お泊り会
「エイブリー様、カミラ様、また来て下さって有難うございます」
「フリージア様、こちらこそお誘いありがとうございます、今日を楽しみにしておりましたわ」
「フリージア様、私も楽しみにしておりました。それにまたお会い出来て光栄ですわ」
フリージアの初めてのお茶会での出来事は、当然ティエルノ家の両親の耳にも入り、フリージアの友人にはエイブリーとカミラが良いのではないかと話し合われた。
何より二人はフリージアの母親役であるアラベラに憧れ尊敬している。
それにあのお茶会でセレニティ侯爵令嬢から責められたフリージアを二人とも守ってくれた。
特にエイブリーの方は社交が得意な令嬢のため、他人の感情に疎くぼんやり気味なフリージアの良い相談役にもなってくれるだろうと、両親も大絶賛だった。
そんなこともあり、フリージアは二人に手紙を書き、友人として泊りに来ませんか? と誘ってみた。
二人はすぐに返事をくれ、『是非』と了承してくれての今日である。
フリージアは初めてのお泊り会に興奮気味だし、お友達が出来て浮かれてもいた。
前の記憶の中にもこんなイベントは無かったため、嬉しさが顔に出ていることを自覚していたりもする。
「あの、こちらが私の魔法の先生で、エルドレッド……エルドレッド・オースキュリダ様です」
「エルドレッド・オースキュリダです、皆様よろしくお願い致します」
二人にはまずフリージアの大事な人であるエルドレッドを紹介すれば、その見た目の美しさに驚きポッと頬が染まる。
そんな二人を見ればやっぱりフリージアが思うだけでなく、エルドレッドはこの世界でも美しい顔立ちなのだと改めて実感する。
(やっぱりエルドレッドってカッコいいんだ……)
今後お友達として二人と一緒にいるのならば、エルドレッドと顔を合わせることが増えるはず。
「私の大事な人です」と詳しく紹介すれば、二人の顔は何故かますます真っ赤になっていた。
(エルドレッドはカッコいいから見惚れちゃう気持ち分かるなー)
今日のエルドレッドはまるで王子様のようで、気品があり、本人もそれらしく振舞ってくれている。
その上フリージアに向ける笑顔も、なんだかいつも以上に甘くて、フリージアもちょっと頬っぺたが赤いような気がして、胸もドキドキと五月蠅くなっている。
「あのね、フィシィこそが僕の大事な人なんだよ」
「エルドレッド……ありがとう」
エルドレッドがフリージアの頬に触れそんな言葉を吐けば、エイブリーとカミラは「キャー」と声にならない悲鳴を上げる。
演技だとはいえ甘い雰囲気を醸し出すエルドレッドにあてられてしまったらしく、可哀そうなほどに顔が真っ赤だった。
「もう、最初からお二人の仲の良いお姿を見ていれば、セレニティ様も変な勘違いはしなかったでしょうに……」
「本当ですわね、お二人はお似合いすぎますもの……他の人との仲を勘ぐるだなんて、そんな気持ちも起きませんわ」
エルドレッドとの仲の良さを褒められると嬉しくって、フリージアはにやにやしそうになる口元を隠す。
確かにセレニティにもエルドレッドを紹介していれば、フリージアにとって誰が一番大事な人なのか分かっただろう。
けれどそれはそれで文句をつけられていたような気もする、あの子には何故か初めから嫌われていた、そんな気がしてしまうのだ。
「フリージア、お友達は来たのかい?」
「フリージア、僕たちにも紹介してくれるかな?」
「お兄様! えっと、こちらが私の友人のエイブリー様とカミラ様です。エイブリー様、カミラ様、上の兄ジャレッドと下の兄ジェイソンです」
慣れないながらもフリージアはどうにか兄二人を友人に紹介する。
エイブリーとカミラはお茶会慣れしているのか、落ち着いた様子で受け入れてくれた。
「私はジャレッドだよ、エイブリー嬢とカミラ嬢、フリージアのことを宜しくね」
「僕はジェイソンだ、君たちが学園に通う頃は三学年に上がるから宜しくね」
