『旅は道連れ、世は打算』
◆◇◆◇◆
「あ!タイラーさん!それにイバちゃん!」
「エリ〜」
地上に戻った時にはすっかり日が暮れ、夕焼けは山の向こうに隠れつつあった。本来なら晩御飯と言いたいところながら生憎人参しか持ち合わせがない
唯一下ごしらえしていた人参はと言うと、そんなものはとっくにイバさんの胃袋の中だ
「グレーさんただいま戻りました」
「お疲れ様です…と」
グレーさんは僕の後ろでしょぼくれている3人組を一瞥した。続いて聞こえてきた腹の虫の音に少し驚きつつも笑顔で言った
「先ずはみんなでご飯にするのです」
◆◇◆◇◆
食事の準備をしつつ今日の食材を確認するととても見慣れたものが出てきた。白く艶のある穀物。精米されているお米だった
「タイラーさんはお米を炊いてて欲しいのです
炊き方は分かるです?」
「大丈夫ですよ」
「私はその間にこっちを作っておくのです」
「にんじん」
「イバちゃんはこっちのニンジンさんを
切って欲しいのです」
グレーさんはテキパキと料理の準備を始めた。僕の方も取り敢えずお米を炊くことにした
◆◇◆◇◆
米を研ぎ鍋に米1合180、水は200の割合で水を張り中火にかける。5合区切りとして鍋を増やすと仕上がりにムラなく仕上がる
飯盒なら2〜3合で小分けにできるが鍋しかないので鍋で炊くことにする。鞄の中にある調理器具の数に驚きつつも並べていく
薪での火の調整も慣れたものだ
「さてと」
吹き出すまで暫し手持ち無沙汰となった
「イバちゃん
ニンジンさんを食べちゃダメなのです」
「むぅ」
「(何やってんだ。あの兎っ子)」
ここから大体10分くらいやることないしな。グレーさんの元まで行き、野菜のカットを手伝うことにした
◆◇◆◇◆
「何かこだわりはありますか?」
「特にないのです」
「分かりました」
短冊切りで人参を切っていく、ごろごろとした『一口』もいいが人が多い場合火の通りの早いコッチが適当と思い切っていく
「にんじん」
「…皮のところならいいか」
余すところなく煮込むのが良いが、口当たりで好み分かれるしな。僕はイバさんに人参の端っこを渡しつつ切った食材をグレーさんに渡した
グレーさんはというと肉と玉ねぎに火を通していた。玉ねぎが所々アメ色になっていた
「ありがとうなのです」
人参を渡しつつ、ジャガイモを切っていく。芽を包丁のあごで取っていく
「…」
元の世界でもそうなのだが───ここで気になるのがジャガイモはどうやって切るのが正解なのだろうかということ。僕は終始考え続けている
自分が作るカレーはそもそもジャガイモが原型を留めないほど煮込む都合上、割と刻む派なのだが形が残る方が良いのだろうか?
グレーさんを見るも笑顔を返されるばかりだ
「(無難に行くか)」
等分、等分、中心から切り等間隔で切っていく
◆◇◆◇◆
「ん」
ジャガイモを切り終えた辺りで『お米の火』が音を立てた。ジャガイモ渡した後、火の世話をしに移動する
「…」
中火から少しだけ火力を上げ、10秒程度したら薪を抜いて火力を弱火にしていく、鍋の底からやや離れた位置に火の尾が当たる程度の火力で15〜20分でも良いなと考えるも3人を見る
「…」
指一本動かせないと言った様子だった。かなり参ってる様子だ
◆◇◆◇◆
程なくして芳しい香りがしてきた
「まだぁ?」
「もう少しなのです」
凄いせっつかれている。引き剥がそうかと考えたがグレーさんが鼻歌を歌っているので自分の作業に専念する
「…」
それにしても鞄の中身は不思議だ。鞄に手を入れた後、思ったものが手元に吸い寄せられてくるイメージだ
慣れてからはそれ程不思議に思わなかったが、これはどう言った仕組みなのだろうか?
「(これが所謂『魂』ってやつか?)」
項垂れている初老の男を見やる。こちらの視線に気がついたのか視線が重なる
「皆さん、もう少しで完成するので
どうぞこちらに」
手伝ってくれても良かった気もするが疲れている人を無理に働かせる意味もない。動けるものが動くに限る
◆◇◆◇◆
「にんじん!」
それぞれが食卓につき、お皿に盛られる米とカレールー、既に食べ始めたイバさんを他所に僕は手を合わせる。グレーさんもそれに合わせてくれた
「いただきます」
「いただきます」
「「「?」」」
食べ始めた僕とグレーさんを見て3人組も声を出さなかったものの手を合わせて食べ始めた
◆◇◆◇◆
「…」
美味しい。よく火の通ったカレー。食材ひとつひとつに味がつき口の中で『ほろほろ』と崩れる食感。肉も口の中でとろける
「うぅ…」
「うっ、く」
「…」
グレーさんの料理を楽しむ一方で3人組は様々な反応を見せていた
「カレー辛すぎたのです!?」
「…」
この人達がどんな心持ちで迷宮に挑むかなんて知ったことではない。『位置』という存在がある限り、それが基準のこの世界で『魂』というのがどう作用するかなんて知ったことではない
ただ、一つ言えることがあるとしたら
「僕が思うに
何事も適当が一番だと思います」
「◾️◾️?」
「何ですか?その◾️◾️」
…また言葉の壁か
面倒くさいが3人組の抱えている問題の文脈の外にいるグレーさんも気になっている様子なので匙を止めて話を続ける
しかし、この言葉を説明するにも深く考えたことはない。僕もその間に見つめ直すことにした
「なんていうんでしょうかね
やろうとしていることに合わせた努力?
