フリージアの望み
「初めまして、お嬢さん、私はこの国の王、フェリックス・ラスターだよ」
自身を王様だと名乗り、フリージアに優しい笑顔を見せてくれた男の人は、ちょっとだけエルドレッドに似ていて初めて会った緊張感が少しだけ和らぐ。
(この人は怖くないかも……)
視線をエルドレッドに向ければニコリと微笑まれ、自分の直感が正しいと分かる。
「……あの、フリージアです。初めまして……」
ベッド内で枕にうずくまるように背を預けていたフリージアだったけど、きちんと起き上がり頭を下げる。
ベッドの上で前世の土下座のような状態になっていると、エルドレッドがフリージアの身を起こした。
「フィシィ、そんなに頭を下げなくてもいいよ、大丈夫」
「でも……」
王様だよ? 不敬になっちゃうよ?
フリージアが罰せられるならともかく、エルドレッドが怒られるのは嫌だ。
そんな思いでエルドレッドに視線を送れば、また大丈夫だと頷かれる。
「フェリックスは僕の従兄弟……らしいんだ、たぶん」
「えっ……? いとこ?」
「らしいんじゃない、エルドレッド、お前は私の従兄弟だ、何度もそう言っただろう」
「はいはい、そうですねー」
フェリックスとエルドレッドを見比べる。
顔つきで余り似たところは無いけれど、その優しい瞳だけは形も色もとても似ている。
だから外見は全く違っても、フェリックスに会った瞬間にエルドレッドに似てると思ったのかと、フリージアはうんと頷いた。
「エルドレッドと王様似てます。目がそっくり」
「フィシィ……」
「ほらみろ、この子の言うとおりだ」
「……」
エルドレッドはちょっとだけ嫌そうな顔をしたけれど、本気で嫌がっている訳ではないと分かる。
(もしかしてエルドレッド、テレてる?)
そう気づくとエルドレッドが可愛いと思った。
きっとエルドレッドは他者からの愛情に慣れてないのだ。
フェリックスの好意に狼狽えているように見える。
(これからは私がエルドレッドにいっぱい大好きだって伝えよう、それが当たり前になるぐらいに)
フリージアがそんな決意を抱えていると、ヘレナとエイダがカートを押しながら部屋へ入ってきた。
「食事を摂ってから話をしようか、君は昨日から何も食べていないだろう?」
王様の前で食事なんてしていいのかな? と心配になったけれど、誰もフェリックスの言葉に突っ込まず、エルドレッドも当たり前の顔をしているのでフリージアは食事をするらしい。
良いのかな? と戸惑うフリージアの前、ヘレナとエイダも当然顔で食事の準備を始めたのでフリージアもそれを受け入れる。
だけどちょっと食べるのが怖い。
そう思っていると「まずは食前のお薬を」と大匙一杯ぐらいの液体の薬を目の前の小テーブルに置かれた。
「お薬? でも、前飲んでたものとは違うもの……?」
「うん、前のは魔法塔で飲んでた薬のことだよね。それはたぶん栄養剤かな? これはご飯を食べるための薬、胃を動かしやすくするんだって」
「そうなんだ、ありがとう、頑張って飲むね」
胃腸薬みたいなものか、とフリージアは迷うことなく薬を飲んだ。
「甘い……美味しい……」
トロリとして甘くて、子供が飲みやすいようにしている薬。
お医者さんの優しさを固めたみたいな薬を飲んで、フリージアには笑顔が浮かぶ。
イェネーブル王国で最初に口に入れられたあの苦い薬を思うとお菓子のように甘かった。
「……美味しいか……そうか……」
薬を飲んだフリージアを見て笑顔だけどフェリックスの目がどこか悲し気になる。
(何か変なこと言ったかな?)
心配になってまたエルドレッドを見れば頭を撫でられた。
その笑顔が大丈夫だよと言ってくれていて、悪いことは言っていないようでホッとする。
だけどフリージアを見つめるエイダもヘレナもどこか悲しげだった。
「お嬢様、今日の食事はこちらです」
「……牛乳の……スープ?」
「はい、ミルクスープでございます」
フリージアの食事は昨日のパン粥ではなく、今日はスープだけらしい。
きっとご飯を食べて倒れたからだろう。
酷く心配かけて申し訳なかったなと思っていると、エルドレッドが説明をしてくれた。
「フィシィの胃は育っていないんだって、赤ちゃんの胃と変わらないぐらいの大きさなんだってさ」
「赤ちゃん?」
「そう、だから暫くはスープだけになっちゃうんだど、フィシィ、我慢できるかな?」
「うん、大丈夫、スープも嬉しいもん」
「そうか……」
ここにいる人たちは皆優しい人たちばかりのようだ。
フリージアのことを心配して体に合う食事を用意してくれた。
その気遣いを味わうように一口一口大切にスープを口に運べば、ぬるくて人肌ぐらいの温度で、そこも気遣ってくれていることが分かりとても嬉しい。
「とっても美味しいです、ありがとうございます」
本心でフェリックスへお礼を言えば「そうか……」とまた少し悲しげな眼になった。
フリージア的には好待遇に思えることも、どうやら皆の同情を誘ってしまうようだ。
温かい視線に見守られながら、フリージアはミルクスープを味わった。
だけどスプーンで十口ぐらい食べれば、残念ながら満腹感が襲ってきた。
「もう、お腹いっぱい……」
「「「……」」」
小皿半分ぐらい、丁度いつもの薬瓶一本分ぐらいのスープを飲むと、フリージアのお腹は限界を迎えた。
「あの、残しちゃってごめんなさい、残りは後でいただきます」
「フィシィ、残しても大丈夫だよ。それよりも頑張って食べて偉かったね」
「エルドレッド……うん、ありがとう、あのね、凄く美味しかったの」
「そう、なら良かった」
「うん」
エルドレッドが頑張ったねと言って頭を撫でてくれる。
どうやら残さないようにと頑張って食べたことがエルドレッドにはバレていたようだ。
少しだけ恥ずかしい。
(今はこれだけしか食べられないのか……)
残念ながらフリージアのこの体は健康とは程遠い。
魔法を使わなければ、動けないことも分かったし、今の食事であまり食べられないことも再認識した。
(普通の子供になるには時間がかかりそうだなぁ……)
きっとフリージアはこの見た目通りの年齢ではないはずだ。
本来の年齢よりも背も低いだろうし、肉付きも悪い。
(だけど絶対にこの子を幸せにするんだから!)
