新しい家族と夢
フリージアがエルドレッドに連れられラスター王国へ来て一か月が経った。
最初は飲むヨーグルト状態の食事しかとれなかったフリージアだったけれど、パン粥を経て、昨日からはやっと固形物を食べられるようになった。
勿論固形物と言っても最初から大人と同じ大きさのものが食べられるはずがなく。
料理人たちが食べやすいようにと小さくカットしてくれていたり、柔らかく煮てくれていたりするものがメインだ。
食事量に至っては同じ年齢の子供たちの十分の一ぐらいかもしれないが、それでもエルドレッドと同じ食事が食べられる、フリージアはそれが嬉しかった。
「エルドレッドご飯美味しいね」
「うん、たくさん食べて元気になろうね」
「うん」
エルドレッドはラスター王国に来てからずっとフリージアの傍に居てくれて、常に体調を気遣ってくれた。
夜中たまに出かけることもあるようだけれど、いつもいつもフリージアの傍にいてくれる。
体を動かす練習も付き合ってくれて、今は身体強化なしに起きれるようになり、少しだけど部屋の中を歩けるようにもなった。
筋肉質とは到底言えない体だけれど、一か月頑張った成果は確かに出ていて、変化のある自分の体を見るのが少しだけ嬉しかったりもする。
「ウフフ、エルドレッド見て、筋肉の山だよ」
フンッと握り拳を作って自慢顔浮かべれば、エルドレッドに笑われてしまったけれど、フリージアは今とても幸せだ。
一緒に笑える相手がいる。
フリージアはそれが嬉しかった。
「フリージア、ここにいるのが私の妹夫婦、ジェイラス・ティエルノ伯爵とアラベラだ」
「初めまして、フリージアです」
そして今日、ラスター王国国王フェリックスが信頼している相手。
妹であるアラベラとその夫ジェイラス・ティエルノ伯爵をフリージアに紹介してくれた。
アラベラを見てフリージアは驚く、薄い金色の髪に紺色の瞳。
その紺色が少しだけフリージアの紫の瞳の色に似ていて、顔立ちは違ってもどことなく親子に見える。
夫のジェイラスの方は瞳は緑色だけど髪色が金色で、少しだけフリージアの色よりも濃い金髪かもしれないけれど色合いがとても似ている。
フリージアと並べば親子のようで、二人の間にフリージアが入っても違和感が全くないように感じた。
「フリージア様、初めまして、元王女であるアラベラと申します、お会いできて光栄ですわ」
フリージアの目線に合わせニコリと微笑んだ後、アラベラが貴族女性の挨拶をしてくれた。
まるでお手本のような綺麗な礼。
フリージアに見せてくれているのが分かる。
「フリージア様、初めまして、私はティエルノ伯爵です。フリージア様にお会いできるのを楽しみにしていたのですよ」
ティエルノ伯爵もフリージアに向け優しく微笑んだ。
会えて嬉しい、その緑色の瞳が本当にそう言っているのが分かり、フリージアは嬉しくなった。
「私も会えて嬉しいです。よろしくお願いします」
フリージアもカーテシーを披露したかったが、今のフリージアの筋力では無理だった。
ちょっとだけ頭を下げるだけでも下手をしたら貧血を起こす。
身体強化が出来ればいいのだけれど、体力が付くまでは魔法はダメとエルドレッドに言われてしまった。
なので視線だけで頭を下げる。
瞼を長く閉じて挨拶をすれば、二人とも分かってくれたようだった。
「どうだ、フリージア、暫くこの二人の家に行ってみないか? 家族ごっこをするという形で」
「家族ごっこ? ですか?」
「ああ、一緒に住んでみなければ分からないこともあるからな、まずはお試しだ。この二人は女の子が欲しかったらしい、フリージアみたいに可愛い女の子がな」
フェリックスが選んでくれた相手とあって、夫妻の人柄は安心できる。
今もフリージアを見つめる瞳はとても優しいものだ。
だけどフリージアはどう考えても問題分子。
引取れば確実に二人に迷惑が掛かるだろう。
それに……
「エルドレッドは?」
エルドレッドと別れるのは嫌だった。
ずっと一緒にいようと約束したし、フリージア自身がエルドレッドの傍にいたかった。
「勿論、行くならエルドレッドも一緒だ。フリージアの家庭教師としてティエルノ伯爵家でエルドレッドも生活をする」
「エルドレッドと一緒? 本当に?」
視線が合うとエルドレッドがニコッと笑った。
それだけで嘘ではないとフリージアは安心できた。
「僕がフィシィから離れるわけがないでしょう、これからもずっと一緒だよ」
「うん」
「それにティエルノ伯爵家なら僕も安心だしね」
どうやらこの夫妻はエルドレッドの厳しい目に合格したようだ。
もしかしたら夜出かけていたのはティエルノ伯爵家のことを調べていたのかもしれない。
エルドレッドが大丈夫というなら何の不安もない。
それにこれからもエルドレッドと一緒にいられる、それが分かれば悩む必要もなかった。
「ティエルノ伯爵様、アラベラ様、どうぞよろしくお願いいたします」
「良かった、フリージア様、こちらこそ宜しくお願いしますね」
