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魔力塔の姫君  作者: 夢子
ラスター王国

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18/25

新しい家族との時間

 お試しでと言われていたティエルノ伯爵邸での生活も、あっという間に三か月が過ぎていた。


 ティエルノ伯爵家では家族だけでなく使用人も皆優しくて、フリージアは一度も嫌な思いをしていない。

 

 このまま本当の家族になりたい。


 フリージアは皆に愛されることで、自然とそんな気持ちが強くなり、正式にティエルノ伯爵家の子供になることが決まった。


「フリージアは私たちの本当の子供として縁組をする。あの国に君が生きていると知られては大変だからね。体が弱く秘密裏に育てられていたけれど、やっと元気になって普通に生活できるようになった。本来この国の貴族の子は十歳でお披露目するところだけど、病弱を理由にすれば学園入学前にお披露目でも怪しむ者はいない。だからフリージアはもう少しここでの生活に慣れてからお披露目会をしようね」


「お披露目会?」


「そう、お披露目をして初めてその家の子供だと世間に認めてもらえるんだ。子供のお茶会も本来はお披露目をしてからの出席になるんだよ」


「そうなんだ、じゃあ私もいつかお茶会に行くの?」


「フリージアはどちらでもいいんだよ。体が弱いからと言って断ることもできるし、仲良くなった子がいればウチでお茶会を開いて招待すれば安心だしね」


 正式にフリージアの父親となってくれたジェイラスが優しく微笑む。

 ジェイラスは仕事で忙しい中、フリージアが早くなじめるようにと、毎日のように顔を合わせる時間を作っては話をしてくれる。


 フリージアが過ごしやすいように、楽しく生活できるようにと、何も無理強いしないし、貴族として大事なこともゆっくりと教えてくれる優しいお父さんだ。


「さあ、さあ、お話はそれぐらいにしておやつにいたしましょう。フリージアは沢山食べないといけませんわ」


 母親となったアラベラがメイドと共にお茶を運んできてくれた。

 そこにはふわふわの蒸しパンもあって、フリージアのために一口サイズに作ってくれてあり、アラベラの心遣いが分かる。フリージアが少しでも食べやすいようにと料理長と共に工夫をしてくれていて有難い。


「お母様、ありがとう」


「フリージア、ゆっくりよく噛んで食べましょうね」


「うん」


 食事はだいぶ摂れるれるようになったけれど、他の子に比べたらまだまだ量は少ない。

 同年代の半分ぐらいが精一杯だろう。


 それにフリージアはまだとても体が小さい。

 ガリガリだった体は細い子供ぐらいにはなれたけれど、それでもまだ背は低いし、顔つきも幼い。

 とても十三歳の女の子には見えないし、女性の体つきに近づくのはだいぶ時間がかかりそうだ。


 それが分かっているからお母様はフリージアにおやつやを食べさせ、栄養を付けようとしてくれている。一度の食事量が少ないから回数で補おうと考えてくれているようだ。


「蒸しパンは人参味とほうれん草味のものがあるそうよ、フリージアはどちらが良いかしら? 勿論両方でも大丈夫よ」


「えっと、じゃあ最初は人参味でーー」


「ただいま、フリージア!」

「フリージア、大好きな兄さまが帰って来たよ!」


「ジャレッド兄さま、ジェイソン兄さま、お帰りなさい」


 ジャレッドとジェイソンはティエルノ伯爵家の子供で、今学園に通っている三年生と一年生だ。

 フリージアとジャレッドが四歳差、ジェイソンとは二歳差だけれど、見た目的には大人と子供ぐらいの差があって、二人とも幼く見えるフリージアをとても可愛がってくれている。


 初めて会ったその日から本当の妹のように大事にしてくれて、学園が無い週末には領地に帰って来てフリージアに顔を見せてくれるのだ。

 馬駆けでも半日はかかる距離を掛けての帰宅に、フリージアには喜びしかない。


「エルドレッド、なんでフリージアを抱っこしてるの? フリージア、僕の膝の上においで、お兄様が抱っこしてあげるよ」

「エルドレッドはいつもフリージアを独占していてずるいよ、僕たちには学校って言うハンデがあるのにさ。さあ、フリージア、一番若いジェイ兄さまが抱っこしてあげるからこっちにおいで」


