エルドレッドの希望
「イェネーブル王国はもう終わりだろうね。非魔法使いが活躍できる環境ならいいけど、あの国は魔法使いが尊ばれ重要視される国だ。魔法が使えない、魔力がない、そんな者たちの話を聞く国じゃない。魔法が使えなくなっても簡単に変わることなんて出来ないだろうから、落ちていく一途だろうね……それに次期国王の第一王子はクズ同然だ。何でも力で解決しようと考える奴だ、良策を思いつくとは考えられない。他の王族も誰かに責任を押し付け騒ぐことぐらいしかできないだろうし、王族全員が側近の話を聞くような人間でもないしねー。このまま徐々に廃れていく未来しか見えないよ」
「……そうか、それほどか……」
魔力塔を破壊することなど無理だとエルドレッドから聞いていたため、フェリックスは今後もまだあの国が世界的に強気な状態が続いていくのだろうと諦めていたが、エルドレッドの話を聞いて希望が湧いていた。
いや、それ以上の喜びと言ってもいいだろう。
魔法塔を壊さなくても、こちらが何もしなくても、イェネーブル王国が勝手に落ちぶれて行ってくれるのだ。これほど楽な戦いはない、そう言える。
魔法大国といえるあの国で、急に魔法が使い辛くなれば大騒ぎになることは確実。
原因を突き止めようとしても、無能ばかりが上に立つ状態ではそう簡単にはいかないだろう。
それに何かをされたわけではない、しいて言うならばフリージアが消えただけ、魔法塔は現状維持のまま、魔力球も損傷はない。なのに魔法が使えなくなる。イェネーブル王国の混乱が見て取れるようだった。
当然フリージアが消えたことが原因だとそう思う可能性は高いが、魔力球に魔力は注入できる状態。
そうなればフリージアの代わりを見つければいい、そう簡単に考えることだろう。
彼女が生まれる前からあの魔法塔は王城内にあるのだ、これまで同様の対応をすればいいと、まずはそんな考えに行きつくはずだ。
(彼女を探す可能性も低いかもしれないな……魔力の使い過ぎで死んだと思い込む可能性もある)
フリージアについていた足枷も壊すことなく外したと言っていた。
そうなれば彼女はあの中で消滅してしまった。
そう考える方が普通だろう。
ただあの塔に忍び込んだ他国の者がいる可能性は、非常に高い。
エルドレッドが簡単に忍び込めたというのだ、他国の諜報員だって同じように忍び込めるはずだ。
そう考えれば彼女の存在を知る、他国の者がいても可笑しくはない。
第一、彼女の情報が載った書類は容易く見ることが出来たそうだ。
そうなれば彼女の魔力がどれ程のものか、知っている者も当然いるだろう。
中にはイェネーブル王国内に潜伏し、常時見張っている国があっても可笑しくない。
そうなれば当然魔法塔の異変にも気づき、原因を探るはずだ。
今後はイェネーブル王国よりも他国の方が油断できないかもしれない。
そう考えれば彼女を他国には放出することなど愚策。
エルドレッドのいう通り、古代語を自由に使える者を逃がす手はない。
この国にとどまり力を振るってもらうことが一番だろうが、彼女を気に入っているエルドレッドがどこまで彼女の行動を許容するのかは、フェリックスでも分からなかった。
「フェリックス、これで依頼完了ってことでいいかな?」
「ああ、勿論だ。依頼以上の成果を上げてくれた、ギルドにもそう報告しておく、願い通り依頼も上乗せしよう」
「うーん、じゃあ、爵位を頂戴」
「は?」
「あと小さくてもいいから領地も欲しいかなー。あんまり王都から離れていない場所で景色が良い土地が良いかなー」
「……エルドレッド、お前……」
フェリックスの従兄弟と分かった時点で、エルドレッドには領地と爵位を渡すと言っていた。
だが貴族は嫌だと頑なに拒否し続けていたエルドレッドとは思えない願いに、フェリックスは驚きしかない。
「フィシィを良い環境で育ててあげたいからねー。流石にフィシィを平民として市井で育てるのは難しいでしょう? フィシィは可愛いから平民だっていうには無理があるし、自分で魔法作っちゃうぐらいの天才だから目立つだろうし、強力な魔法が使えるとバレたら悪い虫がわんさか湧いてきそうだしねー」
「……いや……別にいいが……お前……まさかあの子を自分の娘として育てるつもりじゃないよな?」
「娘? ううん、そんなこと考えてなかったよ。ただフィシィとはずっと一緒に暮らしたいなって思っただけで、だったら出来るだけ目立たない環境をって考えたら爵位が必要かなって思ったんだよねー」
「まあ、確かに爵位はある方があの子のためにもなるだろうが……」
「? なに?」
「……いや……」
このエルドレッドがいずれはフリージアと結婚をしたいと思うだろうか?
