イェネーブル王国のその後②
イェネーブル王国の王城内、国王ハンフリー・イェネーブルは宰相との会談にて魔法塔についての報告を受けると、大きなため息を吐いた。
「北と南の魔力塔の魔法使いが全滅だったと?」
「はい、北の魔法使い五名、そして南の魔法使い四名……魔法塔内にいた魔法使いは皆、魔力枯渇により死亡が確認されました」
「はぁー、それで現状は?」
「はい、ただいま新しい魔法使いを選別中でございますが……その、希望者がおらず……一般人、そして奴隷を含め、魔力のある者を探している最中でございます……」
「……つまり、国のために命を掛けて尽くそうとする魔法使いがいない、ということか?」
「……はい、残念ながら魔力塔での出来事が噂で広まったようでして……志願者がおらず……役員が命令を出したところ、逃げ出した者もいるようでして……」
「何ということだ! こんな時のための魔法使いだろうがっ! 役に立たない奴らめ!」
以前ならば魔力塔への出向は役職へ着く前の修業期間、数年の魔力奉納期間としてそれなりに人気な仕事だった。
北と南の魔力塔は王城にある物とは違い、自身で魔力を注入すればいい。
一日に数時間、いや数十分の仕事。
それ以外は自由時間となるため気楽で出世も出来る旨味の多い仕事だとそう言われていたのだが、ある時魔力を全て吸われ死んでしまった魔法使いが出たことで認識が変わった。
それは丁度王族の魔法使い、つまり魔力塔に繋がれる子供が少なくなった時の事件だった。
つまりメインの魔力塔の魔力が少なくなったため、北と南から魔力を補充せざるおえなくなったのだが、そんなことを知らない一般魔法使いは魔力塔の恐ろしさに今更ながらに慄いた。
それからは自ら進んで魔力塔へ向かう魔法使いは減り、何か問題を起こした魔法使いや、平民出身の魔法使い、もしくは後ろ盾のいない入城したばかりの新人魔法使いの仕事となっていたのだが、今回また恐ろしい事件が起きたことで『魔法使い』と呼ばれ周りから一目置かれる存在の者たちは皆魔力塔行きを嫌がった。
『何故素晴らしい力を持つ魔法使いである自分たちがそんな危険な仕事に就かなくてはならないのだ!』
イェネーブル王国の魔法使いの者たちの認識はそれだった。
学園の魔法科を卒業していないものは、魔法使いとは呼ばれないイェネーブル王国。
それは魔法使いが多くいたころからの習慣で、今では魔力を持っているだけでも希少なのだが、その感覚は抜けることなく、生まれてから特別扱いされ、その上学園の『魔法科』を卒業したという拍を付け魔法使いとなった人間たちの多くは、自尊心が強く、出世欲まで強い者が多くなっているのが現状だ。
当然、死の危険がある魔力塔行きを望む者などいるわけがなく。
その上魔法使い様だと褒め讃えられて育てられたものばかりのため、自分たちは特別、神にも等しい存在、そんな傲慢な考えの者たちが国に尽くすなどという認識を持つはずもなく、絶対に嫌だと逃げているというのが今の現状だ。
無理矢理にでも……
そう思ったが、魔力塔に入れられるぐらいならば他国へ行こうと逃げ出すものも多く、イェネーブル王国は魔法使いの多い国だと、そうも言っていられない状況に陥っていた。
「クソッ、このまま魔法使いどもを使い捨てにするわけにはいかんし、逃げ出されても困る。奴隷で魔力持ちなど滅多にいないし、市井の魔法使いは貴族家に養子に入るものが殆どだしな……』
ハンフリーが悩むのも当然。
魔法使いを塔に送りこみ死ねば魔法使いが国からどんどん減っていく。
それに無理やり魔力塔に入れられると聞けば、逃げ出す魔法使いはどんどん増えていく。
メインの魔力塔が使えない今、北と南で魔力を補充したいが、魔法使いがいないためそれが出来ない、八方塞がりともいえた。
「そ、そうだ、宰相、第一王子の方はどうなっている? 子供は出来たか?」
「はい、妊娠の傾向のある妃は数名いるようですが……気性の荒い第一王子のお相手をしていたため心身的に参っているようでして……出産まで体力が持つかどうかというところの様です……」
第一王子は残虐性があり、夜の相手を痛めつけ興奮し喜びを感じる様だ。
なので子を宿した妃は既に心身ともに疲弊しきっていて、子供を体内で育てられるだけの体力が残っていないようだった。
「あの愚か者は何をやっているんだ! アレには子を作ることの重要性を説明したのだろう?」
「はい、それは勿論です……ただ第一王子殿下は、その、興奮してしまうと理性がきかなくなるようでして……」
「はぁ……今後はアレの伽の際には護衛に見張らせておけ、あまりにも酷いときは私の命令だと言って止めに入っていい、子が出来なければ意味がないからな……」
「畏まりました、そのように手配いたします」
「あとは、あれだな、第二王女の方はどうだ?」
「はい、残念ながら第二王女殿下に妊娠の兆候は今のところ見受けられません。相手が非魔法使いですし、第二王女殿下自体魔力がとても少ないため、お子が出来ても魔法使いとして生まれることは難しいかもしれません」
「ふー、まあ、そうだろうな……それで今の魔力球の様子は?」
「はい、市井の魔道具の半分を使用禁止にしたことで当初よりは魔力の減りが落ち着いておりますが、それでも数年持つかどうか……というところでしょうか」
