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魔力塔の姫君  作者: 夢子
魔力塔

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4/5

侍女と護衛

 フリージアが目覚めると、病室のベッドの上ではなく、やはりそこは魔力塔の中だった。


 真っ白い壁が目に入り(夢じゃなかった)と納得をする。


 どうやら自分がこの世界に来たことは間違いないらしい。


 そして魔力塔という建物の中に一人ぼっちで閉じ込められていることも、間違っていないことをフリージアは理解した。


「エルドレッド……」


 多分昨日の夜だと思われるけれど、昨夜会ったあの青年はそう名乗っていた。


 銀色の綺麗な髪に、紺色の瞳。

 それに美しい顔立ちで、いかにも物語の主人公という様子だった。


 彼はフリージアに会って最初は驚いていたみたいだったけれど、膝をつきフリージアと視線を合わせてくれるエルドレッドはとても優しかった。


「フリージア……フィシィだって……フフフ」


 それにフリージアに名前をくれた。

 黄色い髪だからと花の名前を付けてくれたらしく、可愛い名前でとても嬉しい。


 愛称もフィシィと凄く可愛らしいものを作ってくれた。


 嬉しくって幸せで、自然と笑みがこぼれる。


 この世界に来て不安だったフリージアに神様からのサプライズのプレゼントだ。


 だからなのか、会ったばかりだけれどエルドレッドには好意しかない。


 また会いたいな、とそう願ってしまう。


「エルドレッド、早く来ないかな……」


 一週間後にはまた会いに来てくれると、エルドレッドはフリージアに約束をしてくれた。


 他国の諜報員と言っていたのだ、きっとここに忍び込むのは大変なことだっただろう。


 嘘でも約束してくれた優しさが嬉しい。


 来なければ寂しいけれど、それでも今はエルドレッドがまた来るというのがフリージアの希望だ。


「早く一週間、経たないかな……」


 昨日会ったばかりだというのに、もうエルドレッドに会いたい。

 この世界で知り合いがエルドレッドしかいないため会えないと寂しくって仕方がない。

 

 もし体力があって元気ならばきっと自分から会いに行っただろう。


 約束が叶う確約は無いけれど、今のフリージアにとってエルドレッドとまた会えるということが何もわからないこの世界での生きがいともいえた。


「そうだ、エルドレッドと会うなら、体力、つけないとだよね……」


 どうにか怠い体を起こし、金色に輝く魔力球を見つめる。


 この魔力球に魔力を吸われればフリージアは暫く動けなくなる。


 その吸われる時間がいつなのかは分からない。

 感覚的には不定期な気がする。


 こうやって目が覚めた時も何となく体から力を奪われているような気がするので、魔力自体はずっと吸われているのかもしれない。


 だけど一気に魔力を吸われる時がある。

 その時に急激な眠気が襲ってくるようだった。


「この足枷が壊せればいいんだけど……」


 フリージアのか細い手で叩いたり引っ張ったりしたところで、足に付けられた鎖が外せるとは思わない。

 だったら魔法を使って壊せばいいだろうけれど、そもそも魔法の使い方がフリージアには分からない。


(エルドレッドがいたら魔法を教わることが出来るのになぁ……)


 無理な希望を浮かべてみても現状は変わらない。

 だけどエルドレッドが来るまでに少しでも動けるようになって、もっと長く話を出来るようにしておきたかった。


「……まずは、歩こうかな……」


 鎖が付いている状態では出来ることは限られている。

 本も何もないし話し相手もいないので、この世界の勉強はできない。


 フリージアは起こした体を動かし軽めな柔軟をし、ゆっくり部屋の中を歩く。

 病気の時よりも体は軽い。

 まあ魔力が吸われる怠さはあるけれど、それでも自分の足で歩けることが出来るだけマシだった。


「はあ、もう無理……」


 フリージアの歩けた距離は丸い部屋を往復二周だけだった。

 魔力球のまわりを一回りし、鎖が絡まらないようにベッドのある場所に戻り、同じことをもう一度行えばもうそれで限界。

 体が重くて歩けない。


 疲れたフリージアはベッドに倒れこむように横になる。

 息が上がり、体が苦しくて力が入らない。

 魔力云々ではなく、この体には体力が無い気がした。


「……一週間でどれだけ歩けるようになるかな……」


 エルドレッドが来るまであと一週間。

 驚かせることが出来たらいいなと、睡魔に襲われウトウトする中、フリージアはそんなことを考えていた。





 ふと下の方で誰かの気配を感じた。

 もしかしてエルドレッド?

 そう思ったけれど、塔の下、たぶん入り口あたりで男性と女性の話している声が聞こえエルドレッドではないと分かる。


「今日は姫様の沐浴か? 時間は一時間だな?」


「はい、一時間を予定しております」


「分かった、粗相のないように気を付けろよ」


「はい、承知いたしました」


 姫様、というのはもしかして自分のことだろうか?

