『いけないパーティ』
◆◇◆◇◆
野営地に戻る最中、テールの地下へと降っていく人影が見られた。3人組のパーティだろうか、全員が防具を着込んでいるところを見るに全員が近接に見えた
近接───竹槍や戦鎚などの手に持って相手の近くで戦うこと。またはその役割
歳を重ねてそうな人と若い2人。聞くところによる『腕試し』と言うやつだろうかと遠巻きに眺める
「…」
それにしてもテールの迷宮は横幅がそれほど広くないのだが大丈夫なのだろうかと少し心配になる
直剣───柄を含めない刀身の長さが腰から膝までの長さを持つ剣。これを3人とは何とも尖ったパーティだと思う
そう考えるとケイチョウさんのパーティはとてもバランスが良かったんだなと思い出す
「(行ったかな)」
大事をとって人影が見えなくなるまで草葉の陰で身を潜めていた所テールの迷宮に降って行ったのを確認できた
◆◇◆◇◆
「…」
見送った手前変な話だが、3人が気になって食事の準備を始めようとするも包丁の切先がおぼつかない
何か大切なことを忘れている気がする。とても致命的でベテランかビギナーなんて関係のないこと
「なんだろうか」
喉元まで出かかっているのにハッキリしない内容に眉間に皺が寄る。人参を刻み始めた
短冊切り、両断2回───半月状の人参、弧を上に面を下にして、2〜3ミリの間隔で刻んでいく、茹でる時に火の通りが早くなるのでおすすめ
味付けは何が…
「っ!不味い」
人参乱獲───テールの地下2階は『迷宮病』が発生してる可能性がある。急いで伝えにいかなければならないと言うのに鍋に張った水と茹でるために入れた人参を前にあたふたする
昨日今日と『ハグレモノ』の話題が頭に過り右往左往する。この状態で離れた場合、件の化け物になってしまう可能性がある
「えぇっと」
僕は片手に鍋を装備したままテールの迷宮へと潜った
◆◇◆◇◆
「(もやしが放置されてる)」
テール迷宮地下1階、あたりに散乱している皿に盛られているもやしの一掴み。ここを通ったのは確かな様だ
「(量がまちまちだ)」
もやしの量はどれもこれも不揃いで特定の人が倒している訳ではなさそうだ
「…」
焦る僕の鼓膜が微かに聞こえる話し声を拾った
「さあ、次にいくぞ」
シワ枯れた声、おそらく3人組の内、歳を重ねている人の声だろう
「ちょっと…休ませてください」
「…限界です」
3人のうち2人が苦しさを訴えている様子が窺える
◆◇◆◇◆
テールの地下2階昇降口の前に到着し、角の近くで息を潜める。今のところ眠気は来ていない───近くに眠りスライムはいない様子だ
「なんだ、もう疲れたのか?」
「2日連続で籠もってるんですよ」
「少しだけ休ませてください」
2日連続とは穏やかじゃない。声の震え方からしてまともに休息が取れている様子は見られない。恐らく過労で倒れる寸前と見れる
それに2日?僕がイバさんと会っていたのは精々が数時間、それに潜った後ろ姿を僕は見送っていると言うのに
迷宮、やはりこの空間は不気味極まりない
「いかんぞ、その軟弱さは」
さて、疲労を訴える2人とは対照的に初老の男性───隊長格の人は力強く言葉を発していた
「この程度のダンジョンで音を上げている様では
だめだぞ。私の若い頃はこの程度のダンジョン
一週間も二週間も潜っていたものだ」
「でも、まともに寝てなくて」
「ダンジョンの中での休息も
全然取れてなくて」
「立って寝ればいいではないか
集中が足りないから直ぐに疲れるのだ」
初老の男はそう言い切った。数週間も潜っていたとはコツが知りたいものだ
それにしても訴えを聞かない姿、取り付く島もないと言った様子───慣れているが故の聞く耳持たず、素人目に見てもそう長く探索は続けられないと見える
「俺が意味もなく
お前達に鞭を入れて働かせてる…
そう思ってるのか?」
先の力強さから一変、初老の男の目に冷たいものが宿った───興味関心とは真逆に位置する。無関心
「そんな!」
「思ってないです!」
「いや、そう思われるのも仕方ない
たしかに他に比べれば
厳しいのは自覚している」
初老の男は静かに呟いた後、片膝をつき、2人に視線を合わせると再び態度を変えた───熱血
「しかし
それも全てお前達の為を思ってのことだ」
「俺達の」
「…ため」
「そうだ
お前達の才能を信じてのことだ」
