イェネーブル王国王城
残虐だと思われるような言葉があります。苦手な方は飛ばしてください。
ラスター王国の国王であり依頼主でもあるフェリックスへと魔法塔内の報告を終えたエルドレッドは、イェネーブル王国へ戻り王城内へと潜伏していた。
イェネーブル王国の防衛は思った以上にガバガバで、古代魔道具を使っているという安心感からか、護衛中に探査を掛けるものも、兵士の中に魔法を使って入城者を確認する者もいなかった。
エルドレッドも軽い変装をしただけで、王城内へ簡単に入場が許可された。
前回、フェリックスからの依頼を受け、魔法で隠蔽しながら細心の注意を払い城へ潜り込んだことがバカらしく思える。
それほどこの国は無防備で、危険だ。
巨大な力を持っているから尚更危うい国ともいえた。
それと共に魔道具の使い方の粗さにもエルドレッドは顔を歪ませる。
個人が使う魔道具ならば自分自身の魔力が元なのでなんの問題もないが、王城内に設置されているランプなどの魔道具は全てフリージアの魔力が元だろうし、街に設置されている大掛かりな魔道具もフリージアの魔力ありきなはずだ。
フリージアの青白く不健康な肌の色や、折れそうに細い体を思い出せば、魔力をもっと節約しろ、魔道具を気軽に使うなと言いたくなるがグッと我慢する。
一部のものを除いて彼女のことは隠匿されている。
騎士や兵士、ましてや街の者がフリージアの存在を知るはずがない。
あって当たり前のもの、使うことが当然のもの、そんな認識の元国の魔道具を使っているのだ、それは仕方がないことだった。
(一度しか会っていないのに、俺はすっかりフィシィを身内扱いしてるみたいだな……)
エルドレッドにとってこんな感情は初めてだった。
これまで誰かに対し執着したことなど一度もない。
しいて言うならば、生みの母の愛情を欲して良い子にしていた幼い時ぐらいだろうか。
それも彼女の行動と言動により早々に諦めた。
彼女はエルドレッドの父親を愛していたわけではない。
いい金づるだと、自分の身を護るための相手だと思ったから子を成しただけだ。
それもエルドレッドが魔法使いだと分かると母親はさっさと売りに出した。
魔法使いは高値で売れる、それを分かっていたからだ。
だから誰かに期待することも愛することも早々に放棄していたエルドレッドだったけれど、なぜかフリージアだけは別だった。
生まれたての赤子のような純粋な瞳を会った瞬間に向けられたからかもしれない。
それにエルドレッドの袖をつかみ離れることに対し寂しがる様子を見れば、可愛いとそんな感情が沸いた。
なによりもフリージアにはあの大きな魔力球を潤せるほどの魔力がある。
彼女の存在自体にエルドレッドが興味があることは確かだった。
できれば自分の傍に置いてあの子を育ててみたい。
魔法使いとして教育してみたい。
家族愛とか、友情とか、恋愛など全く信じていないエルドレッドだけれど、なぜかフリージアだけは別だった。幼いころの自分に近い存在だからだろうかと、最後はそんな解釈に落ち着いた。
「あれが国王か……クズだな……」
エルドレッドはまず国王ハンフリー・イェネーブルを調べた。
噂通りの傲慢な国王に対し、強く出れるものはこの国にはいないようで、側近たちも彼の言いなりだった。
時折何かミスをした者を見つけてはハンフリーは魔法は使わず棒で叩いて罰を与えていた。
腰に剣を携えてはいるが、簡単に殺してしまってはつまらないとその顔が言っている。
ハンフリーには一応魔力はあるようだったが、魔法が使えるかは怪しい。
勤勉ではなさそうなハンフリーでは簡単な呪文も覚えていなさそうだった。
そんな単細胞なハンフリーは、人が怯える姿を見て楽しんでいるようだった。
なので魔法が使えなくて良かったと言えるだろう。
魔法が使えれば側近は全員死んでいた可能性もある。
こんな人間が国王ではこの国の民は辛いはずだ。
いや、この国の民は豊かなので国王が誰でもどんな奴でも関係ないかもしれない。
魔力があることでイェネーブル国は豊かだ。
政治など行わなくとも土地は富み災害も防げている。
だからこそ国王は尚更傲慢になっているのだろう。
全て自分のお陰だと、そう思っている可能性もある。
エルドレッドから見ればハンフリーは人として終わっている印象だった。
善悪が付かない子供のまま育った男。
イェネーブル国の国王はそんな男だった。
そしてハンフリーの息子である第一王子は、国王の息子らしい性格をしていた。
こちらは尚更質が悪い、残虐行為が好きな性格らしく、常に虐める相手を欲していた。
第一王子は多少魔法を扱えるようで、使用人を殺さない程度に痛めつけて遊び、血を見ては喜び、苦しみ叫ぶ姿を見て笑っていた。
第二王子はそんな第一王子に怯えているのか、自分の部屋から出てこない引きこもりで、自室で我儘を言っている状態なだけマシだった。
