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『Hanger Weapon』

◆◇◆◇◆


「ハグレになる確かな◾️◾️は分からんが

 調子がすこぶる悪くなると

 モンスター化、ハグレになることは分かる」


「俺は触った時に何となく

 こいつはもう寿命だなって分かるんだ」


 レムさんとチャラントさんから聞いた話から大凡の察しがついた。この世界では『魔力』ってものが生命活動の根幹を担っている


 食べることでそれを取り入れたり、傷つけてそれを減らしたりして生活を送っている。道具は魔力を少しずつ減らして存在している


 モンスター化というのはドロップが消えたくない一心で再度モンスターとなる状態のことだろう。ハグレが消える理由にも合点がいく


 凶暴になるのも足りない魔力を補うためか、安定している物質達への嫉妬か。いずれにしろ、逃げるのが正解というのは合っていることだろう


『消え行く存在を態々倒そうだなんて

 割りに合わない』


「(それが懸命)」


 僕もそうしたい、消えるなら災害と同じで過ぎ去るのを待つのが1番だと思う。街もその備えをしていないわけがないから


「(なんだけどね)」


 レムさんの工房から外に出る。工房の熱から解放され少しばかり身体が軽くなった


「んでハグレってのがアレか」


 一度興味を持ってしまったからには終いまで付き合わなければ寝つきが悪いと走り出す


 家一軒の屋根から巨大なモンスターの頭が覗いていた。3〜4メートル程の全身毛むくじゃら、異様に発達した前腕とずんぐりとした顔


「⚫︎⚫︎⚫︎コングかよ」


 建物をバリボリと食べているその様子を見るに仮説はあっており、補充が続く限りは消えることはないだろう。街ひとつを食い潰すなら早々に退場願いたいが


「どうやって倒したもんかね」


 そんな僕の上空を跳んでいく人影があった


「あいつ」


「むぅ、硬い」


 手刀女───イバチャンだった。手刀の一撃?がぶつかると同時に無数の血飛沫とちぎれ飛んでいく表面の体毛が目で捉えることができた。防戦一方の『一対一』


 イバチャン優勢だったが突如


「!?」


 イバチャンは物陰から現れた何かに殴り飛ばされ、凄まじい勢いで近くの民家の屋根に吹き飛ばされた


「嘘ぉ」


 ハグレモノは2体いた


◆◇◆◇◆


 まずい不味いまずい、急いで近くの民家に逃げ込み走り抜ける、迫る手のひら、潰れる屋根と柱


「なぁあ!!」


 窓に向かって突っ込み突き破ることで間一髪潰されずに済んだが、危機を完全に脱した訳ではない


 元気いっぱい『エテコウ』2体がそこら中を潰して大惨事。一体ならまだしも2体は聞いてない。ゴリラのヘイトがこちらに向き、こちらは掴まれまいと全速力で滅多矢鱈に動き続ける


