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『最低限の生活には』

◆◇◆◇◆


「いらっしゃいませ、キヨマルさん」


「換金お願いします」


 テールの迷宮に潜りっぱなしを抑制するためにドロップ2回毎に換金するようにした。グレーさんの使っていた大手の換金場を避け、個人経営の換金場を利用すると自ずと通う回数は増えて行き名前を覚えられた


 経営者には予め話を通しているので問題はないが早めに『時計』が欲しいところではある。今日も今日とて『もやし』を詰め込んだ鞄を買い取り屋『恵の享受』に持ち込んだ


◆◇◆◇◆


「710ロールですね」


 換金場を後にした時点で3回目の換金、日の昇りは天辺に来ており恐らく昼当たりなので町を見て回ることにした


 それにしても、本当に色々な種族というか人がいるんだなと感心する。それぞれが持っている鞄やカート(車輪のある鞄の様なもの浮かんでいないものを指す)の種類の豊富さが物流の特殊な成長を遂げていそうな雰囲気を見せてくる


 特に気になったのは有翼種───空を飛ぶための羽がある人たちのこと。空路も一般道の様な道路交通法が設けられていることもあり、いつかは話を聞いてみたいと思った


 鞄の大きさや高さの棲み分けなど僕が元いた世界でいうところの第三次産業に当たるものが全くとはいかないながら独自の進化を見せている


 産業といえば『第一次産業』・『第二次産業』はほとんど同一なものとして扱われており───『生産』・『加工(現品)』となっており、『加工』は殆ど見かけられなかった


 それでも全くないわけではない。カートについてはいい例だ。物を運ぶためのカートは『魔法』と呼ばれる『未知』の力で加工されており、見た目の弱々しさからは考えられないほど【強固】で【容量】を持っている


 この魔法はグレーさんの鞄にも掛けられているようで【容量】に関して使われていた。容量は保持量を増やすものと教えて貰った。今にしてみれば確かに竹槍が外に飛び出ないのが不思議な大きさをしていたなと思った


◆◇◆◇◆


「いらっしゃい」


 鍛冶屋に行けば同等の品質のものが並ぶ、グレーさんが言うには切れ味や耐久性に違いがあるのだと言うがパッと見で分かる違いはないため確かめようが今の所ない


「すみません、短剣を2本お願いします」


「短剣ね、研ぎは?」


「お願いします」


「はいよ」


 鋳造・鍛造は殆どするところはなく、研磨・修繕を主に扱う。オーダーメイド品は目が飛び出るほど高く皆がレディメイド───迷宮からの出土品を扱う


「350ロールね」


「どうぞ」


「毎度あり」


 鞘付きで一振り75ロール、研ぎ込みだと175ロール。商品より手間の方に高値がつくのは変わらず、紙幣を取り出し支払う。鞘はドロップした時に一緒に手に入るものらしい、その皮鞘も触り心地は良く短剣にピッタリ入る代物であるが


「鞘の手入れの仕方はありますか?」


「鞘?それは防具屋に聞きな」


「分かりました」


 棲み分けが不明なのが気になるところではある


◆◇◆◇◆


 そんな事を考えつつ、防具屋で鞘の手入れの仕方を学んだ


『10ロールの情報』───革製品を扱うのと同じと思いきや、『水』につけて余分な水気を拭き取れば問題ないとのことでなんとも不思議な手入れの仕方を学んだ


 グレーさんと昼食をとり、午後の探索に出かける。短剣の使い心地はというと先ず先ずだった


 威力はある。しかしリーチを捨てる程の魅力は今のところ感じなかったため、護身用として腰に掛けることにし、補強した竹槍で今日も狩に勤しむこととした


◆◇◆◇◆


 そんなこんなで恵みの享受に足を運ぶ日々が続くと日々の変化が目に見えて分かる。恵みの享受の平均人口密度が上がっていた


「いらっしゃいませ

 今日も精が出ますね」


「ありがとうございます」


 静かな店内、人の出入りが少ない時間帯。鞄をエルさんに預けて店内を見回していると手持ち無沙汰な従業員に声を掛けられた


「キヨマルさ〜んですね?」


 最近恵みの享受に増えた従業員だ


「はい」


「ふむ、ふむ、なるほど」


「ちょっとイーラ、キヨマルさんは…」


「はいはい、分かってますよ〜

 ところでキヨマルさん、何で大きな鞄を

 買わないんですか?」


「イーラ?」


「だってそうじゃないですか!