握り拳を作りフリージアはふんっと気合を入れる。
それを見たエルドレッドはまた頭を撫でて、他の皆は温かい目で見守っていた。
「フリージア、寝たままでいいから、少しだけ話をさせてもらってもいいかな」
「はい、勿論です」
王様であるフェリックスが遠慮気味に話しかけてきた。
ベッドに横たわるフリージアの方が偉い人のようで申し訳なくなるが、この体なので遠慮は仕舞いこみフェリックスの言葉に甘えさせてもらう。
「フリージア、もし話していて眠くなったら遠慮なく寝てもいいからな」
「はい、ありがとうございます」
食事を終え、食後の薬を飲んだので、たぶんフリージアは間もなく眠気が襲ってくるだろう。
それはこの部屋にいる皆が承諾していることなので、フリージアはここでも遠慮なく頷いた。
身を預けた枕の位置は眠るにしては少し高いけれど、お腹がいっぱいになって薬も飲んだことですぐにでも睡魔に襲われそうだった。
もうちょっとしたら一日起きていられそうだなんてエルドレッドに塔の中で自慢したけれど、あれは魔法の力もあったし、狭い空間での負荷のない生活だったからのこと。
慣れない場所で、慣れていない食事を頑張って食べたフリージアは思った以上に疲れたようだ。
既に睡魔との闘いが始まっている。
意識をして出来るだけ体に魔法を使わないようにとしているせいもあるだろう。
もう間もなく陥落することが自分でも分かるぐらいだった。
「私は君の、フリージアの望みを知りたい。君が一番望むこと……もしくはやりたいことは何だろうか?」
「望み? ですか?」
「ああ、これから先のことについて希望があれば私に聞かせて欲しい」
「希望……」
フリージアとして覚醒して「塔を出たい」という一番の望みはエルドレッドが叶えてくれた。
そう考えると残りの望みはただ一つ。
「エルドレッドの傍にいたいです」
それだけだった。
「……そうか……エルドレッドと一緒に居たいか……」
「はい、エルドレッドのことが大好きなのでずっと一緒にいたいです」
当然顔でフェリックスに答えれば、「ハハハハッ」と大きな声で笑われてしまった。
子供っぽ過ぎる願いだっただろうか。
エルドレッドに不安げに視線を送る。
「エルドレッド?」
「……ん、勿論、フィシィはこれからも僕とずっと一緒だよ」
「良かった」
嬉しそうなエルドレッドを見てホッとする。
少し頬が赤いということは、もしかしたらフェリックスの前だから照れているのかもしれない。
この国の王様であるフェリックスがダメと言ったらエルドレッドとお別れしなければならないかと思っていたけれど、これなら大丈夫そうだ。フリージアにも本来の笑顔が戻った。
「んんんっ、ではエルドレッドと一緒にいられるように手続きをしようか」
「はい、お願いします。あの、フェリックス様、ありがとうございます」
「うん、任せなさい……あー、それで、フリージア、その他には何か望みはあるかい? 君はエルドレッドの大事な人だからね、出来る限りの望みを叶えて上げたいんだ」
「……ありがとうございます……でも……」
フリージアは本当に良いのかな? とまた不安になったが、エルドレッドの優しい視線を受け頷くと、やってみたいことを素直に答えた。
「フェリックス様、私、出来ればお勉強がしてみたいです、あと街へお買い物にも行ってみたいです。それからお友達も作ってみたいし、学校も行けたら行ってみたいです」
「……そうか……他には何かないかな?」
「他に? ……あ、私、一番は魔法のお勉強がしたいです。エルドレッドに教えてもらって魔法を使えるようになって、好きな人たちを守れるようになりたいです。それが目標で願いでもあります」
「守る……か、そうか……分かった。フリージア、その願い、全て叶えると約束しよう」
「フェリックス様、ありがとうございます」
フェリックスの優しい言葉を聞いて、エルドレッドとの血の繋がりをまた感じた。
たくさんのお願い事をしたのに、フェリックスは嫌な顔もせず全部叶えると約束してくれた。
エルドレッドとそっくりで優しくて、フリージアは自然と笑顔になった。
「エルドレッド、私、嬉しい……」
「うん、僕も、フィシィとずっと一緒に居られて嬉しいよ」
「うん……」
安心したからか、それともエルドレッドが頭を撫でてくれるからか、だんだんと瞼が重くなってきてフリージアは夢の世界に引きずられて行く。
「フリージア、フィシィ、安心してお眠り」
「うん、エルドレッド、また、あとで、ね……」
「うん、また後で……」
笑顔を浮かべ眠りに入るフリージアを、この部屋にいる皆が優しい目を向けて見守ったのだった。
こんにちは、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
またブクマ、☆、など、応援もありがとうございます。
花粉飛んでますよね?
その影響か肌の調子が悪いです。




