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魔力塔の姫君  作者: 夢子
ラスター王国

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13/26

初めての場所

 フリージアが目を覚ますと、知らないベッドの上だった。


 魔法塔にあったフリージアの小さなベッドとは違い、立派な天蓋が付いていて、ベッドの幅もとても広く、大人数人が並んで寝れそうなほど大きい。

 掛けられている布団もふかふかで、石鹸の香りがほのかにして心地い。

 なので自分が知らない場所に来たことが分かったけれど、ちょっとだけ不安もよぎる。


(エルドレッドと塔を抜け出したのは夢じゃないよね……)


 まだはっきりと目覚めていないぼんやりした頭で昨日の出来事を思いだす。

 エルドレッドがフリージアに会いに来てくれたことはちゃんと覚えているし、魔法を使ったことも覚えている。

 それに目覚めた場所が塔の中でない以上、あの国を出れたことも夢じゃない。

 フリージアは自分の妄想でなかったことにホッとした。


「エルドレッド……『とーか』って言ってた、扉ぬけるとき……」


 魔力塔を出る際、ずっと気になっていたエルドレッドが扉をすり抜ける魔法を意識して聞いていた。

 その言葉はニホン語で『とーか』だったけれど、フリージアには思いつく言葉が多すぎてどんな言葉なのか分からなかった。


 流石に投下ではないだろうし、とおか(十日)でもないはずだ。

 

「忘れないうちにニホン語も勉強しなおさないと……」


 ニホン語が魔法として使えると分かった以上、言葉を出来るだけ忘れないようにしておきたい。

 特に漢字は使わないと忘れてしまう。

 それにだんだんとフリージアとして意識がこの世界に傾いているのが分かる。


 魔法を使うために漢字にする必要はないかもしれないけれど、同じ意味の言葉があることを知っている以上、フリージアは言葉に気を付けなければならないと思う。

 この世界の魔法使いとフリージアの違う部分を上げるとしたら、そんな部分かもしれない。

 知りすぎている弊害。

 そこは十分に注意しようと思う。


「私いつ寝ちゃったのかな……」


 この国までは転移の魔道具を使って飛んできた。

 フリージアの虚弱な体では転移に耐えられず、気を失うように眠ってしまったらしい。


 それも仕方がない。

 エルドレッドが来てくれてフリージアは興奮していた。

 それにいくら元気になったと言っても、ずっと塔に閉じこもりだったフリージアにそれほど体力がある訳がない。長旅でなかっただけ有難いと思う。


「もっと元気になったら運動を始めたいなぁ」


「お嬢様、目を覚まされましたか?」


 フリージアがぶつぶつと独り言を言っていたからか、部屋にメイドらしき女性が二人入ってきた。

 塔の中、一人の時間が長かったせいか、フリージアは思ったことをつい口に出してしまう癖がある。

 可笑しなことは言っていなかったよね? と少し不安になっているフリージアの元へ、メイドたちが笑顔で近づいてきた。


「あ、あの……わたしは……」

「お嬢様、急に起き上がっては危ないです、ゆっくり動きましょうね」

「う、うん……」


 塔にいたメイドとは違いフリージアを見ても驚くことはない。

 この部屋に来たメイド二人は起き上がるフリージアの背に手を入れて介助をしてくれた。

 その所作が凄く優しくて知らない人に会った怖さは消えていく。


「お嬢様、私はお嬢様付きのメイド、エイダでございます。そしてこちらはヘレナでございます。これからお嬢様のお世話させていただきますので、宜しくお願いいたします」


「う、うん、あっ、はい、あの、よろしくお願いします」


 エイダもヘレナもフリージアに優し気な笑顔を向けてくれる。

 きっと怖がらせたくないとそう思っての気遣いなのだろう。

 塔にいた無表情のメイドとの違いにホッとする。

 悲鳴をあげられたことは流石にショックだった。

 自分はそんなに怖い容姿をしているのかと不安になったぐらいだ。

 二人のメイドを見ればフリージアの容姿はそれほどひどい訳ではないらしい。


「あの、エルドレッドは?」


「エルドレッド様は今陛下とお話をされていらっしゃいますので、身支度を整えてお待ちいたしましょうか? もし不安でしたらすぐにお呼びいたしますが?」


「ううん、大丈夫、エイダさんとヘレナさんがいるから……お仕事の邪魔、したくないし」


「そうですか、ではそのように。まずはお着替えをして軽い食事をいたしましょうね」


「うん」


 エイダとヘレナは優しい手つきでフリージアの体を拭いてくれた。

 塔のメイドもフリージアのお世話をしてくれたけれどどこか事務的で、愛情のかけらも感じられなかった。


 でもエイダとヘレナはフリージアの体をふきながら、声を掛けてくれて、痒いところはないかとか、これから髪を梳きますねとか、何か行動を変えるたびに声を掛けてくれた。


(仕事だからとかじゃなく、優しくしてくれてることが分かる……)


