアになる前のこの子が不憫で仕方がない。
きっと楽しいことなど何も知らなかっただろう。
自分のやりたいことなど思い浮かべることも出来なかったはずだ。
だから尚更ここから逃げ出さなければと思う。
フリージアは自分の手で、この子を幸せにしたかった。
「フリージア、話を聞いて僕と一緒に行きたくなくなった?」
フリージアは無意識に暗い顔をしていたのかエルドレッドが心配げに声を掛けてきた。
けれどフリージアは首を横に振った。
エルドレッドについていかないなどという選択肢はない。
この国にいる誰にも情などないし、思い入れもなかった。
「エルドレッドと一緒が良い、ここには居たくない……」
フリージアの本心を聞くとエルドレッドはホッとしたようだった。
フリージアは魔力球を見ながら言葉を続ける。
「でも、ここにたまった魔力は無駄にしたくないの、私の頑張った証だから……」
気が付くと涙がポロリと零れた。
この子はずっと一人ぼっち、ここで魔力を絞り取られ続けてきた。
その証をただ放置するだなんてフリージアには出来ない。
壊すこともしたくない。
今のフリージアに何ができるか。
この子をこんな目に合わせた人たちに仕返しがしたい。
そんな気持ちが強くなった。
「この国の人たちは魔力がなくなったら困る?」
「ああ、そうだね。この国の人は魔力や魔法に頼り切っている人たちばかりだからね。一般人でさえこの魔力塔に頼り切りだから、魔力塔が機能しなくなればきっとみんな困るだろうね」
「魔法が使える人は沢山いるの?」
「うん、この国には魔法が使える人は他の国より多いよ。特に王族は魔力量も高いと言われているしね」
「じゃあ、私の魔力がなくなってもその人たちが何とかしてくれるよね」
フリージアは魔力球に近づきそっと手を置いた。
これまで搾取し続けられたものを返してもらうことは叶わないけれど、この子が辛かった程度にはこの国の人たちに困って欲しかった。
「【魔法妨害、弱】」
フリージアは魔力球に魔法を掛けた。
これからこの魔力球の魔力を使い、この国の人たちの魔法を使い辛くする。
そんな思いを込めて呪文を唱えれば魔力球がふわっと金色に光る。
フリージアから取り出した魔力だからか、フリージアの魔法に簡単に反応してくれた。
(ちょっとは困ればいいんだ……この子にずっと酷いことをしてきたんだから……)
そう思っているとエルドレッドに抱きしめられた。
どうやらフリージアはあの後も涙を流し続けていて、今もぽろぽろと泣いていたらしい。
フリージアの体では泣くことなんて初めてで、自分の体には酷く鈍感だった。
「エルドレッド、みんな、嫌い、この国の人、大っ嫌いだよ」
「フィシィ……」
この子を物のように扱ったこの国の王族が嫌いだ。
それにそのことに気付かずフリージアの魔力を搾取し続けていたこの国の民のことも嫌いになっていた。
この子のことを思うと胸が痛くなる。
エルドレッドの胸元でフリージアは声を出して泣いた。
この狭い塔に閉じ込められていた数年間。
この子はきっと幸せとか不幸だとか、何も感じなかっただろう。
それでもこの扱いは許せない。
もう二度と魔法塔へは足を踏み入れることは無いけれど、この魔力球にフリージアの思いを与えたい。
自分の魔力を自分の意志で使い、フリージアは魔法塔とお別れをした。
「フフフ、自分のいたお城初めて見たよ。すごく綺麗だね、それに大きい」
フリージアを抱き上げてエルドレッドは屋根の上にいた。
最後に自分のいた場所を見たい。
そんなフリージアの願いを受け、王城が一望できる屋根の上に二人で上がった。
「エルドレッドは魔法使える? 使いづらくない?」
「うん、魔力塔の魔力は少しづつ流れ出ているから、魔法を使い辛くなるのはこれからが本番じゃないかな? たぶん明日の朝辺りから少しずつ不具合が出て、気が付けば色々と問題が出るはずだよ。まあ、この国には魔法使いが多くいるし何とかするだろうけどね」
「じゃあ、ちょっとの嫌がらせぐらい平気だよねー」
イェネーブル王国の脳なしな王族や役に立たない魔法使いを思い浮かべ、それは無理だろうなとエルドレッドは心の中で笑う。
フリージア的には子供のいたずら、数日間の嫌がらせ、その程度に思っているようだが、大問題になるのは確実だ。あの無能な者たちに何かできるはずがない。
フリージアの魔法の影響は最初は少ないかもしれない、けれどあれだけの魔力を使うのだそれはとても大きく長いものになるだろう。
その間にイェネーブル王国の者たちは自分たちの魔力を上げるか、魔法の精度を上げなければならない。果たして彼らにそれが出来るか? エルドレッドは無理だろうなと思う。
そんな中、いずれ魔法塔の魔力は減っていき使えなくなるはずだ。
そうなった時どうするのか、あの無能な王族では何もいい案など浮かばないだろう。
フリージアと同じぐらいの魔法使いを産むという選択はあるが、確率的には無理だと思う。
フリージアの存在自体が奇跡に近いものだからだ。
この国の資料を見て思った。
フリージアは奇跡の存在。
あの魔力球を一人で動かしていた。
それは神の所業に近いものだった。
そんなフリージアの魔法を超える魔法を使わなければ、魔力球への指示を変えることは出来ない。
それ以前に魔法塔の魔力球に掛かっている魔法をこの国の魔法使いが見抜くことが出来るか、今の時点では無理だろうと分かる。
なのでエルドレッドはフリージアの行動に心の中で感嘆していた。
(殺さず生かさず、この国にとって一番辛い仕返しかもね)
魔力塔に頼り切っていた者たちへの仕返しとしては最高のものだと思う。
フリージアを抱きしめながら、エルドレッドは楽し気な笑顔を浮かべていた。
「さあ、フィシィ、そろそろ行こうか」
「うん、エルドレッド、連れ出してくれてありがとう、私エルドレッドと一緒にいられるのが凄く嬉しい」
「フフ、僕もだよ、フィシィ」
魔力塔に閉じ込められていた第三王女は、この日自らの手で自由を手に入れたのだった。
こんばんは、夢子です。
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