「「はい、よろしくお願いいたします」」
お泊り会は週末開催ということで、自宅にいたジャレッドとジェイソンは気になって顔を出しに来たようだ。そんな兄たちにフリージアは声を掛ける。
「えっと、お兄様たちも参加されますか?」
「うーん、そうしたいところだけど、今日は初めてのお友達会だろうから挨拶だけで失礼するよ」
「次回は僕たちも参加させてくれたら嬉しいな、エイブリー嬢、カミラ嬢、宜しくね」
「「は、はい、是非」」
長男のジャレッドは学園を無事卒業して今は王城で働いている。
しばらく王城での業務を学んだら、その後はティエルノ伯爵になるための勉強を始めるようだ。
次男のジェイソンは今度学園の二年生。
いずれは兄のジャレッドと同じように王城で働き、その後は婿にでも行かない限りティエルノ伯爵領のどこかの領地を受け持つはずだ。
もしかしたら王都にジャレッド、領地にジェイソンと、将来的に仕事の担当を振り分けるかもしれないが、二人の仲の良さであれば問題は起きないと思う。
それにフリージアもいずれ学園を卒業したら領地のどこかでひっそりと暮らす予定だ。
小さな土地を貰い、そこで自由に暮らす。
(その時も出来ればエルドレッドと一緒が良いな……)
エルドレッドのことは縛ることは出来ないけれど、ずっと一緒にいたい。
フリージアの想いは最初からずっと変わらないものだった。
「まったく、愚かなことをしたものだ……」
「あの、お父様……」
「ティエルノ伯爵令嬢の茶会に折角呼ばれたのに、ご令嬢と仲良くならないどころか途中で退席して帰ってくるなど呆れてモノが言えん、何のためにお前をお披露目会へ連れて行ったのか……お前は全く理解していなかったのだな」
「……はい……申し訳ありません……」
セレニティがフリージアのお茶会から抜けだし自宅へ戻ると、父親であるエリオット侯爵に叱責された。
ティエルノ伯爵家からは特に注意も何もなかったが、後から詫び状を送っても返事は簡素なものだった。
そして今日、ティエルノ伯爵令嬢が付き合う友達を決めたと父が情報を掴んだらしく、当然そこにセレニティの名がある訳は無く、怒りが再熱してしまった。
これは遠回しに距離を置きたいと言われたも同然で、セレニティは父に呼び出され、また同じような注意を受けているのだが、母や兄もセレニティに向ける瞳は冷たいものだった。
「全く貴女は……ザレックス様の婚約者になれるようにと王妃様にお願いした私の努力を無駄にして……」
「……お母様、申し訳ありません……」
「はあ、これでは私がティエルノ伯爵令嬢に婚姻を申し込んでもお前のせいで断り一択だろうなぁ。折角魔法使いを我が家に入れるチャンスだったのに、愚かな妹で情けないよ……」
「……お兄様……申し訳ありません……」
セレニティは幼いころからずっと、第一王子ザレックスの婚約者候補の筆頭だった。
けれどある日、父が「ザレックス様には魔法使いの従妹がいる」という情報を掴んできて、セレニティの立場は危ういものとなった。
魔法使いはどこの国でも希少な存在だ。
そんな姪を王家が手放すはずは無く、その従妹はいずれ王家に嫁ぐのではないかと父も母も推測した。
そうなればセレニティがザレックスと結婚することは叶わない。
これまで友人に「自分こそが王妃に相応しい」とそんな自慢をしていたセレニティは陰で笑われるようになった。
そんな中、体が弱いと言われていたその少女のお披露目会の日を迎えた。
どんな女の子なのか、隠されて育っていたということはきっとブスで性格も悪くて、大した魔法も使えない出来損ないな令嬢だろうと、そう願って会に参加してみれば、両親の良いとこだけを取って生まれたような美しい少女で驚き、また優し気な笑顔を見ると敗北感まで感じてしまった。
そして帰りの馬車の中、両親が『フリージア』を中心に話を始める。
