フリージアの特訓
フリージアが起きていられる時間は、少しずつだが伸びている気がした。
彼女の中でフリージアという存在が目覚めたからか、それともフリージアが一生懸命歩く練習をして体力をつけ始めたからか、それとも魔力球に魔力を吸われたくないと願っているからか、それは分からないけれど、ほぼ一日中寝ている状態だったフリージアが、今では一日の半分ぐらいは起きていられる状態になっている気がして嬉しい。
(明日、明日にはエルドレッドが来るよね……)
ちゃんとした日にちは分からないけれど、メイドが来る日を数えれば明日がエルドレッドと会った日から一週間となる。
また来ると約束をしてくれたけれど、来ないかもと不安になる気持ちと、絶対に来てくれる、という気持ちがフリージアの中で鬩ぎ合う。
エルドレッドだけがフリージアの中で”人間”なのだ。
人間の形をしているけれど、フリージアに会いに来るメイドを人とは思えない。
何故ならここに来るメイドも扉の外で待機している護衛も、フリージアのことを「姫様」と敬っているような言葉は発するが、実際はフリージアを人だとは思っていない。
人形というか、物というか、フリージアに意思があるということに彼らは思い至らない。
ここ数日でフリージアにも起きている時間が出来たから分かる。
フリージアはこの魔法塔に閉じ込められ魔力を搾取し続けられている人間という名の”物”なのだ。
つまりフリージアは彼らからしたら魔力を送る機械ともいえる。
感情など何も持たない、人間の形をした物を彼らが人だと思うはずがない。
フリージアが声を掛けたことにあのメイドたちが驚いたのも納得だ。
物だと思っていたものが突然動き喋り出したのだ、驚いて逃げるのも当然だったと思う。
そんな相手に対してフリージアが何かの感情を持てるわけがなかった。
(この子はどこまで自分のことを分かっていたのかな……)
フリージアになる前のこの子は、体が全く動けなかったのかもしれない。
だけど意識が覚醒する時間だってあったはずだ。
その時にメイドたちの言葉やこの部屋の様子を見て何かを感じられたのだろうか。
フリージアの中にもう本当のこの子はいない。
魔力の吸われ過ぎで彼女の意思というものが消えてしまったのか、それとも自分の体を自ら放棄してしまったのかはもうフリージアには分からない。
この子が消えた理由は何も分からないけれど、この魔力塔で過ごした日々を思うとフリージアは消えてしまったこの子が哀れで仕方がなかった。
(悲しいことも分からなかったかもしれないな……)
この子に楽しいことなど何もなかったかもしれない。
生まれてから一度も食事をしていない可能性だってある。
それに寝て過ごすだけで、学ぶことも経験を積むことも何もなかった。
無、というのは一番残酷なことだとフリージアは思う。
ただ、いなくなってしまったこの子がそのことに気付けたかは分からないけれど、こんな環境にこの子置いた人間を許すことは出来なかった。
「私が貴女を幸せにして見せるからね!」
自分に今できることは少ないけれど、必ずここから逃げ出してみせる。
そして普通の幸せというものをこの子に、フリージアに教えてあげるのだ。
大きな目標が出来たフリージアの心には強い決意がともっていた。
「うーん、体に魔力があるってことは、私も魔法が使えるってことだよね……?」
沐浴の様子を見ていると、メイドが使っているのは魔法ではなく魔道具のようだった。
薄目で見ただけなのではっきりとは分からないけれど、呪文を唱えている様子はないし、メイドたちの魔力を感じることもなかった。
それに何か物を置いた音や、スイッチを入れる小さな音を感じた。
魔道具があることはこの魔法塔があることで分かっていたけれど、目を開けて見てみたいと自分の好奇心を抑えるのが大変だった。
「エルドレッドはどうやって魔法を使っていたんだろう……」
扉を開けず入ってきたエルドレッドは絶対に魔法を使っていた。
護衛たちに気付かれていない時点でかなりレベルの高い魔法使いであることは分る。
他国の諜報員だと言っていたし、エルドレッドはきっと凄い人なのだろう。
エルドレッドに会った日、すぐに寝てしまったのが悔やまれる。
もっと沢山話をして、この世界のことを色々と知りたかった。
フリージアは何か考え始めると、最後にはエルドレッドへと行きつく。
彼女の中では今はエルドレッドが全てで、彼だけが自分以外の生きている人間扱いなのでそれも当然なのだけど、只々エルドレッドに会いたい気持ちが溢れてくる。
「ライト」
灯りをともそうと願いながら思いつく呪文を唱えてみた。
残念ながら何も起こらず、自分の呪文が違うと分かる。
「ルーモス」
小説の中の有名な呪文を唱えてみたけれど、こちらもやはりだめだった。
分かっていたことだけど、がっかりだ。
エルドレッドにちょっと良いところ見せたかっただけなのだが、思ったよりもダメージは大きかった。
「はあ、日本語で言ったら発動したりするかな【ちちんぷいぷい】? いや、【灯りよともれ】とか?」
ダメもとで思いつく言葉を言ってみれば、ポッと指先に灯がともる。
驚きすぎて声が出ないけれど、下に護衛がいる以上、魔法が使えて嬉しいと叫び声をあげることは出来なかった。
「ってことは魔法の呪文は二ホン語を言えばいいってこと?」
そろっと足の輪っかに視線が行く。
この足枷がなければ自分の体はどうなるだろうか。
体力ももっと回復し、体も自由になるのではないか、当然そんな考えが浮かんだ。
「うーん、なんて言えばいいのかな? 【魔力供給停止】? とか?」
足にはめられた輪っかに触りながら思いつく言葉を呟く。
すると、自分の体から流れていた血がやっと止まったような、抜かれていたエネルギーが落ち着いたような、そんな不思議な感覚を覚え、フリージアは魔法に成功したことが分かった。
「まさか二ホン語とはね……」
この世界の歪さには苦笑いしかないが、二ホン語であればフリージアは無双状態、どんな魔法でも使えることになる。
その上、小さなころから、いいや、きっと生まれたころから魔力を抜かれ魔道具に提供していたフリージアは、魔力だって大きいはずだ。
実際今日初めて魔法を使ったのにまったく疲れていない。
魔力球に魔力を吸われなくなった今なら、何度でも魔法を使える気がした。
(うふふ、エルドレッド、驚くだろうな)
フリージアは自分に出来る大きなことがあると分かり、それが嬉しかった。
エルドレッドに会ったら自慢しよう、そんなことを思えば自然と口元が緩んだ。
「魔法が使えれば、ここを出ても何とかなりそうだよね……」
もう少しここで魔法の練習をして、色々なことが出来るようになったら魔法塔から逃げ出そう。
きっと何とかなる。
自分なら色んなことが出来る。
フリージアは自分の未来に希望が湧き、笑顔が浮かぶ。
「眠くなるまで特訓しよう」
魔法が使えて嬉しくなったフリージアは、夜遅くなっても魔法の練習を続けたのだった。
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