『物の処分に関して』
◆◇◆◇◆
ある日の温かい夕飯の後、お皿を洗っているとグレーさんが何やら準備を始めていた
そんな準備もひと段落───落ち着いたのかグレーさんの手が止まった折を見てお茶を差し出す
「ありがとうございます」
「今何をされているんですか?」
「ゴミ処理の準備なのです」
「ゴミ処理ですか」
「はい」
「ゴミをどうするんです?」
「街の処理施設に持って行くんです
一緒に行くです?」
「お願いします」
◆◇◆◇◆
街の中にやってくるとその他の民家や換金場からもグレーさんと同様に『袋』を片手に同じ方向に向かって歩いているのが確認できた
「ゴミ処理ってどうするんですか?」
「基本的に燃やすのです
今日は業者さんが街に来て処理してくれるので
みんな持って行ってるのです」
「なるほど」
燃やす時にゴミの分別は必要なのだろうか?横で観察していた限りではそんな様子はなかった。金属、生ごみをまとめており、大凡一緒にする様な物ではないものが袋に入れられていた───手当たり次第といった様子だ
「分別はしないんですか?」
「分別ってなんですか?」
しまった。またやらかした
「えっとですね〜」
不味いな、良い言い訳が思いつかない。…いやむしろなんで隠してるんだっけ?別に教えても問題ない…
いや、違うな。精神異常者という面倒ごとを前提にした時『別世界から来た』なんて言う馬鹿な行動する方が稀有なだけだ。それにこれまでの言動からグレーさんが僕を『異世界人』ないしはそれに準ずる名称を使っていないところを見るに存在しないか『開示しない』のが1番リスクを伴わない
僕は自分の中で思考を巡らせてリスクのない方を選んだ
「野菜クズは野菜クズ
金属は金属といった感じで
ゴミを種類ごとに分けることを
分別って言うんですが」
「そう言った話は聞かないですね」
「そうなんですね」
助かったぁ〜
「何か問題があるんです?」
「いや、もしかしたら
燃やそうとした時に
アクシデントが起こったら
燃え残ったりしそうだなって」
「確かにそうなのです」
グレーさんは言葉を続けた
「なのでみんな十分に気をつけているのです
遠征の時とかは特に気をつけるのです
沢山の火で燃やしたり魔法を使ったり」
「なるほど」
根本的な解決ではなく予防線をいくつも張って防ぐ方法に少し不安があるものの今日まで世界が続いているのであればそれが正解なのだろう
それに人間が生活を送る上で消費、活用しきれない物は幾らでもある。それを一括でゴミとして処理する方法が確立されているのであればその方法を取るのが面倒なくて済む
分別に掛かる労力なんて果てしないのだから
◆◇◆◇◆
全てのものが迷宮から手に入るこの世界では
『迷宮の外ではあらゆる物が
放置されればモンスター化する』らしい
だからこそ『燃やす』ことで完全に消滅させるらしい。そうすれば『モンスター化』する心配はない
「昔から続いている処理方法なのです」
業者の方に渡したゴミの塊は灼熱により跡形もなく燃やし尽くされて消えるらしい『炭化』という現象がないことが前提の処理方法のため『元の世界』では絶対できない処理方法だなと思った
それにしても熱いな
「離れていても熱さが伝わってきますね」
「そうなのです?」
「少なくとも僕は熱く感じますね」
「タイラーさんはきっと
魔力が少ないのです」
「少ないと何かあるんですか?」
「魔法の影響を強く受けたりするのです」
気をつけないとな。そんなことを考えていたら処理が終わりを迎えた。それと同時に周りにいた人々が立って行った───周りに合わせていたものの変な雰囲気だなと思った
「燃え切るまで残るのが普通ですか?」
「そうなのです。もし燃え残ったら
モンスター化しちゃうのです」
「…そうなったらみんなで倒すとか?」
「いえ、いち早く危険から身を守るためなのです」
「?」
「燃えなかったりしたゴミは
モンスターになっちゃうと
元のゴミから◾️◾️◾️になって
暴れるから大変なのです」
何か必要な部分が聞き取れなかった。この現象はなんなのか一生着いて回りそうだ
◆◇◆◇◆
「…」
星空の真下、焚き火の近くで欠けたナイフを眺めて思う
「(これもモンスター化してしまうのか?)」
モンスター化という不思議な現象にとても興味が湧いた。特に理由はない───どう言った原因でアレが発動するのかが気になって仕方がないのだ。好奇心は猫をも殺すというが逆に知らなければ死にかねないため少し思考を割くことにした
「…」
放置と焼却未遂がモンスター化のトリガーとすると『燃やす行為』に『放置する行為』に物質側が何かを消費している?
もしくは何か別の要因だろうか?
「…」
元の世界では『炭化』『酸化』や『腐敗』により『物質』の形態が変化が存在していた。それにより元々の物質から『変化』したり、あるものは『微生物』により『分解』される
「(微生物か)」
この世界に存在するのだろうか?
「(顕微鏡…は、構造が分からない)」
僕は医者じゃない、科学者でも、薬剤師でもない。小、中、高校と使っただけの道具を作り出すのは時間が掛かる。今すぐには無理だ
「(目に見えて分かるのは炭化と酸化)」
目の前の焚き火もそうだ。少なくとも焚き火は炭も灰も生み出してはいなかった。料理もそうだ、加熱することで物質の結合を破壊したり、変化させる。処理と同じ工程を経ているが結果は全く違うものになっている
「難しいな」
何が違う?何が変わっている?疑問は尽きない
「タイラーさん?」
「?どうしましたか、グレーさん」
「眠らないのです?」
「…そうですね」
手招きされて布団に入る。いつも通り枕にされながら眠気に身を任せると星が見守る中ゆっくりと瞼が落ちていく
そういえば、人は、生きているだけで物質を消費するなら『死体』も『放置』すれば『モンスター化』するんだろうか?
「(いや、倫理的にダメだろ)」
少なくとも僕が自らやってはいけない領域を敷いたところで意識は微睡へと沈んでいった




