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落書き小話  作者: Cornix
8/8

むし

 時折、自分が人間であることに深く違和感を覚えることがある。

 どうして、自分は人間なのか、自分が人間として今していることは本当に正しいのか?もっと他にやることがあった気がする、と。

そこで私は、神に願った。あわよくば私を今すぐ人間ではない、本来なるべき姿へと変えてくれと。

 当然、叶うわけがなかった。いくら願えどもやはり私は人間で、神などいなかった。

 それでも私は諦めが悪かった。人間は徳を積むほど良いことがあるというような話がある。私は良い人であることを目指した。本心では神など信じちゃいない。

 さて、私は良い人になるため、まず、周囲の人間との関係を良好にすることを考えた。

 以前よりも人当たりよく、人を気にかけ、話をよく聞き、共感を示した。それで大抵の人間との関係が良くなった。簡単なことだった。

 急に態度が変わった私に対し、様々なことを述べ、離れようとする人間がいた。それも、積極的に且つ婉曲的に、相手に同調することで解決した。

 周囲との人間関係を良くしたことで私は会社での評価が上がった。

 徳を積むため、次に私は周囲の物体への配慮をしてみることにした。汚れているものを見つけたらすぐ綺麗にする、ゴミを拾う、見た目を良くする、など。これも割と簡単だった。他人から見える範囲のものを「綺麗」にすればいい。

 身の回りの物に気を配るようになったことで、私は周囲の人間から話しかけられるようになった。任される仕事が増えた。

 身の回りについてできることが少なくなったので、次に私は、会社の業績を伸ばすことに注力した。任される仕事を全て完璧にこなし、それまでのコネによって昇進、仕事をこなす。その繰り返し。結果として、企業はある程度大きくなった。しかし、限界があった。上には上がいる。企業は、トップにはなれなかった。多少知名度がある程度。


 私は、より徳を積むため、新しい企業を立ち上げ、大きくすることが、できなかった。

 私にはやりたいことがなかった。傾向を分析し、売れると考えた業界に入ったものの、上手くいかなかった。立ち上げた企業はすぐに潰れ、私は職を失った。昔の同僚に誘われ、適当なところに就職して生活を立て直すことはできたが、それ以上は何も出来なかった。

 振り返ると、私は私自身にしてきたことが何も無かった。

 周囲の人間との関係をよくするため、流行りのもので身を固め、表面をなぞる。共感を示しはするものの何も思っちゃいない。他人に見える範囲の物を綺麗にはしたが、自宅はゴミばかりで散らかっていた。業績を上げるために自宅にほぼ帰らなくなり、よりゴミが溢れた。私の空間はなく、私は空っぽだった。

 何が悪かったのだろうか。積む徳に限界でもあったのか?

 そんな思考に支配され、気付けば私の目の前には誰かの車と、そのライト、運転手の驚いた顔、私は。


「これは徳を減らしてしまうな」


 そんな事を言った気がする。



 光があった。世界は広く続き、何もわからない。ただ目の前に食べるべきものがあるから、脚で捕まえて食べた。満腹になったから寝た。

 私は、かんがえる力を失った。





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