イェネーブル王国のその後
最近お気に入りの妾妃たちと楽しい夜を過ごし、ブランチにちょうどいい時間に目を覚ましたイェネーブル王国の国王ハンフリー・イェネーブルは、宰相からの緊急面会の申し込みが入っていると聞き、渋々だが身支度を整えた。
イェネーブル王国は豊かな国。
富める大地に穏やかな気候。
これまで大きな災害など何もなく、魔法使いも他国より多く生まれるとあって、世界一強い国と自信を持って言える自慢の国だ。
それがイェネーブル王国王族の誇りでもあるし強みでもあり、他国にも強気で出れる武器でもあった。
ハンフリーはいつまでもその優位が続くと信じていて、生まれてから疑うことなど一度もなかった。
何故ならイェネーブル王国には魔法塔がある。
あの巨大な古代魔道具は誰にも壊すことは出来ない代物だ。
なので他国からの侵略の心配はないし、かといって魔法塔を誰かに盗まれる心配もない。
イェネーブル王国に生まれた者は皆そんな考えで合って、その中でも魔法塔をよく知る王族が一番うぬぼれていて、心が緩んでいる状態でもあった。
昔、イェネーブル王国の王族は全ての魔法を使える万能の状態で生まれていた。
一般市民であっても魔法使いであることが当然、魔法を使えないことなどあり得なかった。
それが何十年、何百年と歴史が進むうちに、魔法使い自体が貴重な存在となった。
気が付けば王族の中でも魔法使いが生まれる確率は半数以下。
一般市民であっては十人に一人がどうにか魔力持ち、そんな状態に陥った。
ハンフリーが生まれる前は、王族皆で魔法塔に魔力を供給してきたらしいが、年々難しくなり、魔力の使い過ぎで倒れるものまで出るようになった。
考慮した結果、魔法塔のためだけに生きる王族【魔力源】を作り出すことにした。
ハンフリーの弟だか妹とかいう存在の者たちも、これまで何人も魔法塔に魔力源として住まわされていた。王太子になるまで魔力塔の内情など知らなかったが、王になる以上魔力塔を管理しなければならなくなった。
そして遂にハンフリーの時代となり、ハンフリーは前王同様自分の子を作り出した。
幸運なことに魔力源とされる子は多く生まれたが、五歳ぐらいになりある程度魔力が落ち着き魔力塔へ送り込めば、何故か数年後には皆死んでしまった。
「人口が増えているのに対し魔法使いが減り、魔力球からの魔力供給が増えているからでしょう」
そんな管理部の話を聞き、ハンフリーは少し不安になった。
ただでさえ自分の子でも魔法使いが出来辛くなっている。
巨大な魔力持ちの魔法使いなどもう生まれないかもしれない、そんな思いが少しだけ脳裏をよぎった。
けれ今回、最後に生まれたハンフリーの子には成功した。
巨大な魔力を持った子が上手くできたのだ、それもこれまでも研究の成果だろう。
第一王子の時代になるまではもう何も心配いらない。
ハンフリー王の時代は安泰。
そう思っていたのだが、宰相からの報告を聞いてハンフリーは言葉を失った。
「あれが……消えただと……?」
「はい、今朝がた第三王女殿下のお部屋に向かったメイドたちが王女殿下がいないことに気付きまして……護衛と共に辺りを捜索いたしましたが、今のところ見つかっておりません」
「そんな、馬鹿な……あの足枷は外せるものでは無いだろう……」
「はい、足枷は壊れることもないままその場に残っておりました。王女殿下だけが消えた……そんな状態でございます」
第三王女と呼んではいるが、魔法塔に入れられていた他の子ども達も皆、空きのある王女や王子の位で呼んでいるだけ、正当な王女でも王子でもない。
生まれてから一度も顔を合わせたことのない、ただ魔力塔に入れるためだけに作られた子供。
高位の令嬢から生まれたわけではなく、魔力源を産むために集められた女たちから生まれた奴隷に近い立場の子供。
そんな存在である子供だ、人間らしい感情など持たないように育てていた。
文字も覚えさせず、数字も教えない、言葉だって話せるかも分からない、そんな状態の子供が一人で逃げれるわけがない。
ただし大事な魔力源となるため失っては困ることもあり、護衛もつけ、世話する者もつけていた。
怪しいとすればその護衛か、メイド、そのあたりだ。
自分で考えることも出来ないただの道具でしかない子供。
それが魔力源の子なのだが、それが自ら逃げだしたなどあり得ないとハンフリーは憤った。
「護衛かメイドがどこかへ隠しているのではないか?」
