フリージアのお茶会
「本日はようこそお越しくださいました。先日遅ればせながらお披露目会を開かせていただいたフリージア・ティエルノです。どうぞ同い年の令嬢の一人として、皆様に仲良くしていただけると嬉しいです」
今日はフリージア初主催のお茶会だ。
王都のタウンハウスに住むご令嬢や、領地の近い令嬢など、年齢が同じで学園でも顔を合わせるだろう女の子たちを数名、ティエルノ伯爵家へ呼んで小さなお茶会を開催した。
元王女で母親となったアラベラや、フリージア付きのメイドであるエイダやヘレナと相談しながら呼ぶ相手を決め、お茶会の内容も皆に相談しながら決めた。
フリージアは伯爵令嬢だけれど、元王女の母親を持つため立場的には公爵家に近いものがある。
アラベラが公爵位を望まず、伯爵家の跡取りだったジェイラスの元に嫁ぎたかったという理由と、王家に力がありすぎることを懸念しての爵位だ。
子供をのびのびと育てたかったアラベラは公爵位を望まなかった。
なのでフリージアの兄であるジャレッドとジェイソンには王位継承権が発生していないし、王族としての教育も受けていない。
小さな子供では理解できないティエルノ伯爵家の立ち位置だけれど、流石にフリージアの年齢になった子供たちには理解できている。
つまりフリージアは平等と言われている学園内でも十分に守られる側の立場という訳なのだが、今日のお茶会ではそんなフリージアにどう接するのかで相手を見るお茶会でもあった。
「フリージアの母、アラベラですわ。皆様今日はどうぞ楽しんで行って下さいね」
「「「はい、ティエルノ伯爵夫人、有難うございます」」」
アラベラが挨拶をすると、令嬢皆が綺麗な挨拶をする。
元王女であるアラベラのことは皆知っているようで、中にはちょっと青い顔になり緊張が見えているご令嬢も見て取れた。
アラベラが「それではごゆっくり」と言って席を外せば、その子はホッと溜息を吐いていた。
なんだか庶民な記憶持ちの自分に似ているような気がして、フリージアはその子に声を掛けてみたいなとそう思った。
「ねえ、貴女、本当にティエルノ伯爵家の子供なの? 顔つきがあまりアラベラ様に似ていないけど……」
「えっ?」
大人がいなくなってすぐ、フリージアに声を掛けてきた令嬢がいた。
本来なら主催者であるフリージアが先に皆に声掛けをするのが常識。
彼女がフリージアを下に見ているのが分かる行動だ。
その子の名をフリージアは良く知っている。
お披露目会で挨拶を受けた侯爵令嬢セレニティ・エリオットだ。
扇子を広げ目元だけ見えるようにしているが、それでも意地悪な笑顔が浮かんでいるのが分かる。
新参者であるフリージアに舐められないようにと先に叩こうとしているのだろうか?
セレニティの隣に座る二人の令嬢も同じような表情を浮かべていた。
「そうですか? 似ていないですか? 伯父様にはお母様によく似ていると言われるのですが……」
「ーーっ!」
エルドレッドとお茶会ではどんな言葉を掛けられるだろうかとシュミレーションしていたフリージアは、セレニティの辛辣な言葉にも動揺などしない。
きっと急に現れたフリージアを警戒する令嬢はいるだろうと、エルドレッドの予想通りの展開になった。
なのでフリージアはエルドレッドの提案通りフェリックスの名を出す。
国王の名を出せば皆黙る。
そう聞いていたのでフリージアはそのまま実行したのだが、まさかそれが「貴女は国王陛下の言葉を信じられない愚か者なのですね」という盛大な嫌みになっていることにフリージアは気づかない。
ただ『私のおじさんはいつも母親に似て可愛いって褒めてくれるよ』と、そんな意味合いに取っていたのだが、気が付けば喧嘩を正面から買った形になっていた。
「お、伯父様だなんて、本当の姪かも分からない貴女が国王陛下を気軽に呼んでいい訳がないでしょう? それに貴女はただの伯爵令嬢なのよ! 身分をわきまえたらいかが?」
「? そうですね? でも普段は伯父様ではなくフェリックス様って呼んでいますよ。伯父様って呼ぶと年を取ったように感じて嫌なんですって」
「ーーっ! そういうことではないのよ!」
「そうなんですか? でもフェリックス様はそう呼んで欲しいって言ってますよ?」
笑顔で正直に答えたフリージアだけど、セレニティの顔は何故か悔しそうなものに変わる。
何が悪かったのかは分からないけれど、お茶会の席はシーンと静まり返ってしまった。
(血がつながっていないからお父様にもお母様にも似ていないのは当然なんだけど? フェリックス様を名前で呼んでいるのがいけなかったかなぁ?)
