王城内と噂
変装をしたエルドレッドは王城内を堂々と歩いていた。
エルドレッドの姿を見ても気にする者はどこにもいない。
先ほどすれ違った兵士などは見慣れぬはずのエルドレッドを見ても何も感じないのか、同僚と笑い合ったまま警備を続けていた。
兵士でありながら警備というものの意味を分かっていないようで失笑がこぼれる。
(巡回している兵士たちもただ歩いているだけだな、会話しながら歩いている時点でダメだ。警備役としては落第点だ、いや失格といった方が良いか)
ラスター王国であれば、そんな怠慢な警備をしていれば見つかった瞬間に不適正としてクビになるところだろう。
魔法塔があるから許される甘え。
魔法塔が壊されることなどあり得ない、この国に住む国民皆がそう思っているのが分かる兵士の態度だ。
ラスター王国だけでなく、他国も魔法塔を壊そうと考えたものはいるはずだ。
けれどあの魔力球を見ればそれが無理だと分かる。
他国にも闇ギルドもあれば、国の諜報部隊もある。
この国に忍び込んだ者だってエルドレッドだけではないはずだ。
(フリージアに気付いた者もいる可能性はあるか……)
ただあの子は不思議な子だ。
エルドレッドも声を掛けられるまでフリージアの存在に気付かなかった。
気配を消す魔道具が仕掛けられている可能性もあるが、フリージアの無意識な魔法の可能性が高い。
あれだけの魔力持ちだ、エルドレッドの知らない魔法を使っても可笑しくはないだろう。
使用人服を盗み出し、何食わぬ顔で今度は魔法管理部へ向かう。
魔法使いたちの多くが勤めるこの国自慢の機関だが、エルドレッドがそこに足を踏み入れてみると呆れしかなかった。
集まる魔法使いたちの程度が低い。
魔法の精度を上げる勉強をすることもなく、戦いのために体を鍛えることもなく、最低限の仕事をこなすだけ、自分たちの地位にしか興味がない人間ばかりだった。
魔法使いというだけで、この国では重要視される。
だからだろう、誰もが偉そうで非魔法使いを馬鹿にし、下に見ているようだった。
「そういえば……昨日、魔法塔で灯りが光っていたと聞いたが、誰か知っているか?」
部長らしき人物が室内にいる魔法使いたちに声を掛けるが皆疑問顔だ。
魔法探知が出来ないのか、他人の魔法に興味などないのか、あり得ない場所で魔法が使われると聞いても何も興味を感じないらしい。
これがラスター王国であればすぐに誰かしらが調べに入るだろうし、何故あの場に灯りが? と疑問が浮かぶはずだ。
実際、エルドレッドもフリージアに何かあったのではないかと一瞬心配になった。
ただ暗殺するような者が灯りに気を付けないなんてことはあり得ない。
そう考えるとフリージア自身が何かの魔法を使った可能性が高かった。
誰にも魔法を教わらずに魔法を使いだしたフリージアに益々興味がわく。
あの子を自分の元に連れて帰ることが出来たならば、世界一の魔法使いを作ることも可能かも知れない。そんな答えに行きつきエルドレッドは声をだして笑いそうになった。
「この俺が誰かを育てたいだなんて思う日が来るなんてなぁー」
周りの人間に愛情なんて持ったことはない。
しいて言うならば幼いころに母親の愛情を欲した、それが最悪の記憶だろうか。
従兄弟であるフェリックスのことも最初は信用もしていなかったし、声を掛けられても相手にもしていなかった。
依頼を受けることで少しずつ友のようになってはいったが、愛情があるかと言われればノーと簡単に答えるだろう。
流石にフェリックスへの殺しの依頼を受ければ戸惑う気持ちはあるが、依頼内容によっては受けることが出来る。
例えばフェリックスが無能な王であったり、エルドレッドの領域を犯すようなことがあったり、国民に愚策を強いたりすれば、だ。
今のところフェリックスは良い王だ。