 フリージアの見た目が幼すぎるからか、ジャレッドもジェイソンもフリージアを猫かわいがりしようとする。それが嬉しいしくすぐったいし楽しいと思うけれど、二人の声掛けを聞いてフリージアを抱っこするエルドレッドの手に力が入り、焼きもちのようにギュっとされることが一番嬉くもあった。


「君たちさー、帰ってから手を洗ったの? 僕のフィシィに触りたいのなら、まずはその汚れた体を綺麗にしてきてよね」


「そうよ、あなた達、フリージアは元気になってきたとはいえまだ体が弱いの、あなた達みたいなどこで何をしてきたか分からない子が触ったら黴菌が付いてしまうでしょう、ちゃんと着替えもしてきなさい」


「そんな、母上まで! 朝早く出てフリージアのおやつの時間に間に合うように急いで帰って来たのに!」

「クソッ、こんなに学園での生活が苦しいと感じたのは初めてだ!」


 面白いお兄様たちの様子を見てフリージアはクスクスと笑う。

 大きな男の子たちの大げさなジェスチャーはなんだかコメディのようで面白い。


「私はお兄様たちが戻ってきてくれて嬉しいです」


「「フリージア……」」


 ジャレッドとジェイソンは外見がお父様によく似ていてフリージアと同じ金色の髪。

 見た目は物凄くカッコいいはずの二人が余りにもひょうきんなことをするから尚更面白かった。


「私、お兄様たちが綺麗になるまでおやつ待ってるね」


 だから早く手を洗ってきて、そう伝えれば兄二人の顔に笑顔が浮かぶ。


「フリージア、五分、五分待っててね!」

「急いで着替えてくるから、すぐだからね!」


「うん、待ってるね」


 部屋を出て走り出した兄たちに「廊下を走らないでください」と使用人が注意する声が聞こえる。

 剣も乗馬も習っている兄たちは運動能力が高いため使用人たちも追いつくのが大変なようだ。


「ウフフ、お兄様たちまた帰ってきてくれたね」


「フィシィには僕がいるから大丈夫なのに、アイツら暇なんじゃないか……」


 賑やかなティエルノ家の雰囲気がフリージアは大好きだ。

 だからエルドレッドへ向けるフリージアの笑顔も、エルドレッドがフリージアへ向ける笑顔も、以前よりずっと明るくなった気がする。


「まったくあの子たちにも困ったものね……」


「ハハハ、フリージアが来る前とは別人のようだが、まあいいんじゃないか」


 兄たちはフリージアが来る前は思春期特有の反抗期を迎えていたのか、両親ともあまり話さず、たまに学園から戻れば部屋へ引きこもり、一人でいることを好んでいたようだ。


 けれどフリージアが来てからは違う。

 突然の妹の出現を兄たちは嫌がることもなく受け入れてくれた。

 その上フリージアが魔法使いだと知ると「凄い」「カッコいい」と褒めてくれて、体が弱いと知れば「俺たちが守る」とも言ってくれた。


 エルドレッドがティエルノ家なら大丈夫と納得したのも頷ける。

 ティエルノ家は家族を知らないフリージアでも過ごしやすい環境だと言える場所だった。


「お父様、お母様、私お兄様たちは優しいから大好きです」


「あら、まあ、嬉しいけれど、あの子たちには内緒にしなければ大変なことになりそうね」

「アハハ、そうだな、学校に行かないと言い出しかねないぞ」


 お父様もお母様もフリージアの言葉を聞いて嬉しそうに笑ってくれる。

 国王から頼まれた少女だからとかではなく、フリージアが幸せそうに笑っている姿が嬉しいと、そう言ってくれている親の笑顔だ。


「私、お母様もお父様も大好き、それにハンナもエイダも大好き」


「まあ、可愛いフリージアに大好きだと言ってもらえると嬉しいわね。フリージア、私も貴女が大好きよ」

「そうだな、娘の大好き程嬉しいものはないな、フリージアはずっと父様の傍にいてくれていいからな」