フリージアは主催者として静かになったセレニティのことはいったん置いておいて、他の子たちにも声を掛けることにした。
「エイブリー様、エイブリー様は先日のお披露目会にも出席してくださいましたよね? 有難うございました」
「まあ、フリージア様、私のことを覚えていてくださったのですか? 嬉しいです。私、アラベラ様に憧れていまして、ご息女であるフリージア様に一目お会いしたいと父にお願いしてお披露目会に連れてきて貰ったのですわ」
「まあ、そうなのですか? 私もお母様に憧れているので、とっても嬉しいです。お母様にもエイブリー様のことをお伝えしておきますね」
「まあ、本当ですか? 有難うございます。あの、でしたら私の友人のカミラ様のこともお伝え下さいませんか?」
エイブリーが隣に座るカミラに視線を送る。
アラベラの前で緊張から青くなっていた女の子だ。
「カミラ・フィルファです。フリージア様、初めまして」
「カミラ様、初めまして、もしかしてカミラ様もお母様が大好きなんですか?」
「はい! 大好きです! アラベラ様は私たちの憧れでしかありませんから!」
お母様ファンのエイブリーとカミラから、お父様とお母様の大恋愛の話を聞く。
王女と伯爵家子息の恋。
それは多くの貴族令嬢の憧れの恋のようだった。
お父様は元々フェリックス様の友人であったため、お母様とは幼いころから顔見知りで幼馴染とも呼べる立場だった。
けれど爵位が余りにも違い過ぎる為、お父様は自分の想いをお母様に伝えることはしなかった。
お母様の方も王女を娶る大変さを知っているだけに、お父様に迷惑を掛けたくないと、自分の想いは誰にも口に出さなかった。
そんな中、二人の恋を後押ししたのが兄であり、当時王太子だったフェリックス様だった。
二人の恋を成就させようと、他国の王子との婚約話を持ちだしてみれば、二人はやっと素直になりお互いに想いを伝えあうことが出来たらしい。
恋愛話に疎いフリージアだったけれど、エイブリーとカミラから聞く両親の恋話は純粋に楽しかった。
「まあ! 自分で開催したお茶会で家族自慢をするだなんて? 少しはしたないのではなくって?」
「えっ?」
聞き役に徹していたからか、それとも茶会の中心になれなかったからか、セレニティがフリージアを睨みつけそんな言葉を投げかけてきた。
別に家族自慢をしているつもりは無いけれど、セレニティにはそう映ったらしい。
フリージアは首を傾げ(この子恋バナは嫌いなのかな?)と呑気なことを考えてた。
「セレニティ様、失礼ながら、ティエルノ伯爵夫妻のお話を始めたのは私ですわ、フリージア様を責めるのは違うと思います」
エイブリーがフリージアを援護してくれると、隣に座るカミラも「うん!」と大きく頷く。
フリージアにはセレニティがなんで怒っているのか良く分からないけれど、二人ともセレニティに冷たい視線を送っている。
まるで大人な令嬢のようでフリージアにはまだ出来ない芸当だった。
流石に皆お披露目を十歳で済ませているだけのことはある。
ここにいる令嬢たちはフリージアよりもずっと大人びている。
会話についていけないフリージアだけがこの場で取り残されているようだった。
「まああ! あなた達、この私に歯向かうというの? 私はエリオット侯爵家の娘なのよ、それを分かっていての言葉なのかしら?」
なんで歯向かっていることになっているのかフリージアだけが分からない。
ただしお茶会が大事になっているのだけは流石に分かる。
お母様の恋バナが嫌いでセレニティの機嫌が悪くなったのは分かったけれど、それが何故歯向かうことになったのかが分からない。フリージアの脳内には変わらず「?」が浮かぶ。
「あら、侯爵家の方ならば尚更フリージア様には正しく接するべきではないのですか? フリージア様は王家の血を引く尊い方なのですから」
強気なエイブリーの発言にセレニティの顔が真っ赤になる。
馬鹿にされたと感じたのかもしれない。
怒っているときには何でも悪く受け止めてしまうものだ、セレニティはキッとエイブリーのことをきつく睨む。
「急にお披露目をした方が本当に王家の血を引くかも怪しいですわ! だって私はザレックス様から一度もこの方の名前など聞かなかったのですもの!」
「ザレックス様?」
ザレックスとはフェリックスの息子でこの国の第一王子だ。
年齢はフリージアよりも一個上で、何度か顔を合わせたこともある優しい男の子。
何故突然ザレックスの名が出たのかもフリージアには分からない。
ただフリージアがこのお茶会の主催者なので何とかしなければいけないことだけは分かる。
フリージアはエルドレッドと相談していた秘密兵器を披露することにする。
何かあった時は魔法を使えば大丈夫。