「フリージア様、一緒に生活できるのを楽しみにしていますからね」
「はい」
フリージアはまた瞼を長めに下ろし、深く礼をした。
勿論フェリックスにも「ありがとうございます」とお礼を言う。
何も持たないフリージアに良くしてくれる優しい人たち。
特別な相手はエルドレッドだけだけれど。
フリージアの中で彼らも大切な相手になったのは確かだった。
「ティエルノ伯爵家までは馬車の旅になるけど、フィシィは僕に身を任せていればいいからね」
「馬車の旅? 転移じゃないの?」
フリージアとエルドレッドがイェネーブル王国から逃げる際、転移が出来る魔道具を使った。
だから今回もきっと転移の魔道具での移動だと思ったのだけど、それは違うようだった。
「うん、あの魔道具は王家の秘宝なんだ、物凄く高い物なんだよ」
「ひほう……」
「そう、魔石も高価なものを使うしね、命の危険があるならば別だけど、二日で着ける距離なら馬車の方が効率的かな、まあ、経費削減ともいえるけどね」
「けーひさくげん……」
「そっ、王家と言っても資金は無限じゃないからね」
クスクス笑いながらエルドレッドは教えてくれた。
どこまで冗談でどこまでが本気なのかは分からないけれど、エルドレッドとの馬車の旅もバカンスのようで悪くないと思った。
「じゃあ、私が転移魔法使えるようになったらエルドレッドは嬉しい?」
「それは勿論嬉しいけれど、フィシィの魔法ならどんなものでも僕は嬉しいよ。フィシィがそこにいるだけでもう魔法にかかっているような状態だからね」
フリージアの頬をツンツンと触りながら、エルドレッドが嬉しいことを言ってくれる。
フリージアがエルドレッドの傍にいるだけで幸せの魔法を掛けている、そう言ってくれているようでとても嬉しい。
フリージアも勿論「エルドレッドといると私も幸せだよ」と答えた。
「じゃあ、フェリックス様は? 転移魔法を覚えればフェリックス様の役には立つ?」
「フェリックスの? フリージアはあの人の役に立とうと思わなくてもいいよ。それはまあ、僕の仕事かな……それにフェリックスは王としてやるべきことをやっているだけなんだから」
「でも、沢山お世話になったんだもの、フェリックス様にも何か恩返しがしたい……それに大事なメイドのエイダもヘレナも私に付けてくれたし」
「フィシィ、フィシィはなんて良い子なんだろう、流石僕のお姫様だね」
エイダもヘレナも王城で働くメイドなのに、フリージアが慣れた相手だからと言ってティエルノ伯爵家に一緒に来てくれることになった。
エイダとヘレナにも当然感謝しかないが、何よりこれほど手厚く気遣ってくれるフェリックスにはどんなにお礼を言っても足りないぐらいだった。
だからフリージアが出来ることはお礼として返したいと思う。
それがどんなことかはまだ分からないけれど、いつかみんなの役に立てたら良いなとそう願う。
勿論それはもっと丈夫になって、大人になってから……という条件が付くが。
「私ね、大人になったら優しくしてくれた人みんなにお礼をするの、有難うって、私みんなのお陰で元気になれたよってお礼の挨拶をするのが今の目標なんだ」
「そうか、そうなんだね……」
「うん! 勿論エルドレッドにもね」
エルドレッドに寄りかかりながらフリージアは未来の目標を語る。
ずっと塔に閉じ込められていた悲しい女の子。
何も持たず何も知らない第三王女は、フリージアとして目覚めてからあの塔から逃げ出すことが第一目標だった。
エルドレッドのお陰でその夢は叶ったけれど、逃げ出してからのことは何も考えていなかった。
きっと何とかなる。
前の記憶があるから自分ひとりで生きていける、フリージアはそう甘く考えていた。
だけどフリージアは思った以上に病弱で、言葉も思ったように話せないし、体なんてもってのほか、身体強化なしでは動けない状態だった。
何より食事だ。
フリージア一人きりだったら、下手をしたら次の日には命がなくなっていたかもしれない。
そうならなかったのは、エルドレッドとフェリックス、そしてその他の皆のお陰でもある。
今後はそこにティエルノ伯爵一家も入ってくるだろう。
挨拶をしただけでもティエルノ伯爵家の人たちが優しいのは分かったのだから。
「私ね、長生きして沢山みんなにお礼をするんだ」
「うん、そうだね」
「エルドレッドとも長く一緒にいてもいい?」
「勿論だよ」
フリージアの夢を聞いてエルドレッドは頭を優しく撫でてくれた。
その手がフリージアなら出来るよと言ってくれているようで、フリージアは心地よいぬくもりも相まって、そのまま幸せな眠りについたのだった。
おはようございます、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
また、ブクマ、良いね、☆、など、応援もありがとうございます。
日曜出勤が今日で終わります。
今月は長かった……
でも電車は空いてていいんですけどね。