「ティエルノ伯爵令嬢がいる限り、セレニティが王妃になるのは無理だろうなぁ」
「そうですわね……けれどティエルノ伯爵令嬢とセレニティが友人になれれば、まだセドリックとティエルノ伯爵令嬢が恋に落ちる可能性もありますわ。そうなればセレニティにも王妃になるチャンスはありますし、魔法使いが我が家に生まれる可能性もありますわよ」
「友人になれればだがな」
「……」
目の前で両親からセレニティよりもフリージアの方が価値があると言われても、セレニティはそれを惨めな気持ちで聞くしかない。
なんで自分がこんな目に合わなければいけないのかと、フリージアに対する嫌な気持ちが込み上げる。
「確かに、ティエルノ伯爵令嬢ならば僕の妻に相応しいでしょう。彼女は生まれもいいですし、何より美しかったですからねぇ……ですがセレニティと友人になってくれるかどうか……」
「……」
両親も兄もセレニティの気持ちなど考えることなく勝手なことを言って盛り上がる。
フリージアの立場が物事の中心で、まるでセレニティはおまけのよう。
その上、下手に出てフリージアの友人になれと家族は言う。
悔しくて悔しくて堪らない。
セレニティには素直に「はい」ということなど出来なかった。
(なんであんな子が注目されるのよ! 所詮は伯爵令嬢じゃない!)
これまでセレニティを王子妃にしようと動いていた両親はいなくなった。
フリージアを見た瞬間にセレニティの未来を諦め、フリージアには勝てない、無理だと決めつけた。
その様子にセレニティは尚更苛立ちを感じた。
『貴女、本当にティエルノ伯爵家の子供なの?』
だからだろう、お茶会の席で思わずそんな言葉を呟いてしまった。
少しでも悲しい顔にしてやりたい、自分と同じ惨めな気持ちを味わってみろ、そんな軽い気持ちだった。
実際、フリージアはティエルノ伯爵によく似た金の髪や、王家の色ともいえる紺の瞳に近い色合いを持っていた。なので出自を本気で疑っていたわけではない。
そうであって欲しいと願ってしまったというのが本音だった。
それに彼女の使う魔法はとても美しく、思わず見とれてしまった。
あんなにライバル心を燃やしていたはずの相手の魔法に見入ってしまったのだ、負けたような気持ちになって、悔しくて悔しくて仕方がなかった。
(この子さえいなければ……)
彼女さえ現れなければ、今もザレックスの婚約者候補の筆頭はセレニティだっただろうし、父や母が自慢する娘でいられたし、兄が可愛がる妹でもいられたはずだった。
「まったく、友達になるという簡単なことも出来ないなんて情けない……」
「本当に、これまでの教育は何だったのかしら……」
「とてもじゃないが私の妹だとは思えない愚行だよね、相手を怒らせてしまうだなんて恥ずかしい……」
「……」
セレニティは今は、家族から邪魔者でも見るような目を向けられている。
役に立たない娘。
あの茶会の日から、セレニティの立場は変わってしまった。
これから先、以前のように家族が自分を愛してくれることはないだろう。
「学園ではティエルノ伯爵令嬢と少しでも仲良くするようにするんだぞ、良いな」
「……はい……お父様……申し訳ありません……」
父の言葉に従順に頷いて見せるが、それは今だけだ。
セレニティはフリージアと仲良くするつもりなど毛頭にない。
セレニティをこんな立場に追い込んだフリージアの顔など見たくもないし、話なんてしたくもない。
魔法を失敗して退学になればいい。
いっそのこと死んでくれたら……
そう願ってもいる。
「フリージア……貴女だけは絶対に許さないんだから……」
セレニティの呟きは本気の言葉。
絶対にフリージアを貶めて自分の立場を返してもらう。
涙を堪えたセレニティは、そう決意していた。
こんばんは、夢子です。
やっと普通に動けるようになりました。
後は咳だけ、どうにか復活です。
ご心配おかけいたしました。