「数年? たったの数年だと?!」
「は、はい、魔法も使い辛くなっているうえに魔道具の調子も可笑しいようでして……今のままではもって数年かと……」
「何ということだっ!!」
最初の予定ではハンフリーが在位の間は持つだろうと思っていた魔力球。
けれど北と南が潰れ魔力の補充が出来ない今、その消費は予想を多く上回っていた。
「最悪第一王子をつぎ込むしかないか……」
次代の王になれる者は第二王子も第一王女も残っている。
けれどメインの魔力球に魔力を投入できるものは、王族の魔法使いである第一王子と第二王女しかいない。
「仕方がないな……子が出来る見込みがないならば、第二王女を魔力塔へ入れろ」
「宜しいのですか?」
「男と遊ぶしか能のない王女などそれぐらいしか使い道がないだろう、数日でも国の役に立つならば王族として本望なはずだ、アレが嫌がっても押し込め、国王命令だ」
「……はい、畏まりました」
魔力が殆どないと言える第二王女を魔力塔へ投入したところで、魔力球の魔力が溜まる訳ではないとハンフリーだって分かってはいる。
けれどこのまま何もせずに放置するなど恐ろしすぎて出来るわけがない。
この国から魔力が消える、それは自分の国の強みがなくなることだ。
攻撃力も防御力もそして魔法使いを貸し出せるという外交もすべてなくなる、考えるだけで恐ろしいことだった。
だが、そんな状況がもう背中に迫ってきている。
国王として権威を振りかざしていられるのも、あとわずか……
そんな状況にハンフリーは怯えていた。
「アレは一体どこへ消えたんだ……」
魔力塔にいた第三王女の行方は未だに分からない。
消滅した、それが最有力候補の答えといえた。
だが死体が見つからない以上、それが真実だとは言い切れない。
「クソッ、何故こんなことに! 何故私の治世でこんなことになったんだ!」
王になったハンフリーの政治は安定以外ないはずだった。
なのに今、国の崩壊もあり得る危機的状況が訪れている。
「クソッ、すべてアレが消えたせいだ!」
ハンフリーはただ、自分の不運をフリージアのせいにし嘆くばかり。
自分の無能さや、国の可笑しさには全く気付かない。
魔法が無くとも生きていける選択肢はある。
だが魔法の国の王は魔法使いに固執し、その他の選択肢など見えないようだった。
「ちょっと、何をするのよ! 私は王族よ、離しなさい! こんな勝手なことをして! お父様に言いつけるわよ!」
恋人たちと楽しい時間を過ごしていた第二王女は、突然部屋へと乱入してきた宰相と騎士団に驚いた。
「その陛下のご命令なのですよ、第二王女殿下」
「お父様の命令? どういうことよ!」
「第二王女殿下には仕事をしてほしいと、陛下のご命令です」
「仕事?!」
第二王女は自室でくつろいでいたため、部屋着という名のあられもない姿で恋人たちとの時間を楽しんでいた。
そこへ武装した男たちが乱入してきたのだ。
驚かない訳がなかった。
その上何を言っても誰も助けない。
父の名を出しても無駄。
こんなことは初めてで恐ろしさを感じる王女が虚勢を張り騒いで見せる。
「離しなさいよ! 仕事ならお父様に直接聞くわ! 私は王女なのよ!」
「……連れていけ」
「はっ」
だが宰相は顔色を変えることなく第二王女を拘束しどこかへ引っ張っていく、意味が分からない第二王女は「離せ離せ」と喚くことしかできない。
「殿下、我々はこれより先は入ることが許されておりませんので、後はこの者たちの指示に従ってください」
「何がよ! ここはどこなのよ! 私を部屋に戻しなさい!」
「……」
王女としての品などなく、喚き散らす第二王女を魔力塔へ入場できる契約奴隷に渡す。
彼女たちはそのまま第二王女を抱えていくと、魔力塔にある魔力球の傍へ置き、いくつかある鎖の一つを運んできて王女の傍へ置いた。
そして王女の足に針を刺し、血を流させる。
痛みになれていない第二王女は大げさに騒ぐが、奴隷たちは自分の仕事を全うする。
鎖にある足枷部分に第二王女の血を注げば、ふわりと光り、足枷は第二王女の足に付いた。
「な、なによこれ、何なのよ、早く外して頂戴! なんだか凄く気持ち悪くて……息が……くる……」
第二王女はそのままパタリと倒れ気を失った。
奴隷たちはそんな第二王女を簡素なベッドへ運び、眠るように横にさせた。
「第二王女殿下がどこまで役立って下さるか……」
国の存亡の危機だ、王女の命が惜しいなど宰相が言うわけがない。
ただあの第二王女ではもって数日、下手をしたら今日一日で命を亡くすだろうと、魔力の少なさを嘆くだけ、遊ぶことしか学んでいない王女などには最初から期待などしていなかった。
「いったいこの国はどうなっていくのか……」
先の見えない不安に宰相も怯え、愚痴を零さずにはいられなかった。
おはようございます、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
またブクマ、良いね、☆など、応援もありがとうございます。
他国がタコ区になっていました。
一人で笑っていました。自宅でよかった。
第二王女の名前はアリーナです。
国王は覚えていません。
イェネーブル王国の次の話では遂に第一王子が登場です。




