『カート…どころではなくなった』
◆◇◆◇◆
翌日、グレーさんの付き添いで街に訪れた時のこと『貯金』がかなり貯まったこともあり少し断りを経てから恵みの享受に足を運んだ
「おはようございますエルさん」
「あ、キヨマルさんお久しぶりです」
◆◇◆◇◆
「なるほど、でしたら
『アレ』を購入されてみてはいかがでしょう?」
「『カート』ですか」
エルさんが指を指す先にはカートを押したり、引いたりする群衆の姿だった
「カートはそもそもが
探索を補助するための道具です
ドロップした物を保存する機能もあるので
持っていて損はないかと思いますよ」
「なるほど」
換金場にて、そんな話が出たのは先日のモンスター化の話をしたからだった。カートは以前からよく見かけていた。四輪もしくは三輪駆動のものを指し、動かせる箱の様なものである
鞄同様採取したものを保持しての移動ができる代物なのだが、その差別要素は『安定性』と『保持重量』、『カスタム要素』にある
『カスタム要素』───カートそのものに装着する『各種パーツ』や『魔法』のこと。金属、木材、各種魔法素材を人の手で加工して取り付けることで鞄以上の快適性を発揮することがある
「そんなにいいものなんですかね?」
「私が保証します」
「では見に行ってみますね」
「あ、でしたら」
◆◇◆◇◆
「…」
「こちらグレーさん」
「ど、どうも」
「こちらエルさんです」
「ど、どうもなのです」
それにしてもカートか、前回探索時に僕が荷物持ちをすれば問題ないことが分かったおかげで鞄で十分だった探索事情が変わった
僕は荷物持ちに徹することのできる道具があればそれだけ稼ぎに直結する
「そう言えばカートのカスタムって」
「「はい」」
カートについて質問をしようとして振り返るとエルさんとグレーさんが睨み合っていた
「きょ、強固や保持以外に
どんなものがあるんですか?」
「気になりますか?」
「強固や保持以外には
軽量化があるのです」
「…」
「なるほど」
僕の返事にグレーさんは近くに出ているカート屋の陳列窓の前で立ち止まりながら話を始めようとしたら、エルさんが僕を引っ張った
「ん?ん??」
「とても人気なのは盗難防止なのです
確かドロップを取られた経験があるとか」
「そ、そうですね」
「それなら…」
「それならですね」
「ぶぇ!?」
「持ち主しか取り出しが出来ない機能
ドロップ品以外も守ってくれるのです」
「(南京錠みたいなのからパッと見仕掛けが
分からないものまであるのか)」
「先程話題に上がりました!重量軽減も人気ですね。入れたものの重さを感じにくく動かしやすいかったりだとか、中に入れたものを温めてくれたり、冷やしてくれたりって物もあるんですよ!」
なんかさっきから2人とも引きが強いな?
「エルさんでしたっけ?
質問をされているのは私なのです」
「いえいえグレーさん?
キヨマルさんは私を頼ってくれたんですよ?」
ん〜色々な視点が欲しいからと声を掛けたのは失敗だったかな、双方のこだわりが強すぎて衝突が生まれてしまっている
「…はぁ」
「「!?」」
それにしても重量が嵩張った鞄は重くなる。カートは必須として、次に必要なのは中に入れた物が良くも悪くも変化しないため、冷やせたり、温めたりできる機能は素直に便利なので欲しくなる
重量を気にせず探索を続けることができるのもこれまた魅力的だと思った───懸念点は『金額』だろうか
確かに有用なものには変わらないが『カスタム要素』は言わずもがな『加工品』だ。人の手がわざわざ入っているものは余程品質を損ねていなければ値段が上がっていく。一体どれが良いだろうか?
「タイラーさん!」
「はい、タイラーです」
◆◇◆◇◆
喧嘩するほど仲がいいとはこのことなのだろうか。僕から険悪に見えていた2人はカートの吟味に僕を置いて行ってしまった
いや、むしろ素人の僕は2人の邪魔になってしまうだろうし、僕も僕で探してみるのがいいかもしれない
「馬か」
積載獣に引かせる商売人もいることから改めて必需品であると言える。手懐けるのは無理そうだし、人が扱える物がいいとして
「やっぱり値段かな」
パッと見たところ値段は数千万ロール、車一台を買うのと変わらない値段だ。メンテナンスにも時間や費用が掛かるなら実際の出費はこれの倍はかかること間違いなしだ
外車のカスタム車を買う時も値段ばかりに気を取られ、ガソリン代や車検で"すかんぴん"なんて悲しい事故もある
だからこう言う時は『勘』でいくのがベスト。買わずに"まごつく"ぐらいなら買って後悔上等ってなもんだと思う。あとごちゃごちゃ考えるのが面倒
◆◇◆◇◆
それにしても商業通り?って言うところは見ているだけで楽しいな基本は買取屋という『換金場』付近での買い物ばかりなため『オーダーメイド』の商業通りは『値段』も去ることながら『防具』や『武器』『おしゃれ用品』に『料亭』など
五感全てが刺激され、いるだけで楽しいと思え…ん?