同じ性を持ち兄妹として育てば、それは難しくなる。
ならばエルドレッドとは別の家にフリージアを養子に出す方が良いだろう。
フェリックスはエルドレッドがキレないか? と少し心配になりながら、提案を出すことにした。
「エルドレッド、まず、彼女にはちゃんとした親を付けてあげるべきではないか?」
「親? 親なんて邪魔なだけだろう?」
「……」
確かにエルドレッドの親は最悪な者たちだった。
それにイェネーブル王国の王族もフリージアの親と呼ぶには値しない者たちだ。
「邪魔……だっただろうな、お前にとってはな……だが、彼女は何も知らない。親の愛も家族の愛も普通の幸せというものを何も知らない……そんな彼女にまずは当たり前のものを用意してあげるのはどうだろうか?」
「当たり前の物?」
「そう、私が安心できる家に彼女を預け、お前は彼女の家庭教師としてその家に一緒に住めばいい。いずれ彼女が成人したらお前に与える領地に一緒に住み、二人きりで自由に過ごせばいい。勿論それは彼女が望めばの話だが、お前ひとりで決めるのではなく、まずは彼女と相談して将来について話し合ってはどうだろうか?」
「相談かぁ……」
「そうだ、彼女は昔の記憶があるのだろう? きっと見た目よりも心は大人だ。自分の考えを持っている可能性だってある」
「フィシィの、フリージアの考えか……」
「ああ」
フェリックスの言葉は多少はエルドレッドに届いたようだ。
これまでだったら「そんなのいらないよ」の一言で片付いていたはずだが、フリージアと出会ったことでエルドレッドの中にも変化が訪れたらしい。それも良い方向に……
自分の自由に、ではなく、フリージアのために何が一番いいか。
そう思うことがエルドレッドにも出来たようで、フェリックスは嬉しさを感じる。
「うん、そうだね、フィシィにやりたいことがあるか聞いてみようかな……」
「ああ! それが良い。私も助力は惜しまない、彼女はお前と同じくこの国の、いやこの世界の恩人だ。出来るだけのことをすると約束しよう」
「……うん、分かった。じゃあ、フィシィが起きたらーー」
そこまでエルドレッドが言いかけると、慌てたようなノックの音が聞こえた。
扉の外でヒューゴが「陛下緊急のご報告です」と言葉を発し、フェリックスが入れと指示を出す。
するとそこには青い顔のヒューゴが入って来て、フェリックスよりもエルドレッドに向けて声を掛けた。
「申し訳ありません、フリージア様がお倒れになられました」
「なんだと!」
「すぐに部屋に案内して!」
「は、はい」
報告を受けたエルドレッドは急いで部屋を出る。
フリージアに何かあったらと思うと、寒気のような恐ろしいものを背筋に感じた。
フリージアは自分の傍にずっといる。
この先ずっと一緒の時間を過ごす。
そう望んでいただけに、フリージアがこのまま消えてしまうかもしれない。
そんな現実を前に、エルドレッドは大切なものを失う恐怖、というものを初めて感じていた。
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