 沐浴ということはここでお風呂に入れるということ?

 でもこの部屋にお風呂はない。

 じゃあ別の人の話なのか?


 目をつぶりながらフリージアがそんなことを考えていると、数人の人間が部屋に入ってきたことを感じた。


 気づかれないように薄く目を開ける。

 入ってきた人間は女性が三人、着ているものからしてメイドのようだ。


 手にはフリージアの着替えらしきものや、タオルのようなものを持っている。


 近づいてくる彼女たちに気付かれてはいけないと、フリージアはギュッと目をつぶる。


(今まで顔を合わせたことがないんだから寝たふりが良いよね?)


 そんな考えでいると、一人の女性がフリージアへと声を掛けてきた。


「姫様、失礼いたします。お体を綺麗にさせて戴きますね」


「……」


 メイドに声を掛けられると、フリージアの体がお湯に包まれたように温かくなる。

 これはきっと魔法だ。

 それが分かるとフリージアは嬉しくなった。

 今自分は魔法を体感している。

 寝ているふりをしているのに興奮から笑いそうだった。


「姫様、お着替えをいたしますね」


 着ているワンピース型のパジャマを脱がされ、新しいものを着せられる。

 そして髪を梳かれ、綺麗に整えられる。

 それから体にクリームを塗られ、爪の先まで整えられる。

 顔にも化粧水や乳液らしきものを塗られ、フリージアの沐浴はあっという間に完了した。


「姫様、沐浴が終了いたしました。次はお食事を与えますね」


 食事を与えるとは変な言い方だなと思っていると、口に瓶を入れられドロッとしたものが口内に入ってきた。ゼリーがドロドロに溶けたようなもので触感はあまり良くない。

 味も無理矢理薬を甘くしたような独特な味であまり美味しくなくて驚く。


(もしかしてこれが私の食事?)


 驚いて飲み込めないでいると、グイっと顎を上げられ、ドロドロしたものを無理やり喉の奥に流し込まれた。


「……っ!」


 思わずその不快さに「ゴホッ」と咳き込んでしまう。

 フリージアが起き上がり、涙目になりながらゴホゴホと何度も咳き込めば、傍にいたメイドたちが真っ青な顔になっていた。


「ゴホッ、ゴホッ、ゲホッ……」


「ひっ!」


 涙目のフリージアと目が合うと、メイドたちが震え、小さな悲鳴をあげる。

 それと同時にフリージアの咳が聞こえたのか、ドンドンと扉を強く叩く音が聞こえてきた。


「おい! 何があった! 出てきて説明しろ! おい!」


「ひぃ!」


 男性の怒声が聞こえ、メイドたちの顔色はますます悪くなる。

 それに自ら起き上がり、咳き込んだフリージアと目が合って怖がっているようだった。


「あ、あの……」


「キャーーーーーッ!!」


 怖がらせないように気を付けながら勇気を出し声を掛ければ、メイドたちは大きな悲鳴を上げて扉へと走っていった。

 そしてバンッと大きな音を立ててフリージアの部屋を出ると、扉の外で護衛たちが止める声も聞かず魔力塔を駆け出していったようだ。


「そんなに驚かなくても……」


 あのメイドたちはいつも寝ているフリージアが起き上がったことに驚いたらしい。

 人形のように動かない存在のフリージアが声を掛けたことも不味かったのかもしれない。


 だけどあんなものを飲まされて平気でいるのは無理だった。


 それと共に、この子はこれまであんなものしか口に出来なかったのかと思うと、フリージアの胸の中に悲しみが広がっていった。


(フリージア、ここから出たら絶対に美味しいものを食べさせてあげるからね)


 扉の外で護衛が騒ぐ声を聞きながら、フリージアはそう誓う。


「おい、お前たち待て! 姫様に何があったんだ!」


 どうやら護衛たちはフリージアの部屋に入ることは出来ないらしい。


 きっとそれも魔法なのだろう。


 どんな魔法が使われているのか、フリージアは知りたくて仕方がない。


(エルドレッド、話したいことが沢山あるよ……)


 その後、沐浴に来たメイドたちはもう二度とフリージアの下へ来ることはなかった。


 翌日、同じようにメイドが数名部屋に入って来たけれど、今日来た彼女たちとは別のメイドで、不味い薬は少しだけ味が変わり、もっと水に近い状態になっていて飲みやすいものに変わっていたのだった。

こんにちは、夢子です。

本日もよろしくお願いします。

☆やブクマなどの応援も嬉しく思っております。


フリージアの髪は黄色という表現が出ますが濃い金髪です。

床まで付きそうなほどの長さがあります。


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