 エルドレッドの連れてきた子供だから、という理由だけではなく、二人はフリージアを大事に扱ってくれている。物ではなく、人として扱われていることが分かって嬉しい。


「さあ、準備が整いましたよ」


 着替えが終わるとヘレナが鏡を渡してくれた。

 初めて自分の顔を見たフリージアは驚く。


「これが……私……?」


「「えっ……?」」


「私、こんな顔してたんだ、自分の顔初めて見たの」


「「……」」


 髪が長く金髪なのは知っていた。

 でもフリージアになってから自分の顔や姿を見るのは初めてで、鏡に映る紫の瞳の色にまずは驚いた。


「紫色の瞳だ……宝石みたい」


 それに顔も、姫様と呼ばれていただけあってとても可愛らしい。

 異世界で出会った人はみんな綺麗な顔をしていたのでホッとする。

 

「体も髪も綺麗にしてくれてありがとう。リボンもとってもかわいい」


 着せてくれた服は白いワンピースだ。

 フリージアが今まで着ていた簡易的な洋服から考えるとドレスともいえるけれど、もしかしたらこれがこの世界のパジャマなのかもしれない、優しい素材で出来ている。


 長く伸びた髪は軽くまとめ邪魔にならないようにリボンで止めてくれた。

 普通の女の子らしくて安心できる。

 この見た目なら閉じ込められていた女の子だとは誰も思わないだろう。


「エイダさん、ヘレナさん、ありがとう」


 可愛い仕上がりにフリージアも大満足だ。

 これならまたエルドレッドの驚いた顔が見れるかもしれない。





「お嬢様、食事が届きました」


 美味しい匂いがする料理がワゴンに乗って運ばれてきた。

 この世界に来てから初めての食事にフリージアの心が弾む。

 

「今日はこちらで召し上がりましょうね」


「ベッドで食べていいの?」


「はい、お嬢様はまだ体が本調子ではございませんので今日はこちらで」


「うん、ありがとう」


 ベッドに座るフリージアの前に小さなテーブルが置かれ、料理が置かれる。

 フリージアの体調を考慮してパン粥を用意してくれたらしい。


 温かそうな湯気の立つ料理を目の前にしてフリージアの顔に自然と笑顔が浮かんだ。


「とっても美味しそう」


「それは良かったですわ。さあ、少しずつ食べましょうね」


「うん」


 ナフキンを首にまかれ、スプーンを渡された。


「いただきます」


 ふーふーと冷ましてパン粥を口に運ぶ。

 これまで何か分からない薬のようなものを摂取されていたフリージアの初めての食事。

 温かくて甘くて優しい味付けでとても美味しい。


「凄く美味しいです」


「それはようございました」


 感想を伝えればエイダとヘレナが嬉しそうに微笑んでくれた。


(みんな優しいなぁ)


 ご飯を食べただけで喜んでくれる人たちがいる。

 勢いでエルドレッドに付いてきたけれど、間違いじゃなかった。

 こんな優しい場所にフリージアを連れてきてくれたエルドレッドには感謝したい。


(エルドレッドが一番優しい)


 そんなことを考えながら食事を続けていると、フリージアは急に胃が痛くなった。

 しくしくして胃の中を針が指すような痛みを感じる。


「……っ」


「お嬢様? どうなさいましたか?」


「うっ……胃が、胃が痛いの……」


「まあ! 大変、ヘレナ、すぐにヒューゴ様に連絡を!」

「はい、行ってまいります!」


 痛さでぎゅうっと身を縮める。

 肘がテーブルにあたって残りのパン粥がこぼれてしまう。


「……ヘレ、ナ……ごめん……さい……汚れ……」


「お嬢様! お嬢様!」


 折角用意してもらったのに、フリージアは残すどころか料理をこぼしてしまった。

 申し訳なさでいっぱいだ。


(温かくてとても美味しいご飯だったのに……)


 料理人だけでなくエイダにもヘレナに謝らなければいけない。


(パン粥もっと食べたかったなぁ)


 もし明日を迎えられたら、またパン粥をお願いしよう。

 精一杯謝ればきっと許してもらえるよね。


 意識が遠のきながらフリージアはそんなことを願っていた。

 

おはようございます。夢子です。

本日もお読みいただきありがとうございます。

またブクマ、☆、などの応援もありがとうございます。


春みたいな温かさの後に凍えるような寒さが来ています。

皆さまもお体にはご自愛ください。

それでは仕事に行ってきます……(涙)

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