再会
「フリージア、フィシィ、会いに来たよ」
「エルドレッド!」
エルドレッドはフリージアとの約束を守ってくれた。
魔力塔、フリージアの居住区部分。
エルドレッドは今日も扉を開けることなくやって来た。
なんの魔法を使ったかは分からないけれど、エルドレッドの顔を見た瞬間、フリージアの中で喜びが膨らんでいく。
フリージアとの他愛のない約束。
初めて会った小さな女の子との約束を、エルドレッドはちゃんと守ってくれた。
それも他国に忍び込むという危険を犯してまで。
(やっぱりエルドレッドは優しい)
フリージアは迷うことなくエルドレッドに抱き着いた。
前の記憶の中のフリージアだったら、どんなに嬉しくたって男の人に自分から抱き着くなんてできなかっただろう。
だけど今のフリージアの世界には自分以外にエルドレッドしかいない。
だからだろうか、迷うことなく一直線にエルドレッドに駆け寄った。
楽しみにしていたからこそ衝動的に動けたともいえる。
「フィシィ、フリージア……」
抱きしめ返してくれるエルドレッドはフリージアの名を呼んでくれる。
きっと今のフリージアはとても緩んだ顔をしているだろう。
(嬉しい、凄く嬉しい!)
心の中が幸福で満たされる。
この世界を生きることになってまだわずかだけど、自分を無条件で受け入れてくれる人がいる素晴らしさをフリージアは知っている。
「エルドレッドに会えることを楽しみにしてたの!」
歩く練習もして、魔法の練習もした。
エルドレッドを驚かせたくて頑張っていたのだとアピールすれば、エルドレッドは優しく微笑んだ。
「凄い、凄いよ、フィシィ。自分ひとりで魔法を使えるようになるだなんて、フィシィは天才だよ」
「天才? 本当? 私が? えへへ、エルドレッドが褒めてくれると凄く嬉しい。頑張って良かったって思えるの」
子供相手だ、大げさに褒めてくれていることは分るけれど、エルドレッドの気遣いや優しさが嬉しくってフリージアには笑顔が浮かぶ。
魔法がある世界だ、魔法使いはきっと沢山いる。
だからきっとフリージアの魔法など大したことはないだろう。
けれどエルドレッドはフリージアの頑張りを認めてくれた。それだけで十分だった。
「エルドレッドが褒めてくれるならもっと魔法頑張るね」
ここまで来れるエルドレッドは、もしかしたら世界一の魔法使いかもしれない。
そんな相手に自慢したところで「その程度の魔法など」と笑われても可笑しくないのに、エルドレッドはそれをしない。凄いと褒めてくれる。
フリージアの存在を認めてもらえたようで、幸福感に包まれる。
「エルドレッド、来てくれてありがとう」
フリージアに優しくしてくれるエルドレッドがフリージアは大好きだ。
次またいつ会えるか分からないからこそ、尚更甘えたかったし褒められたかった。
エルドレッドに認められたい。
その気持ちが今のフリージアのたった一つの糧となっていた。
「僕はちゃんとフリージアとの約束は守るからね」
「うん!」
この時間を楽しみにしていたフリージアは、エルドレッドに会えてそれだけで幸せだった。
「フィシィ、凄く体調がよさそうだけど、どんな魔法を使ったの?」
ベッドの上、エルドレッドがフリージアを抱っこしながら体調のことを聞いてきた。
確かに一週間前は起き上がることさえ辛かった。
そう考えると、今のフリージアは魔法を使ったように元気に見える。
この世界の魔法を知っているエルドレッドでさえ驚いているようだ。
「あのね、魔法で灯りを着けられたから、自分の前の言葉が魔法に使えるって分かったの」
「前の言葉?」
「うん、生まれる前の言葉。フリージアになる前の女の子が持ってた記憶。その時使っていた言葉が魔法に使えたの、だからね、これ」
「足枷?」
「そう、この足の輪っかに【供給停止】って魔法を掛けたの、そしたら魔力が吸われなくなって体が凄く軽くなったの……今までと全然怠さが違うの、もうちょっとしたら一日中起きていられる気がするんだー」
「……」
生まれる前の記憶、と聞いてエルドレッドは驚いた。
世間を何も知らないフリージアがそんな嘘をつけるはずがないし、彼女が話せることも、知識があることも、その記憶のお陰だというのならば頷ける。
エルドレッドは凄く驚たけれど、笑顔を保ちフリージアの頭を撫でた。
「フィシィには驚かされてばかりだ……」
「うん、エルドレッドが驚いている顔、私大好き」
フリージアの記憶は古代魔道具と長い時間繋がっていた弊害なのだろうか。
魔法の呪文は古代語だと言える。
どうやらその時代の言葉をフリージアは覚えているらしい。
古代語を自由に扱えるとしたら物凄いことだ。
この先どれ程の魔法が使えるようになるのか。
エルドレッドはゾクリと身震いを覚えた。
「じゃあ、この足枷をフィシィなら壊せるかな?」
「えっ……? 壊すの?」