 体感ゴリラに即捕まるとばかり心配していたが思いの外、逃げ切れている様で安心を覚える。が


 遮蔽物を諸共叩き潰してくるゴリラ2体の相手がそう長く務まるわけがない


「(一体だけなら多分いけるんだ)」


 イバチャンってやつが起きてくれさえすれば1体を押し付けられるのに


「(って大丈夫…じゃない!!)」


 腰に掛けていた『欠けたナイフ』を取り出しゴリラの足元に走り、イバチャンを鷲掴みにしている1体の足首目掛けて斬りかかる


「食うんじゃぁねぇ!」


 僕の仮説が合っててくれと願いを込めた一撃がゴリラの足に僅かな切れ込みを与え、抜けなくなったのが感触で分かり、体力を振り絞って走り始める


 けたたましい咆哮と共に足元に広がる真っ赤な鮮血


「(言葉にならない踏ん張り)」


 落ちてきたイバチャンを掴み、抱え込み、盛大に転けた。興奮で痛みは来ていないが分かる───皮膚が所々でずる剥けて血が流れている感触がする


 打撲のせいでもう走れる気がしない


「(でも走れ)」


 背中全体に走る痺れた感覚と痒み、痛いなぁ、泣きたいなぁ、それでも受け止めた、ずっしりときた。よくやった僕


 咆哮の続く最中、急いでカート屋───『アルオーナー』まで退避を始めた


◆◇◆◇◆


「あ!お客さん」


「すみません、手当を」


「え?ってうわ!」


 息が切れる。意識が薄れて仕方がない


「何があったんですか?」


「いや、何というか」


「おいおい、若造お前何をした?」


 イバチャンをチャラントさんに任せて倒れ込む様にアルオーナーの床に倒れ込む、動ける気がしない中、レムさんに肩を貸してもらいカウンターに身体を預ける


「ハグレになろうとしていた武器を

 利用しました」


「ハグレに?そんな"なまくら"が

 役に立つのか?」


「迷宮の中では恐らく無意味ですが

 ここは地上なのでいけると思ったんです」


「服破くぞ」


「はい」


 傷の処置を受けつつ個人の見解を述べ始めた


『モンスター化現象』とは───ハグレモノになるドロップアイテムは極度の魔力欠損状態である。ドロップアイテムは微力ながら魔力を常に消費し、最後には消滅してしまう


 消滅したくないアイテムはどうにかして消滅を免れようとモンスターに戻り、周囲の魔力を取り込もうとする。その前段階として魔力を異常に吸収し、モンスター化をする


 整合性を一時的に失うため、道具などはその調子を著しく悪くする。魔力を吸収し終えるとモンスター化をする。これがハグレモノの正体


「モンスター化できる量の魔力を

 捻出できるかはドロップ側次第ですがね」


「詰まるところなんじゃ?」


「魔力を奪い合うハグレの共食いです」


「はぁ〜何つう皮肉」


「仮説検証として上々ですが

 物が嵩張る上、威力が分からない

 最悪事態を悪化させかねないので

 今回みたいな被害上等な時にしか

 使えないと思います

 ハグレがもう一体出かねませんし」


「お前さんいつもそんな面倒くさいことを

 考えとるんか?」


「興味を持った時だけです」


「変わっとるのぉ」


 結果として片足首を失ったゴリラは魔力を通常より早く消耗し始めたため、民家や建物からの摂取ではもう存在を維持することは不可能になっていた


 となればゴリラはもう1体のゴリラを捕食して存在の維持に努めようと躍起になり、攻撃対象を変更───結果、両者での削り合い共食いを始めた


 背中の痛みが鮮明になる頃にはゴリラの地面をえぐりとる程の膂力どうしのぶつかり合いは止み、残ったゴリラも瀕死の重傷をその身に受けていた


 真正面からやり合えば絶対負けていたなと思う程の『怪獣バトル』被害は街ひとつで済んでいたのだろうか


「止め、刺してきます」


「気をつけろよ、お前さんも無傷ではないんじゃ」


「ご忠告どうも」


◆◇◆◇◆


「…」


 腰の2本目の『欠けたナイフ』を取り出した。先端が欠けただけのナイフ、被害が少ない方のナイフでも件の現象は起きるのだろうか


「…」


 ゴリラがこちらを認識した。片腕は欠損し、もう片腕は千切れてもおかしくない程にボロボロ、足元は覚束ず、息は絶え絶えだ


「…」


『どっちが辛くないだろうか?』こっちの『欠けたナイフ』か『銅の槍』か


「…そうだな」


 辺りを見回し程よい建物に入る。階段を上がるたびに背中の痛みがぶり返す。痛みで最早笑いが出てくるレベルなのだがゴリラを野放しにはできない


 ゴリラの全長を辛うじて確認できる高さから、今も建物の残骸を貪ろうとするゴリラの上に飛び乗る。身じろぎすらしないのはそれほど弱っているからだろうか


「…」


 人間の悪いところだな。僕はいま、このゴリラのことを少しでも『可哀想』だと思った。街を破壊し尽くさんとしていた。コイツらにだ


 僕は武器を振り上げ、体の急所であろう部位目掛けて振り抜いた

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