ただ性格的には卑屈で、目が合うものがいれば自分を馬鹿にしていると思うのか、蹴る殴るなどの暴力を与えていた。どうやらこの第二王子は魔力がなく魔法が使えないようだ。それもコンプレックスの一因のようだった。
だからこそ魔法が使え攻撃的な第一王子に怯えているのだろう。
国王や王妃に呼ばれない限り、部屋から出ることもないようだった。
そして残りの子供は第一王女と第二王女だ。
この二人は見目ばかりを気にしていて着飾ることに夢中だった。
そして自分たちの傍には美しい男たちを揃えていて、自分たちの美しさを褒めたたえさせ、男たちが喜んで傅くように教育していた。
第一王女は魔力はなく、既に結婚適齢期を迎えているのだが結婚はしておらず、恋人という名の、自分の言うことを何でも聞いてくれる男を傍に置き、永遠に王女でいることを望んでいた。
第二王女も姉と同じだ。
結婚して王族でいることを抜ける選択肢は彼女にもないようで、恋人にはどの男が良いかと姉と話し合っていて、学生である年齢ながらも勉強などしている様子はまったく見受けられなかった。
彼女もまた少しは魔法を使えるようだが、その魔力はとても弱く、エルドレッドがギリギリ感知できる程度だった。本人も進んで魔法を使っている姿はなく、自分自身が魔法を使うという意識は無いようだった。
「愚かな王族だ……」
魔力があるということがここまで人をダメにするのか。
自分たちこそが世界の頂点にいる。
この国は安泰。
彼らはそう思い込んでいるようだった。
そして王の妃は五人もいた。
妾を入れれば手の指では足りない程だ。
ハンフリーは好色男子そのものだ。
妃たちは皆それぞれ美しい顔を持っていて、国王に気に入られる努力をしているようだった。
金遣いも荒く、自分を引き立てる物を欲しがり、商人をどの妃も呼び出しては美を競っていた。
そんなこともあり、エルドレッドは簡単に城に忍び込めたのだ。
城へ向かう商人の一団に紛れれば気づかれることも調べられることもなかった。
魔力塔を壊すよりも国王の首を落とす方が簡単。
そう思ったがそれは依頼ではない。
それに王が死ねば次の王が立つだけ、この国が変わるわけではない。
それにあの第一王子が国王になれば、この国はもっと傲慢になるだろう。
「あれがフリージアの家族とはね……」
フリージアの存在は簡単に調べ出せた。
魔法塔を管理している管理課に忍び込めば第三王女の資料があり、それがフリージアのことだとすぐに分かった。
フリージアは魔力供給のために作られた子供だった。
国王はともかく、他の王族は妹の存在など知らないだろう。
一般人の中から魔力を持つ女性を集め、国王と子を作らせ、その中で莫大な魔力を持って生まれたものがフリージアだった。他にも数名魔力持ちの子は生まれたようで、空いた数字の王子か王女と呼ばれ、彼らに正式な名をつけられることはなかった。彼らは魔力を持っていたが、その生活に耐えられず魔法塔の中で数年で亡くなっていた。
王の子を産んだ妃でない母親たちは全員口封じに始末されている。
魔力を持たずに生まれた子供も同様だ。
生まれた瞬間に処理されていた。
妃になれない程度の女性から生まれた子供など、国王の子として認めることは出来ない、そう判断されたようだ。
だからこそフリージアも第三王女とは書かれているが、王女として扱われている訳ではない。
死なない程度に大切にしている、フリージアは道具と一緒だ。
魔力塔に閉じ込められ、一生をそこで過ごすために作られた子供、それがフリージアだった。
年齢は十三歳、けれど魔力を搾取し続けられたため見た目はそれよりもずっと幼い。
フリージアに知識を与えないため、そして自ら命を絶たないよう、彼女の住まう魔法塔には何も置かないように厳命され、会話を交わすことも禁止されていた。
彼女付きのメイドは奴隷だ。
彼女のことを漏らさないように命で縛っている。
魔法塔を守る護衛は奴隷ではないが、魔法契約で縛られていてフリージアのことを外で話すことは出来ない。
護衛は金が欲しい低位貴族の末子が就いているようだったが、辞めた者に大金が支払われた痕跡はなかった。
きっと消されているのだろう。
貴族の子であっても持て余している子供だ。
人の命を何とも思わない王族の家臣たち。
エルドレッドには簡単に想像ができた。
「こんなところにフリージアは置いておけないよ……」
魔法塔内にある魔力球を壊す算段は付かないままだったが、イェネーブル王国を調べれば調べるほど、フリージアを救いたいと、そう願ったエルドレッドだった。
こんばんは夢子です。
本日もよろしくお願いします。
ブクマ、☆など応援も有難うございます。
エルドレッドが俺と言ってますが間違いではありません。
イェネーブル王国はクズ王族にしたかったのですが……なかなか難しかったです。