「そう、足枷を壊せたら自由に動けるから、僕と一緒にここから逃げられるでしょう?」
「えっ……私、エルドレッドと、一緒に行ってもいいの……? 本当に?」
「うん、勿論だよ。逃げられるならフィシィをこんなところに置いておきたくないよ。僕の傍に居ればいい。二人でずっと一緒に居ようよ。勿論フィシィが嫌じゃなければだけどね」
「嫌じゃない! 嫌じゃないよ! 凄く嬉しい!」
フリージアは嬉しすぎる提案を聞いてエルドレッドに抱き着いた。
子供を受け入れる、それは簡単なことではない。
特にフリージアは特殊な生まれだと自分でも分かる。
なのにエルドレッドはそれが当たり前のようにフリージアに提案してくれて、逃げようと誘ってくれた。
フリージアが魔法を使えたからかもしれない。
フリージアに魔力がいっぱいあるからかもしれない。
だけど理由なんて何でもいい。
「エルドレッド……ありがとう」
この閉塞的な空間から逃げられて、エルドレッドと一緒に居られるならば、フリージアは他のことはもうどうでもよかった。
「うーんと、エルドレッド、この足枷どんな感じで壊したらいい? ボロボロにする? それとも割った方が良い? それか私の足だけ抜けた感じにするのが良いのかな?」
抱き着いてきたフリージアを宥めて落ち着かせれば、足枷の壊し方の提案を幾つもしてきてエルドレッドは驚いた。
どうやら壊し方にも違いがあるらしい。
エルドレッドはそのことに驚いたし、古代語のレパートリーが多いフリージアの凄さにまた驚きもした。
「そうだねー、壊さずフィシィの足だけ抜け出せた方が良いかな? どうやって逃げたのか、この国の人には出来るだけ分からない方が良いだろうしね」
「そうか、そうだね、じゃあどうしようかな……」
どう壊したとしてもきっとこの国の連中には足枷が何故壊れたかなど分からないだろう。
それでも足枷があるなら大丈夫だと油断しているこの国の王族にフリージアの凄さを見せつけてやりたい。
(フリージアの実力に驚き恐怖を味わえばいい)
まあ、あの連中では逃げたかどうかも分からないだろうが、こんなひどい扱いを受けるフリージアを思えば仕返しには足りないぐらいだった。
(フィシィを失って後悔すればいい)
エルドレッドはイェネーブル王国の王族への嫌悪を心の中で浮かべながら、うーんと唸るフリージアを見つめていた。
「【破壊】はダメだよね? じゃあ【鍵解除】かな? ううん、簡単に【足通過】でいいかも、【足通過】」
ぶつぶつとフリージアが呟いた後、決めた呪文を唱えれば足が足枷から綺麗に抜けた。
いとも簡単に。
エルドレッドは分かっていたけれど、フリージアのその能力を目の当たりにして驚きと興奮が隠せない。
「エルドレッド、出来たよ、足が抜けた!」
喜ぶフリージアをエルドレッドは抱きしめる。
「凄い、凄いよフィシィ! 君は世界一の魔法使いだ!」
エルドレッドの言葉はお世辞でもなんでもなく本心だ。
今まで自分と同等ぐらいの魔法使いはいても、魔法に関し全く歯が立たないと思った相手はいない。
だからこそフリージアの凄さが分かる。
「やった、世界一なの? 凄く嬉しいな、えへへ」
フリージアの年齢は十三歳だとエルドレッドは知っているけれど、やったと言って喜び、エルドレッドに褒められ抱き着く姿はそれよりもずっと幼い子供のようだ。
純粋で可愛くって、世界一危険な女の子。
フリージアはエルドレッドをどこまでも惹きつける不思議な子だ。
手放すだなんてもう考えられない。
一生傍に置くと、もう決めていた。
「私ね、エルドレッドが喜んでくれることが一番うれしいの」
「そうか、そうなのか」
「うん」
甘えられれば可愛いと思うし、魔法を見ればゾクゾクとして好奇心が煽られる。
この子のことをもっと知りたい!
初めて自分以外の人間に興味を持ったエルドレッドの心は歓喜に満ち溢れていた。
(きっとフェリックスは驚くだろうなぁ)
フリージアを連れてラスター王国へ帰ったら、従兄弟であるフェリックスはどんな顔をするだろうか。
そして彼女の魔法の凄さを知ったら、フェリックスは言葉を失うかもしれない。
フェリックスならば彼女を無下にはしないと思うが、もし消そうと考えるようならエルドレッドはフェリックスとも戦うだろう。
それほどフリージアという不思議な少女に惹かれてしょうがない。
次は何を見せてくれる?
そんな楽しみが溢れる。
「これでエルドレッドと一緒に行けるよね?」
「うん、フィシィ、大切にするから僕と一緒に逃げよう、ここから出よう」
「うん!」
自由とエルドレッドの傍に居られるという約束を得られたフリージアは、初めての幸福感に満たされ、未知の世界へ飛び込んだのだった。
こんばんは、夢子です。
いつも応援ありがとうございます。
ブクマや☆も感謝しております。
イェネーブル王国でのお話もあと少しです。