闇ギルドに暗殺の依頼があることもあるが、それは敵対貴族、王を差し替えたい愚かな貴族からのものでありエルドレッドは突っぱねているし、そんな依頼があったことをフェリックスに教えてもいる。
他人などどうでもいい。
自分に迷惑をかける存在でなければ後はどうなってもいい。
この世界など、無だ。
何も感じない、自分の周りが平穏であればそれで良い、そう思っていたのに……
フリージアのことだけは別だった。
あの子を救いたいと、こんな自分がそう思うのだから不思議でしょうがない。
それだけ未知の魔法使いであるフリージアに魅了されていると言ってもいいだろう。
「ここからだと魔力塔が良く見えるな」
王城の屋根へと上がり、フリージアがいるだろう魔法塔へと視線を向ける。
イェネーブル王国の王城内については調べはついた。
もっと時間がかかると思ったが、思った以上に緩い王城内の警備に情報はあっという間に揃ってしまった。
騎士や兵士の練度も、魔法使いの程度も把握した。
魔法塔以外にこの国には脅威はない。
王族など愚の骨頂。
放っておけば自滅する程度の人間だ。
それがエルドレッドが出した結論だ。
だからこそ厄介でもある。
魔法塔を壊す算段が未だに付かないからだ。
「あれが灯りか……綺麗な色だ……」
魔法塔の上部部分、強化ガラスになっている先端が、灯台の明かりのようにポッと光り暖かい色を彩る。
オレンジ色に近い温かい光が遠くからも見え、フリージアの魔力の強さを感じた。
「護衛も魔法使いもまったく気にしていないようだな」
エルドレッドが気づいているのだ、あの光に気付いた者が他にいても可笑しくはない。
魔法使いの間で噂に上がっていたほどなのだ、誰かしら確かめようと動いても良いものなのだが、この国ではそんな面倒なことをする者はいないようだった。
魔法塔は自分たちの管轄外。
王族のエリア。
王族同様、自分のことしか考えていない王城内の人間にエルドレッドは呆れていた。
「まあ、俺も人のことは言えないけどな」
そう言い残し、エルドレッドは屋根の上を軽々と駆けていく。
今夜はフリージアと約束をした日。
本当は王城内を調べるよりも先にフリージアと会いたかった。
けれど彼女に会って他者に怒りが沸くようなことがあれば、自分が何をしでかすか分からなかった。
先に用事を済ませ、仕事を終えてからフリージアに会いに行くべき。
そう自分に言い聞かせていただけに、魔法塔へ向かうエルドレッドの足は軽やかだった。
あの強く温かい灯りを自分の力だけで習得したフリージア。
今日はどんなことでエルドレッドを驚かせてくれるのか。
そんな期待が膨らんでいたのは確かだった。
「フリージア、フィシィ、会いに来たよ」
魔法を使い、魔法塔の居住区、フリージアの部屋へ入ればフリージアが笑顔で駆け寄ってきた。
「エルドレッド! 良かった、本当に来てくれた!」
駆け寄ってきたフリージアを抱きしめながら、エルドレッドは驚く。
てっきりベッドの上で寝ているだろうと、横になっているだろうとそう思っていたフリージアが、小さな子供が親に駆け寄るかのようにエルドレッドの下へ走って来たのだ、驚きしかない。
「フィシィ、凄いよ! 歩けるどころか走れるようになったのかい?」
エルドレッドの驚く言葉を聞いて、フリージアが笑顔を向けてきた。
「うん、エルドレッドを驚かせようって思って頑張ったの、えへへ、凄いでしょう?」
照れ笑いを浮かべるフリージア。
その姿にギュッと胸を掴まれたような、不思議な痛みをエルドレッドは覚えた。
「ああ、凄い、フィシィはとても凄い子だよ」
エルドレッドその言葉にフリージアはとても可愛い笑顔を浮かべたのだった。
おはようございます、夢子です。
お仕事へ向かう皆さま週末ですね、お互い頑張りましょう。w
ブクマ、☆などの応援もありがとうございます。
やる気頂いております。