 一日で運んでくる量を見れば

 移動時間がロスになってるのは明白ですよ」


「…」


 エルさんが眉間に皺を寄せている。仕事の滞りが出かねないのでエルさんに断りを入れて話を始めた。別段秘密にする意味もないし


◆◇◆◇◆


 換金の合間『迷宮病』とその対策についてイーラと話しを始めた。僕が迷宮に潜っていられる時間があまり長くないことを話すと頷きながらイーラさんは口を開けた


「なるほどですね〜

 私も冒険者の端くれ

 その病気については理解してるつもりです」


「はい、なので移動時間をあえて

 長く取ることで迷宮内の状態を」


「保って貰っているんですね

 時間が経てば元に戻りますし」


「そうです、僕はどうにも迷宮病に

 罹りやすいみたいなので」


「迷宮病は人それぞれですしね

 となると第二階層以降の攻略は難しいですね」


「そうですね」


「お待たせしました」


 そんなこんな話をしていると換金が終わったエルさんが鞄を手に戻って来た。中にはもやしの代わりにロールが入っている


 ロールの価値は今までの換金から円と同じか、やや円の方が安い。前の価値観で換算すれば足りなくなると言うことはないだろう


 贅沢はできないものの食いっぱぐれることはないと思う


 イーラさんとの会話からふと『第二層』のことを思い出し、エルさんに尋ねた


「地下二階はどんなものがありますか?」


「テール迷宮のですね

 あそこの迷宮は探索が完了して

 久しいので少しお待ち下さい」


「分かりました」


 エルさんはそう言って裏へと戻っていった


 迷宮の攻略情報は紙媒体でまとめられている。それを探すのは年代が進むごとに難しくなっていく、マイナーな迷宮であればあるほどそれは顕著になっていく、さらに更に


 必要な『食料品』ながら規模の小さな迷宮では腕試しに潜る物もそういない、それこそ『あぶれ者』が集まる用途以外では訪れないだろう


「それにしてもキヨマルさん

 あのような小規模の迷宮にかかりきりなんて

 中々の変わり者ですね」


「そうですかね?」


「そうですよ、ひとりで迷宮に潜るなんて

 自殺行為に等しいんですから」


「なるほど」


 グレーさんが言ってた通りか、迷宮にひとりでいることはあまり推奨されない───いついかなる時でも不足の事態というのは起こりうる物であり、それにひとりで対処できる都合の良さがどれだけ続くのか


「他のダンジョンはどうですか?