違うか、実力を知ることですかね」
「実力…」
「…?」
若い2人が首を傾げるも初老の男は違った。立ち上がりしな、僕に掴み掛からんとする気迫を持って大声を上げた
「おれは間違っていたのか?」
「分かりません」
「分か…!」
「他人の歩みにとやかく言う資格なんて
僕にはないんですよ」
匙を置いて初老の男を見る。目の端では分からなかった。彼の憤りと心配、絶望が僅かに読み取れる表情をしていた
なんで他人にそんなことを聞けるのか。迷宮の中でほんの数分前にあったガキにする質問じゃないだろうに
「どんなことをして
どんな結果を出して
どんな歩みをしたかなんて
僕には分かりませんよ」
「…だが」
「…」
初老の男の言葉を待った。僕に言えることはない。話を聞くしか出来ない。それに納得のいく説明や方法、語句を僕が持ってる保証もない
「お前のドロップはおれを…」
「…」
『超えている』とかかな───知ったことではないと一蹴できるがここで否定しようものなら自らの手で死を選択しかねない面持ちだ
なんでこんな面倒ごとに巻き込まれているのか。この世界に来て数ヶ月の奴に聞くなよ
「隊長…」
「…」
「…ん〜」
ほらぁ、先頭がそんな不安だらけの顔してるから後続も引きづられて不安そうにしてるじゃんか
「あの」
沈黙する僕にグレーさんが挙手をすると話し始めた
「ドロップは位置で決められているのです…」
「…そんなことは分かっている!」
「おい、話聞けよ」
「…ッ」
この男の悪いところは明白だ。人の話を真正面から受け取る気のないところだ。部下の話や提案に耳を傾けない
他人からの話にさえ自我を前に出す
「グレーさん、お願いします」
「は、はい
そ、そのドロップは位置が決まっていて
姿写しが教えてくれるのです」
「…」
「隊長さんはどうしてそう思ったのですか?」
グレーさんの疑問がひと段落つき、僕は視線を初老の男に移した
「おれが若い頃にいたファミリーでは
訓練があったんだ。何週間にも続く遠征
最低限の食事すら取らず
ひたすらに生産する」
「…」
◆◇◆◇◆
初老の男、隊長は続けた
いつ終わるかも分からない遠征を続ける間にも1人またひとりとダンジョンを後にして行き、気がつけば両手で数えられる生産者しか残らず
乾く喉に終わりの見えない生産
そして迎えた空腹の限界に達した時、つい手を出したドロップ『食材』に齧り付いたとき
◆◇◆◇◆
「今までとは違うドロップができたんだ」
空腹がスパイスとはよく言ったもので、空腹の果てにとる食事は何物も及ばない絶品となるとは聞いたことがあるが
「変」
「違う!嘘じゃない」
「イバさん、少し静かに」
「むぅ」
「空腹時の錯覚ではなかったんですよね?」
「あぁ、確かに空腹だったが
その後にドロップした物は
格段に旨くなっていたんだ
その後の生産も」
成長性か?断定はできない
比較対象がないとなんとも言えないな。口先だけならなんとでも言えるだろうし、かと言って突き放すにしても『シコリ』を残すことになる
「(はぁ)」
「タイラーさん」
でもなぁ、その『魂の宿ったドロップ』ってやつも気にならんこともない。いや、とても興味が湧く。是非とも知りたくなった
彼が言う『魂の宿ったドロップ』が本物なら自信になる。違えば、まぁそのときだろう
先ずは───
「グレーさん、どうします?」
「え?わたし!?」
「僕は…」
これからの成長を見守って行きたい。遠征の意味はあったのか
それを手っ取り早く確認できるモデルケースが今目の前にあるんだ。逃す意味は皆無だ。強いて上がるなら食い扶持だが
「グレーさんが嫌でなければ
彼らを交えて迷宮にこれからも
潜ろうかと思うんです」
こればっかりは僕だけでは決めてはいけないことだ
「わたしは構いません」
「分かりました。御三方は?
こちらのリーダーは了承してくれましたが」
「…頼む」
「お願いします」
「私も」
さて、一先ずは話がついた
「食事を続けましょう」
「…わたしがリーダー?」