「お嬢様、有難うございます」

「私どももお嬢様が大好きですわ」


「うん!」


 ここには好きな人が沢山いて、優しい時間も流れていて、それが凄く幸せで、何も持っていなかったフリージアはこんな日がずっと続けばいいとそう願ってしまう。


 だけどフリージアは魔法使いで、その上あの国のお姫様だったから、きっと危険なことだってこの先あるだろう。


 魔法使いはただでさえ希少で、中には攫ってまで自分の物にする人もいるそうで、フリージアも狙われる可能性があることを最初に聞いているし、覚悟もしている。


 だけどフリージアにはエルドレッドがいる。

 それに今は優しい家族もいるし、心強い仲間と呼べる人たちもいる。


 一人ではないと実感できた今、不穏な未来を知っても不思議と怖くなかった。


「でもね、私はエルドレッドが一番好き、エルドレッドが私の特別なの」


「フフフ、フィシィ、僕にとってもフィシィが一番大事で、特別な女の子だよ」


「うん!」


 抱っこしてくれているエルドレッドに抱き着けば、エルドレッドが抱きしめ返してくれる。

 この人だけは絶対に私の味方。

 確信が持てるから、魔法使いに対しての事件を聞いても何も怖くはない。


 フリージアの生まれた国、イェネーブル王国が危険な考えを持つ国だと知っても、自分は絶対に大丈夫。そう思えるほど家族の存在はフリージアの心を強くしてくれた。


「あ! フリージアがエルドレッドに抱き着いてる! ダメだよ、離れなさい!」

「フリージア! フリージアは可愛い女の子なんだから肉親以外の男性に抱き着いちゃダメだ。さあ、兄さまの所へおいで」


 着替えを終えた兄たちがフリージアとエルドレッドの様子を見てまた騒ぎ出す。

 どうにかしてフリージアの気を引き、自分たちがフリージアの中で一番になろうとしているのが面白くて、フリージアだけでなく両親も、使用人たちもくすくすと笑いだす。


「君たちが抱っこしたら繊細なフィシィが壊れそうだから却下だよ。それにフィシィと僕は肉親以上の関係なんだから抱っこするのは当然だし、僕の傍が世界一安全だ。うーん、そうだね、君たちが僕よりも強くなったらフィシィをちょっとだけ預けてもいいかな。まあ、ちょっとだけだけどね」


 魔法使いであり、剣も扱えるエルドレッドに勝てる人など多くはない。

 そのことを兄たちは十分に知っているからか、がっくりと肩を落とし「無理だ」「辛い」と言って泣くふりをする。


「君たち、その程度じゃあフィシィの一番には一生なれないね」


「エルドレッドが酷い」

「エルドレッドは鬼だ」


 明るく楽しい家族の団らんにフリージアの心は癒される。


 この家族の子供になれて幸せ。


 ずっとこの時間が続けばいいと願う。


「みんな大好き」


 フリージアは異世界に来て、フリージアとして目覚めたことをやっと感謝出来るようになっていた。


おはようございます、本日もお読みいただきありがとうございます。

またブクマ、良いね、☆、など、応援もありがとうございます。

今日は少し肌寒いですね。

数日前の暖かさがあったからそう思うのでしょうか……


ジャレッドとジェイソンの友人で妹可愛いと自慢する者がいてずっと羨ましかった二人。

なので妹が出来ると聞いて大喜び、その上見た目も可愛く、また母親にもどことなく似ていたため尚更喜んでいます。

その上希少な魔法使い。そして歩くことがやっとなか弱い女の子。

雨の中捨てらていた子猫を拾ったような心境だと思います。

そんな二人の話もいずれ書きたい……と思っています。


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