『新迷宮とアダムス家』
◆◇◆◇◆
「ニスペルヘイムですか」
「あぁ、なんでも最近出現した迷宮らしい」
街でナイフを新調していると店主がそんなことを話し始めた。なんか"〜ヘイム"って北欧神話に出てきそうな名称だな
「なんでもアダムス家が
ドロップを調べてるんだと」
「なるほど」
新しい迷宮か、テールの迷宮に行かない様にと言われている今、新しい迷宮というのはなかなか魅力的に映る物でナイフふた振りと銅の槍を購入するついでに店主に話題を振った
「新しい迷宮というのは
一般人や生産者が入れる物なんですか?」
「?あぁ、だが無駄骨になるかも知れんぞ?」
睨む様な視線。これは心配だろうか?
やや不審な目を向けられたがそれもそうか。この世界ではドロップが軸で考えられている。それぞれに適性があるなら態々───無駄骨覚悟でそんな所にいくよりアダムス家とやらがドロップを確認してくれてからでも遅くないだろう
「お前さんは変わってるのぉ」
「ですかね」
迷宮の位置を教えて貰い後日向かうことにした
◆◇◆◇◆
「ニスペルヘイムですか?」
「はい、聞くに新しくできた
迷宮みたいですよ」
「できたって
そんな料理じゃないんですから」
「ですね」
言語の壁がやや不安定だ。英語の直訳の様に意味が伝わらない時があるみたいでグレーさんにクスクスと笑われてしまった
「そういえばグレーさん
アダムス家って知ってますか?」
「はい、知ってますよ
植物と動物でとても優秀な方が揃ってる
"ファミリー"ですよ」
「ファミリー?」
「?はい、換金場で一緒に生産をする人達を
ファミリーって言うんですよ」
「なるほど、勉強になります」
アダムスファミリーって…いやそんなことより
「ファミリーの契約って
何かメリットがあるんでしょうか?」
「すみません、私はファミリーに
所属したことがないのでなんとも」
「あ、こちらこそすみません」
「いえ」
「…」
ファミリーか
◆◇◆◇◆
「いってらっしゃいタイラーさん」
「行ってきます」
朝食をとり終え、最低限の装備類と金銭を持って迷宮へと歩き出す。迷宮からはそれほど遠くないものの近くもない距離に少し昔を懐かしく思った
「駅から徒歩1時間」
それは昔僕が通っていた学校の立地で学校から出ているバスを逃せば近場の売店で自転車を借りなければ一時限目に到底間に合わない程離れている学校でのこと
それを思い出してひとりで苦笑いをする。夏は地獄、冬も地獄、秋春恋しい4年間。虫に天候、悪路とetc。それを引き合いに出せばただ離れているだけの悪条件なんてあってない様な物だ
しかし、それだけ離れていると何か暇を潰せるものが欲しくなる所、携帯がない今そんな都合のいいものが道中にあればいいのだがと思っていると
「おわ」
木造二階建てのやや古さを醸し出す古屋を見つけた。本当に駄菓子とか売ってるんじゃないだろうか?と言った外見に足を運ばずにはいられなかった
「いらっしゃい」
「…」
会釈をして家を一瞥すると驚いたことに駄菓子屋だった。となれば"アレ"があるかを聞く価値はあるかも知れない
「おばあちゃん、新聞一部」
「はいよ、180ロールね」
マジかあったよ新聞
◆◇◆◇◆
「ふ〜む」
朝刊を広げてニスペルヘイムについての記事を探して見るもそれらしい情報は特に得られなかった。ドロップの情報がそんなに早く掲載されるわけもないかと勝手に納得しつつ記事を読んでいく
「ん?探し人」
その中に一際目を引く記事が目に飛び込んできた。それは『人を見つけて欲しい』という内容が取り上げられている一面だった
うせびと探しの様に聞こえるが、『ドロップの要項』が大きく取り上げられていることから『求人』の意味合いのが強いことが見て取れる
そんな中でも一際目立つのが
「あの手刀女…」
イバチャン?と呼ばれたあいつ。堂々と『植物』のドロップで求人を出してやがったのが目に入る。ソムリエというからファミリー所属かと思ったもののパーティと呼ばれるファミリーとは別の集まりをしているようでより一層面倒くさいことが分かった
「ファミリーに所属してるなら
換金場通して文句でも
言ってやろうと思ったのに」
やめやめ、失ったもの数えるより次に進む方が建設的だ。腹立つけどな?しんそこ、腹立つけどな??
◆◇◆◇◆
「ん?」
新聞を読んでいる最中、道の奥から何やら人影がこちらに向かってきているのが見えた。新聞が邪魔になりかねないため折り畳み腰に忍ばせる
「…」
不思議な雰囲気の一団とすれ違った
端正な顔立ちの青年と青年を挟む様に女性2人が並んで歩く構図───横並び。ぶつかるのも申し訳ないし、と道の端の草むらに片足を突っ込み道を開けて通り過ぎるのを待った
「…」
すれ違い様に女性2人の服装が目に入った。グレーさんもオシャレとかに興味があるんだろうか?気になる所だ
「?」
青年と目があった。この世界にもアイドルというものがあるなら間違いなく抜擢されている顔面偏差値の青年
僕の行動は確かに不躾だったと反省、会釈をしてその場をやり過ごす
「どうしたのアー君?」
「知り合いの人?」
「いや」
さて、道も開けたし改めてニスペルヘイムに向けて歩き出す。もう直ぐで着く筈
「君」
「ん?」
後ろの方で声がしたので咄嗟に振り返ると先程の一団の青年がこちらに振り返っていた。先程の行動が気に障ったかも知れないと口を開こうとすると
「ニスペルヘイムに向かうつもりかい?」
青年が僕にそう尋ねた
「はい、そうですが」
「なら悪いことは言わないよ
今からでも引き返した方がいい」
「どうしてですか?」
「"何も"出なかったからだよ」
「…」
晴天の下、雲の流れ緩やかな空の下。鳥の歌の様な声からその言葉が紡がれた。なるほど彼はアダムス家の人だったか
「情報ありがとうございます」
それ以上の会話はなかった