2人が顔を見合わせ、先までの死を目前にした目から光を取り戻していた。初老の男は身振り手振りで話を続けた
「若いうちにしか人間は成長しない
逆にいえば成長したければ
若いうちに少しでもムリをしておくものだ」
大きく伸ばした腕で視線を釘付けにし、かと思えば突如2人の内、男性の肩を両腕で掴むと小さく問いかける様に言った
「そう思わないか」
「それは…」
「そうかも!」
男性は口籠もり、女性はふらつく足で立ち上がりながら初老の男への賛同を口にした
「この目で見たいのだ
お前達に見た夢を」
初老の男は淡々と語った。テールの最下層に立つ2人のこと、そこから成長した2人がテールの町を飛び出し
遂にはテールに連なる五つのダンジョン全てを制覇した身姿。上位生産者と呼ばれる羨望の眼差しを一身に浴びるそんな身姿を
「そんな」
「私達が」
◆◇◆◇◆
ふむ、2人のドロップ能力は何が高いのだろうか?この世界に来て短いながら僕は『成長性』と言うものを見ている───グレーさんにも言っていない。この値をこの世界の人達は自覚できているのだろうか
「それは尊敬となる
後世に語り継がれる尊敬は
不滅のモノになり唄となる
その唄はダンジョンに潜りたいとおもう
次の世代の後押しとなれば
国境を越え、伝説となるのだ」
「…」
「伝説」
「俺はその感動が見たい
その感動を世間に届けたいんだ!」
「…」
「隊長!」
若い女性は感激していた。疲れ切った顔に宿る活力。死人同然の指揮が復活を果たしていた
◆◇◆◇◆
さて、聞き入ってしまった訳だがどうしたものか、3人パーティを送り出す気にはなれない
理由、空焚きを続けてる暴走エンジンは爆発を待つのみだからだ───動くのに必要なものを身体に入れない、補わない、保てないなら後は歪んで壊れるのを待つばかりだ
「…」
歪な三人組のパーティ。仲間に激励を飛ばす初老の男。あれは善意なのだろうか?悪意なのだろうか?正直判断に困る
一連の流れを見るに悪い話には聞こえない。2人の成長を暗に感じて、喜びを共感したいという風にも聞こえる一方で
悪しき風習の循環を脳死で続けているだけの様にも聞こえる───所謂根性論だ
「にんじんの人?」
「どわっ!?」
さてどうしようかと迷っていたら背後から声をかけられた。声の主はイバさんだった
「でっどぉぁにんじん」
「少し待って頂けますか?」
「ハリーにんじん」
「(ん〜話を聞かないこの子)」
ドロップしたニンジンが欲しいイバさんはこちらを凝視してくる。あの反応から、今の反応とあって人参を本当に気に入って貰えたようでよかった
これで命を狙われることなくテールの迷宮に問題なく通える
「にんじんの人?」
「あ、人参ですよね」
「これなに?」
「え?あぁ、これは食事を作ってる最中でして」
「じー」
「…」
あ、これ集られる流れだ。今はそれどころじゃないのに
「誰だ!」
「「え?」」
「あ…」
「?」
バレた。例の3人組の初老の男が怒声を上げた。確実にバレている───誤魔化すのは無理だ。どうしようかな
「まぁいいか」
「?」
◆◇◆◇◆
「すみません、テールの地下2階に
用があったのであなた方が
降るのを待っておりました」
なるべく穏便に3人の前に出た
響く腹の虫の音───男女の疲れきった顔。物欲しそうな顔が窺える。一方で初老の男は怪訝な表情をしていた
自覚───客観的に見て僕は戦闘向きとは言えない装いをしている。そんな顔されて当然だった
「神聖なダンジョンでそんなだらけきった姿は
言語道断!あのような姿勢で
生産されたものは人々の心に響かない
ドロップされたものには魂が宿るのだ
我々のがんばりがそのまま品質に
味になって現われる
頑張りが手に取ってくれたもの達に
感動を与えるのだ…それだというのに」
「…」
初老の男の話は続く、曰くドロップの質は『魂』が鍵なのだとか───『魂』が乗ることでドロップが変化するのだとか
不思議な話だ。前の世界でも植物に声を掛けたりすると成長に変化が生まれたりすることがあるらしい───僕が見たことある研究結果では育てる側の認識が言葉に引っ張られてしまったため変化が起きたという結論になったが
この世界ではどの様に変化するんだろうか?『魂』、『N』と何か関係があるのだろうか?『魂』もドロップするんだろうか?