「?」
なんだこの鼻に入る不快な感覚───腐敗臭?なにか酸っぱい臭いがした気がしたが気のせいだろうか
辺りを見回すが僕みたいに臭いを気にする人は居なかった
「(また、ストレス性の幻嗅か)」
高校の時にストレスが溢れて鼻に異臭が付き纏ったことがある。蓄膿症かと嗅ぎ間違える程の不快感、されど物理的な異常は体にはないと仮病を疑われたな
はぁ、嫌なことを思い出すな。もう数年前の話だっていうのに僕の記憶から離れてくれようとしない…展示窓にうっすら映る僕は眉間にシワを寄せていた
「それにしてもどれもこれも
値段は下がっているのに
まだまだ高いな」
カートはすっぴんで数万、自転車並みながらカスタムつけると数百万を悠に超える物ばかりだ───どれもこれも百万ロールだの二百万、三百、四百と、増えても下がる気配がない
不要なカスタムを削りとって六百万とは、上位の人間はどんな稼ぎ方をしているのやら、まんま車だ
ため息混じりに値札を眺めていると
「(ん?これは安い)」
やけに安いカートが目に入った。所々傷が目立つもののそれ程悪そうには見えなかった
「『アルオーナー』?」
展示窓に並ぶ、ひとつひとつが数万円。しかし【強固】【容量】【軽量化】と数万円の『カスタム』とは思えない内容に思わず店へと入った
◆◇◆◇◆
「いらっしゃいませ」
「すみません」
「はい、なんでしょうか?」
店員に聞いて分かったことは『修理痕あり』『消失軽微』『型落ち』と値段相応に不利益な部分があることが分かった
「なるほど、だからこの値段なんですね」
「親父には今どき中古、改造は流行らない
やめとけって言ってるんだけどね」
「こだわりがあるんですかね」
「俺には分からないよ」
いくら安くたって、問題ありじゃ買い手がつくものなのだろうか?不思議な物だが潰れていないのがその証拠か
「それは?」
これまた一見しても問題なさそうなカートがカウンターの裏に見られた。綺麗に整備されているしいい匂いのするカートだった
「あぁ、それはモンスター化の兆候があるから
処理しようとしてたんだよ」
「!?モンスター化の兆候って
分かる物なんですか?」
「え?まぁ」
「教えて頂けませんか?」
「…お客さん、何を考えているんですか?」
しまった。事を急いてしまった
「いや、それはですね」
しどろもどろになる僕の後ろで凄まじい轟音が発生した。それと同時に僕の身体はとてつもない倦怠感に包まれた
◆◇◆◇◆
「!!?」
「お客さん!?」
何?この全身が痺れる感覚、立ちくらみを諸に受けた時の様な衝撃が突然起こった。立ってられない
膝を地面につけ四つん這いになってしまった
「ハグレモノがでたぞ」
「にげろ!」
耳が鮮明に音を拾う───鼓膜が張った感覚と途轍もない気持ち悪さが続く
◆◇◆◇◆
「おい、チャラント
そいつは何だ?」
「うるせぇよクソジジイ
外の騒ぎ聞こえねぇのかよ!!?」
何だ?誰かが言い争っている声が聞こえる。悲鳴と轟音、地響きが聞こえてくる。しかもこの地響き『地震』とかじゃない
4DX映画で体験したことがある。四足歩行に近い二足歩行生物の足並みだ
「ハグレモノって…なんですか」
「お客さん!あんまり動いちゃダメだ」
逸れ?ハグレ?って何だ…。恐らくはモンスターの状態に由来する修飾詞の様な物だろうか
「ほぉ、おまえさん
魔力欠乏体質か
ここまで酷いのは初めて見たわい」
「魔力、欠乏、体質?」
「あぁ、魔力がないやつの事だ
マヌケだったり
マバツって言ったりしてだな…」
「いいから親父、逃げるぞ」
「なんじゃい、ハグレなんざ
少しすれば消える、ここで息を潜めとけ」
「でもよぉ」
「店主さん、ハグレって何ですか」
「ハグレってのはアレだ
あれ、ドロップ品を…」
「そんな話してる場合じゃ!」
「チャラントさん、僕は今
真剣なんですよ」
「…ほぉ、ハグレに挑む気か?若造」
「はい、だからひとつ、でも情報が
欲しいんです」
「は?何言ってんですか!
そんなフラフラなのに」
「…よし」
あ〜気持ち悪かった。酸欠を引き起こした時みたいな気分だった。深呼吸を3度、気付けに頬を叩いて気を引き締める
「街が機能不全になったら僕も困るんですよ」
グレーさんにエルさんもまだこの街にいる可能性がある。逃げてくれてたらいいけど、街の慌て様から被害で滞っているかもしれない
「だから、教えて下さい
モンスター化の条件を!
お金ならいくらでも出します!」