「あの者たちには魔法によって制限が掛けられております。王女殿下に危害を加えることは出来ませんし、護衛に至っては部屋に入ることすら出来ません」
「じゃあ、一体どこに? まさか消滅……? 死んだ、というわけではないのだろう?」
「……それも調べてみなければ、何とも言えません……」
「……」
これまで、魔法塔に入れられて死んでしまった子供たちは、魔力を使い切った後干からびた状態で死んでいた。
魔力を吸われすぎによる死なのだろうが、それは汚らしものだった。
あれらに自分の血が流れていると思うだけでハンフリーは気分が悪くなり、寒気がした。
だが平穏な国を守るためならばそれも仕方がないと、王として我慢していたのだが……
こんなことになるのならやはり高位の令嬢と作った子供を魔力源にするべきだった、とそんな考えが浮かぶ。
だがそうだとしても、このご時世では魔力を持った子が産まれるとは限らない、実際今魔法が使える正当な子供は第一王子のみ、第二王女にも魔力があるらしいがごくわずか、あれでは魔法塔に入れたとしても何の役にも立たないだろうとハンフリーは頭を抱えた。
「取り敢えず、あれは探し続けろ、それと消えた原因も探れ」
「勿論です」
「それで……宰相、次の子供は育っているのか?」
「いいえ、第三王女以降魔力が高いお子様は育っておりません……」
「第一王子の方は……」
「……王子殿下は、その、そもそも抱いた妾を面白半分に殺してしまいますので、子供自体満足に出来ておりません」
「はあ、そうか……なら第二王女に子を産ませるか……第二王女は気に入った男たちを傍に置いているだろう? その相手と適当に子を作らせるか」
「……試してみる価値はあるかもしれませんが……王女殿下では難しいかと、魔力が一般人とさほど変わらない程度ですので……」
「クソッ、役に立たん奴らばかりだな! 我の子とは思えん!」
「……」
ハンフリーは正当な生まれの弟たちを、自分の身を護るために消している。
王位を狙われては面倒だと、自分が王となったと同時に始末したのだが、今になり後悔をしている。
その気持ちは愛情からではなく魔力源用に残しておけばよかった……そんな気持ちだ。
子供などいくらでも作れる。
そう思っての行動だったのだが、まさかこれほど魔力を持った子が生まれないとは思わなかった。
特に第三王女が生まれてからは全くと言っていいほど高魔力の者が出ていない。
もし一般の魔力持ちを無理やり魔力塔に入れ、あの魔道具に繋げたとしたら……一日持たせるのがやっとというところだろう。
「第一王子に妾を殺すなと伝えろ、それから第一王子に魔力塔の詳しい事情も話して、至急子供を作れとも伝えてくれ、でなければ王位は第二王子に継がせる。それで第一王子を魔力塔に入れれば数年は持つだろう。今はそれしか方法がない、あれの代わりになるものがいないからな」
「……畏まりました……そのように……」
宰相が出ていき、ハンフリーはソファーへぐったりと身を預けた。
これまで魔法塔の運営は盤石だった。
それなのにまさか自分の代でこんな問題が起きるなど予測できるはずがない。
「はぁ、北と南の魔力塔も調べるよう指示を出さなければならないな……全く面倒くさいことだ……」
この時ハンフリーはまだ油断していた、考えが甘かったと言える。
魔力を持つ子供はすぐに生まれるだろうし、第三王女の代わりもすぐにできる、そんな考えでいた。
けれど翌日、魔法が満足に使えないと魔法使いたちが騒ぎ出す。
そしてそのせいで徐々に国中の魔力が減り、公共の魔道具が止まり動かなくなる事態に陥ることをこの時のハンフリーは気づいていない。
フリージアを逃がした代償は大きなものとなるのだが、そのことにハンフリーだけでなく、この国の者誰もが気づいていなかった。
「あれはいったいどこへ行ったのか……」
姿を消した第三王女。
彼女はまるで、イェネーブル王国のすべての魔力を持って逃げたかのようだった。
こんばんは、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
またブクマ、☆などの応援もありがとうございます。
イェネーブル王国の話はまた出てきます。
ちなみにハンフリーは子供たちの名を覚えていません、妻たちの名も曖昧かもしれません。
第一王子にはヘイリーという名が作者によって付けられています。




