フリージアのお披露目会
フリージアは十四歳になった。
ティエルノ伯爵家での生活にも慣れ、令嬢マナーや座学の勉強も進み、魔法の練習も徐々に始めている。
以前よりはマシになったとはいえ、まだ体は細く小さいけれど、それでも同い年の一番小さな女の子程度には背も伸びて、初めてエルドレッドに会ったころの違和感は無くなったと思う。
それに何より、食事も大人半分は食べられるようになったし、運動も屋敷の庭を一周歩けるぐらいには出来るようになって、最近では乗馬をエルドレッドから習っている。
「そろそろフリージアのお披露目会をしようか」
「お披露目会?」
「そう、ドレスを着て人と会う体力も出来たし、これ以上先延ばしにすると学園入学ギリギリになってしまうからね」
本来は十歳で行うお披露目会を、フリージアも遂に迎えることとなった。
両親が張り切ってフリージアに似合う白色のドレスを準備してくれて嬉しい気持ちと、多くの人と会うのかと少し緊張する気持ちがある。
この国のお披露目会での主役は白のドレスやスーツを着て、自身の持つ色で刺繍を入れると決まっているらしく、フリージアは金色の刺繍をドレスに入れてもらい、少し大人っぽい印象に仕上がった。
「フリージア、とても綺麗だよ」
「エルドレッド、ありがとう。今日のエルドレッドもとってもカッコ良くて素敵」
「フフフ、そう? なら良かった。フリージアのお披露目だからね、僕も着飾るに決まっているさ」
「うん、とってもカッコいい、王子様みたい」
エルドレッドは自身の瞳の色を使った紺の正装だ。
普段からカッコいいエルドレッドだけれど、今日は何倍もカッコいいと思う。
(でも、エルドレッドと恋人になりたいって思う人が出たら嫌だなぁ……)
お披露目会の招待客には女性も多いので、エルドレッドに興味を持つ人もいるのではないかと思うと、少しだけ胸がもやもやとする。
だけどエルドレッドのカッコ良さを知ってもらいたいと思うのも本心で……
早くエルドレッドの横に立っても可笑しくない程度の大人の女性になりたいなと、フリージアはそう思い始めていた。
「フリージア、お披露目おめでとう、これで君も立派な貴族家の一員だ」
「はい、国王陛下、お祝いの言葉をありがとうございます」
ティエルノ伯爵家の娘となったフリージアはフェリックスの姪っ子に当たるため、公務で忙しい中、お披露目のお祝いに駆けつけてくれた。
「フリージア、体が元気になって良かった。けれど社交は無理しない程度にするんだよ、それから妻も子供たちも君のお祝いに来たがっていたよ、また城に遊びに来て皆に顔を見せてあげてくれ、私も楽しみにしているからね」
「はい、フェリックス様、ありがとうございます。私もまた皆様にお会いしたいです」
「うむ、伝えておくからな」
「はい」
フェリックスがフリージアの体調回復と、王家との仲の良さを強調する。
急に現れた少女に見えるフリージア。
本当にティエルノ伯爵家の子供かと疑うものは多いだろう。
だからこそフェリックスは自分は前から知っていたのだと、フリージアは自分の姪で間違いないのだと、言葉にしてくれた。
「フリージア嬢、それにティエルノ伯爵家の皆様、お披露目おめでとうございます」
「エリオット侯爵、ありがとうございます」
国王であるフェリックスが来ているとあって、今日のお披露目会の出席率は高い。
それに有力貴族であるティエルノ伯爵家と縁を持ちたいと思う家も多く、招待状を送った家のほとんどから出席の返事をもらった。
その中でエリオット侯爵家はフリージアと年の近い子供がいる家だった。
娘がフリージアと同じ年、そして息子は一つ年上だ。
今日も両親と共に子供もお披露目会に来ていて、フリージアに「おめでとうございます」と挨拶をしてくれた。
少しツンとした様子だったけれど、もしかしたらフリージア同様緊張していたのかもしれない。
娘の方はフリージアの今後のお友達候補の一人だと言えた。
「フリージア嬢、それにティエルノ伯爵家の皆様、お披露目おめでとうございます」
「ガルシア伯爵、ありがとうございます」
ガルシア伯爵家にもフリージアと同い年の女の子がいて、やはりガルシア伯爵夫妻は娘を連れて来ていた。
彼女もフリージアのお友達候補の一人。
数日後に開催されるお茶会にも出席予定だ。
フリージアと目が合うと、彼女も笑顔で「おめでとうございます」と声を掛けてくれて、笑顔が似合う優しそうな女の子だった。
「おお、お嬢様は魔法使いなのですか」
「ティエルノ伯爵家はますます安泰ですね」
「いやー、お嬢様は奥様によく似ていらっしゃる、将来が楽しみですね」
「いやいやいや、ティエルノ伯爵にもよく似ているじゃないか、それに上の子たちともよく似ている」
フリージアを褒めるような、お世辞にも近い挨拶を受けていると、フリージアの会いたかった人たちが目の前に立った。
「フリージア様、ティエルノ伯爵家の皆様、お披露目、おめでとうございます」
「ジアンナ先生!」
フリージアは抱き着きたい衝動を抑え、ジアンナに向け綺麗なカーテシーを披露する。
「ジアンナ先生、来て下さってありがとうございます」
ジアンナに教えてもら通りに挨拶を行えば、ジアンナの顔に笑顔が浮かぶ。
「まあ、フリージア様、とても素晴らしい挨拶ですね。綺麗にカーテシーが出来ていますよ」
「はい、ジアンナ先生、ありがとうございます」