 同じ一階でも断然テールより

 稼ぎがいいと思いますよ?なんなら」


「お誘いは有難いんですが」


「え〜いいじゃないですか〜

 組みましょうよ」


 腕を引っ張られる強引な勧誘を受けているとエルさんがイーラさんの背後にいた。シワがより深く、眼光は鋭く、笑顔なのに威圧的と言うか何と言うか


「イ〜ラぁ?」


 言葉も濁点がついてる様な声色だった


「!?あっ、とぉ」


「…」


 無言の圧がイーラさんを叩き


「あ、あはは〜ごめんな…!拳は

 拳はやめ…ったぁ!!」


 実際に拳が出た


◆◇◆◇◆


「地下二階は眠りスライムですね

 ドロップ品はニンジンとなっています」


「人参か…」


 細切りにして、油と胡麻で炒めるもよし、もやしと一緒に甘辛く和えるのもいいなと思いつつエルさんにお礼を言う


 問題は僕の滞在時間の短さをどうにかしないと、と思いつつお店を後にした


◆◇◆◇◆


「…」


 地下への階段を見つけるのはそれほど難しくない作業であることがわかった。潜ってから数分で階段の前に到着することができているのだから


 しかし、それと同時に自分に例の症状が出ていることにも気がつく、初めは予兆も感じなかった身としてはかなりの進歩が感じられると思った


 症状への耐性も少し上がったのか、フラフラになりながらも倒れることなく迷宮からの脱出もできている


◆◇◆◇◆


「…」


 水分補給をしつつ、身体の回復を待つ、身体の痺れがやや強く、どうにも気持ち悪さが抜けないため、座り姿勢から芝の上に身体を預け大きく深呼吸をする


 日が一番高い時間からやや経ったものの、身体を照りつける太陽の温かさが骨身に染みる。いっそこのまま昼寝でもしたい気分になりつつも


 最初に潜った時とは何が違うんだろうかと解決しそうにない疑問への自問自答を開始する


「…」


 鳥の囀りにふと目を開けると2羽の鳥が絡み合いながら視界の端から現れ、早々にいなくなった


 そういえば、自分の意思で潜った時との違いはスライムを倒す量、もやしの獲得量、滞在時間


 スライムの倒す量は変わらず、もやしの獲得量は上がり、滞在時間は短くなっている。後は一緒に行動しているか否か


「ひとつひとつ調べていくしかないか」


 小難しいことを考えようとしたが日差しの陽気さに負けて、そのまま眠りにつく、グレーさんにも声を掛けて…


◆◇◆◇◆


「タイラーさん?」


「んぁ?」


「こんなところで寝ていたら

 風邪ひいちゃいますよ」


 うたた寝をしていたらいつの間にか夕方になってしまっていた


◆◇◆◇◆


「一緒にですか?」


「はい、改めて一緒に潜るのは

 どうかと思いまして」


「いいですよ」


「ありがとうございます」


 グレーさんと食事をする間、何気ない会話を続けながら匙を進めた。今日の晩御飯は豆と幾つかの野菜を混ぜ合わせて、ドレッシングで味をつけた物を食べた


 ドレッシングはトマトを形がなくなるまで煮詰めて醤油や調味料で味を整えた『ケチャップ』に似た代物で塩味が身体に染みるのを感じた


「…」


 今思えば『料理』と言うのは一種の『化学実験』と言える。それも『調合』の分野に近い───調合は『噂に聞く』なんて言っているが視点を変えればところ構わず『調合』をしていると言っていい


『料理』がドロップする迷宮もあるのだろうか。知れば知る程に奇妙な世界だ


 もしかしたら特別なことは別段ないのかもしれないと思いながら火の番と小休憩を始めた。あの日からグレーさんは自分を枕代わりに眠りについている。稼ぎも上々なため街の宿泊施設に泊まることを提案してみたもののグレーさんはピンとこない様子を見せていたのでしばしば物思いに耽りながら朝日を待った


◆◇◆◇◆


「…」


 グレーさんと作戦を話し合った翌日、いつかと同様に僕が荷物持ち、グレーさんが討伐と言った形で2人で迷宮に入った


 不思議なもので迷宮病に罹ることなく階段を見つけることができた。手分けすれば稼ぎは増えるものの安全を考慮するなら前者がいいのだろうか


「試しに降りてみますか?」


「…まだ辞めておくのです

 位置が足りていない内は

 無理をすると危険なのです」


◆◇◆◇◆


 それから長いこと潜っていたものの迷宮病は起こらなかった。迷宮に潜ること自体に問題はない───荷物持ちをしていれば迷宮病が起こることはないと分かった


 最初に荷物持ちをした時も迷宮病に罹りそうな気配もなかったことから僕が戦うことが問題になっているのではないかと思い荷物持ちに専念することにした


 稼ぎが減って申し訳ないと頭を下げたもののグレーさんは特に気にする様子を見せることはなかった


 一緒に迷宮を潜っているとグレーさんは時折、鼻歌を歌う様子を見せており、料理をしている最中にも見せていることから気分が良いと鼻歌を歌う癖があるのだろうかと思う今日この頃だった


◆◇◆◇◆


『位置』───全世界での共通認識、総合値と能力値のそれぞれが世界における基準のどの位置にあるのかを明確に示してくれる。指標


 目安にできるため無謀な賭けに挑む者は少なく『ジャイアントキリング』───大物、目上狩りなんてする者は極めつけの愚か者と嘲笑されることもある

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