魂とは存在するのだろうか
「魂か」
「…お前」
初老の男の声色が変わった。先までの動の印象ではなく『驚愕』の顔を向けられた
何か不味いことを言ったのだろうか。初老の男に警戒をしていたその時、地下2階から人影が上がって来たのが見えた
「え?(いつの間に!?)」
先まで一緒に居た筈のところに振り向くもそこにイバさんは居なかった。地下2階から上がってきたのは何とイバさんだった
さっきまで切って煮ただけの人参を食べて貰っていたというのにいつ下の階に行ったのか不思議でならない光景
「にんじんの人」
イバさんが僕を呼んだ。その声に3人組は不意を疲れ『男女は動揺』と『初老の男は警戒』をした
そんな3人には目もくれずイバさんは僕の元まで来た。その腕の中には眠りスライムが抱き抱えられている
「倒す」
「え?」
眠りスライムは決して死んでいるわけではなく『拘束』されていた。何という脳筋の絵面、そんな光景に驚いていると倒す様に促された
「これ、倒す」
「えぇ、まぁ、はい」
ナイフを取り出し、眠りスライムを突き刺した。初老の男は口籠もり、眠りスライムを凝視していた
先までの激昂が嘘の様な静まり方だ
「…」
動き回る眠りスライムとは違い抵抗もされないおかげかナイフはすんなりと入っていった。気がつけば人参がイバさんの手の中に収まっていた
「…」
『心構え』───確かにモンスターを倒す時、僕は何も考えてはいない。倒せば何かが手に入るとしか認識していなかったが
「…ッ」
あの初老の男が言うに何か変わるのだろうか
そんなことを考えていると『答え合わせ』の様にイバさんが人参を持って、3人組の所にむかった
戸惑う3人組にイバさんは人参を突き出していった
「食べる」
「「「え?」」」
「にんじん食べる」
「いや、しかし」
初老の男は歯切れの悪そうな顔をした。この極短時間に何があったのだろうか
「いいから食べる」
そんなことはお構いなしとイバさんは手刀で人参を3等分にし、続け様に人参を目にも止まらぬ速さで叩き始めた
人参の硬さにより空中で跳ね回る10数回、段々と柔らかさを見せ始める20数回の乱撃───【キャロットカリバー】恐るべし
イバさんの3秒に満たない高速調理の果て、3人組の口にそれぞれ突っ込まれた
いきなりの事で避けきれず口の中に差し込まれる人参。慌てる3人は無意識に人参を噛み切った。手のひらに落ちていくそれぞれの人参
「うまい…」
「これ、本当にニンジンなの」
「…ッ」
「ニンジンの味、苦労と関係ない」
イバさんは静かに言った
「こんな、こんなことが」
初老の男は手のひらの人参を握り潰さんとする気迫を見せていた───否定。歳を重ねた今までの時間に意味がなかったかもしれないと言う憤りが見える
「隊長…」
「嘘よ、こんなこと」
「ありえない、こんなこと
信じられる筈が…」
どうしたもんかな、このお通夜ムード
◆◇◆◇◆
取り敢えず無理な進撃を止めることには成功したものの3人組は絶望を各々で表現していた。膝を抱える者、項垂れる者、頭を押さえる者
ひと先ず鍋と包丁を戻し、3人に近づいていく
「あの皆さん」
どうにか地上まで戻ってもらう方法はないものかと考えていると再び腹の虫の音が聞こえてきた
「取り敢えず、ご飯を食べませんか?」




