無意識な魔法
生まれて初めての食事の後、フリージアが目を覚ますとそこは昨日と同じベッドの上だった。
(良かった、生きてた……)
物凄い痛みから死を覚悟していたけれど、夢ではなく、まだ現実の世界にいることが分かりホッとする。
異世界だと気づいてまだ数日。
何も楽しんでいない時点で命を失うのは怖かった。
(誰か呼んだ方が良いかな?)
辺りを見回せばベッドの傍にはエルドレッドがいてくれた。
椅子に座り目をつぶった状態で寝ている姿は初めてで、ついエルドレッドの顔をまじまじと見てしまう。
(エルドレッド、寝顔も綺麗……)
輝くような銀色の髪に丹精な顔立ち。
王子様というより、星の国の精霊のようだなとフリージアは思う。
「……エル、ドレッド……」
上手く声が出ず、小さくか細い声だったのにエルドレッドはすぐに気づいてくれて、パッと目を覚ました。
「フリージア、フィシィ、良かった、苦しいところはないかい?」
椅子から立ち上がると一歩近づき、エルドレッドはフリージアの顔を覗き込む。
寝起きでちょっと恥ずかしいけれど、フリージアはうんと頷く。
食事を摂った時はびっくりしたけれど、今になって考えれば分かることだった。
フリージアの体は食事を受け付けない。
あの薬だけで生きてきたのだ当然だ。
なのに美味しそうなご飯を前にそんな簡単なことに気付けなかった自分が食いしんぼうのようで恥ずかしかった。
「うん、だいじょうぶ……エルドレッド、心配かけて、ごめんなさい……」
「フィシィは何も悪くないよ、僕がもっと気を付けるべきだったんだ」
「ううん、エルドレッド、は悪くない、私が、ごはん食べたいと思ったから……」
エルドレッドが申し訳なさそうな顔をするので、フリージアは自分が食事を望んだせいだと答えると、なぜかエルドレッドはもっと悲しそうな顔になった。
「エルドレッド、もう、私のこと、嫌になった?」
やっぱりこんな体の女の子は気持ち悪いのだろうか?
フリージアが少し不安になれば、エルドレッドはまさかと首を横に振ってくれた。
「フィシィを嫌いになるはずがないよ、自分の愚かさに呆れているだけさ」
「エルドレッドは、優しいしカッコいいよ……だから嫌われてなくて、私は嬉しい……」
栄養が足りないからか、あれから何も口にしていないからか、口の中が乾いていつも以上に子供っぽい喋り方になってしまう。
けれどエルドレッドはそんなことは気にせず微笑んだ、フリージアに笑顔を見せ「褒めてくれてありがとう」と頭を撫でてくれた。
「フィシィ、起きれるかい?」
「うん、起きれる、それに、ちょっと、喉が渇いたかも」
ベッドから身を起そうとしたフリージアを見て、エルドレッドが介助をしてくれながら「やっぱりか……」と小さく呟く。
エルドレッドは枕を数個ベッドボードに置いて、フリージアが楽な体勢を作ってくれる。
そしてさっきまで座っていた椅子に戻ると、フリージアをじっと見つめた。
「エルドレッド、どうしたの?」
「うん、フィシィ、今、自分が魔法を使っているって分かる?」
「魔法? 今?」
フリージアはエルドレッドの問いかけに首を横に振った。
今は呪文も唱えていないし、フリージア的には魔法を使っている感覚などない。
「そうか……取り敢えずお水を飲もうか」
「うん……」
ナイトテーブルにある水差しからエルドレッドがコップに水を入れて渡してくれた。
それを受け取りフリージアは水をまずは一口だけ飲んだ。
(一気に飲んだらまたお腹痛くなっちゃうよね……)
失敗に気が付いたフリージアは口の中を潤す程度にして水を飲んだ。
その後もゆっくり、胃に負担を掛けないように気を付けて水を飲む。
もうあんな痛みはこりごりだ。
おなかの中でハリネズミが暴れているかのようだった。
それにエルドレッドにも、これ以上迷惑を掛けたくなかった。
「フィシィ、これを使っても大丈夫かな?」
「それなぁに?」
エルドレッドが金色のブレスレットを取り出しフリージアに見せてくれた。
一瞬魔力塔の足枷を思い出したけれど、形が違う。
目の前のあるものはもっと綺麗で可愛いもので、エルドレッドの瞳色のアイオライトのような宝石が付いている。
「これも魔力を吸うの? エルドレッド、魔力必要?」
エルドレッドになら魔力を上げてもいい。
だって逃げる手助けをしてくれた大事な人だから。
そんな思いでいたフリージアだったけれど、エルドレッドは違うと否定した。
「これはね、幼い子が無意識で魔法を使わないようにする道具なんだ」
「無意識で?」
「そう、子供が生まれるとすぐに魔力ありか魔力なしか調べられるんだけど、僕はちょっと事情があってある程度大きくなってからこれを付けたんだ」