笑顔でお礼を言えば、ジアンナの横に立つ青年と目が合った。
「フリージア様、おめでとうございます。ジアンナの婚約者、バーナード・キャロスでございます」
「バーナード様、お会いできて光栄です、あの、いつもお手紙ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ、フリージア様のお陰で今の私たちがあると言えますので、フリージア様には感謝しかございません」
フリージアが渡したお守りでバーナードは元気になったらしく、体が動かせるようになるとお礼の手紙を書いて送ってくれた。
その後は文字を習いたてのフリージアの文通相手になってくれて、今は年の離れたお友達にもなってくれている。そしてジアンナのことを大好きな者同士という、共通の推しを持つ友人でもあった。
そして最近やっとバーナードは自由に体を動かせるようになり、騎士の仕事にも戻ることになって、もう間もなくジアンナと結婚式を挙げることにもなっている。
勿論フリージアも結婚式には出席予定だ。
今日はその前に二人で会いに来てくれたと言える。
並んで立つ二人の幸せそうな笑顔を見ると、お守りを作って良かったと心から思えた。
「バーナード様、今日は来て下さってありがとうございます。楽しんでいって下さいね」
「ええ、そうさせていただきます。ですが久しぶりの夜会なので少し緊張していますけどね」
「フフフ、私も一緒です」
「アハハ、なら安心ですね」
フリージアの家庭教師ジアンナは、今日のお披露目を持って卒業だ。
今後はバーナードを支えるための仕事に就く。
つまりバーナードの実家、キャロス家の若奥様になると言うことだ。
「ジアンナ先生が幸せそうで良かった」
寄り添って歩く二人を見ながら、フリージアの心は温かくなっていた。
「フィシィ、お披露目お疲れ様。いろんな人に会って疲れたでしょう? 体は大丈夫?」
お披露目会が終わり、自室でくつろぐフリージアにエルドレッドが声を掛けてくれる。
疲れているけれど、不思議と心地いい。
それにエルドレッドの心配顔を見ると、なんだか疲れも飛んで行ってしまった気までする。
「うん、ちょっと疲れたけど、楽しかった。いろんな人に会えたし、バーナード様にもやっと会えたから嬉しかったし」
「そうか、それは良かったね」
「うん」
バーナードの呪いが解けたことを、フリージアはジアンナから教えてもらった。
フリージアの作ったお守りのお陰だと、涙ながらに教えてくれたジアンナはとても綺麗で、嬉しそうだった。
それにフリージアは自分に出来ることが見つかって嬉しく、大好きな人の役に立てたことが嬉しかった。
バーナードが体力を戻すため体つくりを始めた時も、同じく体力をつけようと奮闘しているフリージアとは同じような境遇で、手紙のやり取りでお互いに励まし合って、会える日を楽しみにしていたのだ。
だから尚更今日は嬉しかったし、結婚式への出席も楽しみになった。
「バーナード様は騎士に戻ったけど、お城で事務職を担当するんでしょう?」
「うん、体調は戻ったと言ってもまだ騎士として本格的に働くのは難しいからねー。かといってフリージアの魔法を知った彼を野放しには出来ない、本人に秘密を守る意思があっても何があるか分からないからね、フェリックスの傍にいて守ってもらうのが一番さ、ジアンナ嬢と共にね」
「うん……でも先生に会えなくなっちゃうのはちょっとだけ寂しいな、もっといろいろ教わりたかったし……」
「そうだね、でも来年はフィシィも王都の学園に通うし、転移の魔法も完成して今までみたいに会えるかもしれないよ」
「うん、そうだね、頑張ってみる!」
街で買った木彫りの置物の裏にフリージアがニホン語を刻み転移魔法の実験をしてみたが、魔力に耐えられなかったのか木彫りの置物は壊れてしまい、実験は成功しなかった。
今は色々気になるものを使って転移の魔法を簡単に使えるようにエルドレッドと実験を繰りかえしている途中だ。
多分フリージア一人で転移するならば、問題なく出来るとそう言える。
それにエルドレッドも魔力がかなりあるので、【転移】というニホン語を覚え、意味をきちんと理解したら魔法が使えるとは思うけれど、人体実験は流石に怖くて行っていない。
体の半分や一部がその場に残された。
そんな結果になったらと想像するだけで恐ろしく、やってみようとは気軽に言えなかった。
「誰でも使える転移魔道具を作れたらいいなぁ」
「そうだね、二人で完成させよう」
「うん」
多分それは間もなく叶う。
フリージアにはそんな予感があった。
「出来ることが増えるのって楽しいね、エルドレッド」
「そうだね、フィシィといると新しい発見ばかりで飽きることがないぐらい楽しいよ。これからも魔法の勉強を一緒に頑張ろうね」
「うん」
学園入学前だけど、フリージアは魔法使いとしてとっくにこの国上位の知識を持っている。
それも当然で、前の知識がフリージアを後押しし、エルドレッドがそれを形にする手助けをしているから当然だ。
ただそれにフリージアは気づかない。
自分が魔法使いの中でも異端な存在であることは分っていても、エルドレッドという異端児が目の前にいるため、それほどだとは思っていない。
自身の持つ力がどれ程のものか、フリージアが本当に理解するのはもう少し先のことだった。
遅くなりました。
少し体調不良です。