そう言われていたために、フリージアは皆の前で魔法を披露することにした。
「えーっと、皆さま、取り敢えず落ち着いて、こちらを見て下さい、私が今から面白い魔法を使いますね」
「「「えっ?!」」」
魔法と聞いて皆の視線が一斉にフリージアへと向く。
フリージアは良しと気合を入れ、天に手を掲げた。
(まずは【虹】)
お茶会の席のすぐ上に、綺麗な七色に光る虹が現れる。
その瞬間あれだけ騒いでいた令嬢たちは皆口を開け、空中に浮かぶ虹へと夢中になった。
(次は【雪】)
虹が消え今度は白い雪が降り始める。
大粒の雪は結晶まで綺麗に見える。令嬢たちから感嘆の声は出ないけれど、開いた口の大きさから皆が驚き感動しているのが分かる。
フリージアは内心(大人しくなった)と安堵しながら次の魔法を使う。
(最後は【星】)
お茶会の席の上だけが夜空に変わり、今度はそこに星が浮かぶ。
キラキラ輝く星の中には流れ星もあり、やっとここで令嬢たちから「綺麗……」との言葉を貰えてフリージアは一安心だ。
「あの、私の魔法いかがでしたか?」
話を変えるために披露した魔法だったけれど、令嬢たちには効果てきめんで、フリージアを見つめるその瞳には憧れのような羨望の色が浮かぶ。
「フリージア様、素晴らしかったです! 私、あんなにも綺麗な魔法を初めてみました」
「私もです! フリージア様は物凄い力を持つ魔法使いなのですね、私のお兄様も魔法使いなのですが、お兄様の使う魔法とは全然違いました!」
エイブリーとカミラの称賛にフリージアは「ありがとう」とお礼を言う。
お母様のお誕生日に披露し褒められた魔法なので、他の子たちに褒められれば素直に嬉しい。
エルドレッドが令嬢向けの一押し魔法だと褒めてくれたことだけはある。
喜んでくれてフリージアもホッとした。
「……私、体調がすぐれませんので、お先に失礼いたしますわ……」
「えっ? セレニティ様?」
「「セレニティ様?!」」
魔法に見入っていたセレニティだったけれど、ハッとすると急に立ち上がり、お茶会会場から逃げるように去って行った。
取り巻きらしい二人の令嬢もセレニティの名を呼びながらその後を追いかけていく。
お見送りをしなければならないはずのフリージアだけれど、急な展開に驚きすぎて動けない。
というかこの場にはまだエイブリーとカミラがいるので、主催者であるフリージアが抜け出すわけにはいかない。
エイダとヘレナが素早く動いてくれたし、他の使用人たちもいるから大丈夫だとは思うけれど、フリージアが何かセレニティの気を悪くするような失敗をしたのは当然で、お茶会失敗という言葉が頭に浮かんでがっくりと肩を落とした。
「あの、ごめんなさい、セレニティ様、帰っちゃったね……」
「まあ、フリージア様、フリージア様は悪くないですわ」
「そうです、フリージア様は悪くありません、変な誤解をしてフリージア様に突っかかってきたのはあの方ですもの」
「変な誤解?」
「ええ、そうですわ、フリージア様が魔法使いとの話を聞いてから、将来的にザレックス様と婚約するのではないかと噂が流れていますの」
「ザレックス様と私が婚約?」
仲良くしているけれど、まったくそんなことは考えたことも話されたことも無かったため、フリージアは驚きしかない。ザレックスのことは好きだけど、エルドレッドとは違う。
それにフリージアがこの国の王子と結婚した場合、表に出なければならなくなるため、ある意味一番あり得ないことだった。
せっかくエルドレッドやフェリックスが匿っていくれているのに、意味がなくなってしまうからだ。
「ええ、あの方、自分こそがザレックス様に相応しいとずーっと言い続けていただけに引くに引けないのですわ」
「そうなの?」
「はい、それでフリージア様に対して最初からあんなにも態度が悪かったのです。乙女の嫉妬とはいえ恥ずかしい行為ですわ。フリージア様、あの方が謝るまで許さなくてもいいですからね」
「……えっと、うん、分かった。あの、エイブリー様、怒ってくれてありがとう……」
「いいえ、お友達として当然のことですわ」
フリージアはザレックスを恋愛対象に見たことは無いけれど、確かに他の令嬢からすればザレックスは結婚相手として価値が高いと思う。
ザレックスは顔もいいし、性格も穏やか、それに何といってもこの国の王子様だ。
女の子たちが憧れるのは当然だった。
(セレニティ様に悪いことしちゃったかな?)
セレニティの気持ちも分かるだけに、今度もう一度声を掛けてみようと、そう思ったフリージアだった。
思ったよりも長くなりました。
めっちゃ体調悪いです、つらい……
今日病院に行ってきます
フリージアは基本のんびりした性格をしています。
駆け引きとか通用しません。
嫌みも分からないと思います。