「そうなの? 本当は赤ちゃん用の道具?」
「うん、普通はそうだね、魔法を無意識で使ってしまう赤子のころから制御できるようになるまでこの魔道具を付けるのが一般的だ。でもこれは僕が子供のころ使っていたもの、ちょっとだけフィシィに付けてみても良いかな?」
「うん、良いよ」
エルドレッドが使っていたものなら安心だと、フリージアは笑顔で頷いた。
それにエルドレッド色の宝石が綺麗で、魔道具というより装飾品のようで嬉しい。
「あっ……」
「フィシィ!」
そのブレスレットを腕に付けられた途端、フリージアの体は重くなり人形のように横に倒れた。
それをエルドレッドが支えてくれる。
「やっぱりか……フィシィ、フィシィは無意識で魔法を使って体を動かしているんだ」
「……」
フリージアは驚いて声を出そうと思ったけれど、声も上手に出すことが出来ない。
首も動かないし、手足も動かせない。
自由に動かせるのは瞳だけ。
フリージアはそのことにもまた驚いた。
「フィシィ、腕輪を外すね」
「……」
フリージアをベッドに寝かし、エルドレッドがブレスレットを外してくれる。
すると息が楽に吐けるようになり、体が自由に動けるようになった。
またゆっくりと起き上がれば、エルドレッドがそっと支えてくれる。
「ごめんね、フィシィ、ビックリしたよね?」
「ううん、自分の体のことが分かって良かった、私、魔法がないと体が動かせないんだね」
「うん……」
それもそうだろう。
フリージアになる前、この子はずっと寝たきりの状態で魔力を吸われ続けていた。
フリージアは運動だってしたことはないだろうし、日の光にも満足に当たっていないはずだ。
栄養剤だけで、食事も摂れていない状態でそれなのだ、健康に育つはずがない。
自分の体を見てみれば、フリージアの体は骨と皮のようで子供らしいふくふくしたものではない。
筋肉も脂肪もほとんどないフリージアが、まともに動けるはずがないのだ。
エルドレッドのお陰で今やっとそのことに気が付けた。
「エルドレッド、私、運動する。ううん、運動して元気になりたい。それで魔法を使わなくても歩けるようになりたい」
「うん、僕がその訓練を一緒にするよ。フィシィの家庭教師は僕が受け持つ。だから一緒に頑張ろうか、まずは元気な女の子を目指そう」
「うん、元気な女の子になる。あ、そうしたらごはんもちゃんと食べられるようになる?」
前の記憶があるからか、どうしても食事が食べたくなってしまう。
意地汚いと笑われるかな? とちょっと心配になったけれど、エルドレッドは笑顔でうんと肯定してくれた。
「ごはんも一杯食べられるようになるよ、でも少しずつだね。昨日は胃がびっくりしちゃったから、そうならないように気を付けていこうね」
「うん! あ、そしたら勉強も出来る? 魔法も覚えたいけど、字も覚えたいし、計算も出来るようになりたいの」
「勿論だよ。全部僕がフィシィに教えてあげる。ああでもレディのマナーは他の教師に頼むしかないかな……流石に僕がドレスを着てフィシィに淑女教育を教えるのは無理があるもんね……」
「エルドレッドがドレス……? ちょっと見てみたいかも」
「フフフ、そうかい? でも僕はドレスなんて着ないし似合わないよ」
「……」
エルドレッドがドレスを着ている姿を思い描き、フリージアはフフフとエルドレッドを真似して笑う。
綺麗な顔のエルドレッドならば女性もののドレスも似合いそうだ。
そんなことを思い笑ってしまった。
「フィシィ、笑ったな、悪い子はおしおきだぞ」
「えへへ、だってエルドレッド綺麗だもん、ドレスだって似合うと思ったんだよ」
エルドレッドとじゃれ合い笑い合っていると、トントントンと扉を叩く音が聞こえた。
エルドレッドがどうぞと促せば、部屋に見知らぬ男性が入ってきた。
「うん、良かった、落ち着いたようだな」
深い声色の男性は紺色の髪と瞳を持っていて、フリージアに優しい笑顔を見せてくれた。
エルドレッドの服の袖をつかみ誰だろうと首を傾げていると、その男性が自己紹介をしてくれた。
「初めまして、お嬢さん、私はこの国の王、フェリックス・ラスターだよ」
「……おうさま……?」
(なんでここに?)
他国の王様の登場にフリージアは驚き、固まったのだった。
おはようございます、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
また、ブクマ、☆などの応援もありがとうございます。
昨日はバレンタイン。
自分用に買った美味しいチョコをやっと食べられました。




