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落書き小話  作者: Cornix
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地下鉄・忘れ物

 地下鉄で電車に揺られる男性。会社員だろうか、くたびれたスーツを着て疲れた顔をしている。

 男が顔を上げると、反対側の椅子にペンが置いてあった。黒をベースとして派手すぎない程度に金色の装飾が付いている。そして上の方の側面には何か金色の文字のようなものが掘られていた。持ち主の名前だろうか。

 そしてその隣の席には白いシャツ――おそらく制服――を着た高校生くらいの男の子が顔だけ動かしてそのペンをじっと見つめていた。

 男は次に停まる駅で電車を降りる予定だったが、もう少し先の駅で降りることにした。

 高校生は二駅分じっくり悩んでようやくペンを手に取り、それを観察し始めた。そして周囲をきょろきょろと見渡す。

それをやるならもう少し前だっただろうという思いを飲み込みつつ、男は観察を続けた。

 少しして高校生は車内の電光掲示板に目をやり、少し考える素振りをした。ペンが席に置いていかれたのがどれくらい前の出来事か考えているのだろう。

 優しい子だ、と男は思った。ただのペンだ。それを見つけても見て見ぬふりをする者は多いだろう。実際、この高校生の前の何人かが同じ席に座ったが、大抵一瞥するのみで無視を決め込んでいた。

 高校生はもう一度停車駅の案内を見て少しそわそわし始めた。頻繁にスマホを開いては閉じを繰り返している。

 電車が駅に停まると、高校生はすっくと立ち上がり、荷物を担いでペンを手にしたまま車両から出ていった。

 彼は駅のホームで周りを見渡し、駅員を見つけて近付くとペンを手に何か説明し始めた。忘れ物としてちゃんと届けたのだろう。

 最近の子はしっかりしているな、と男は感心してそれを見ていた。

 ペンは男が置いたものだった。彼は満足気に静かに目を閉じた。




高校生視点

 ふと横の席に目をやるとペンが置いてあった。

 僕はしばらく迷った。これを手に取れば自分から厄介事を引き受けることになる。でもここでこれを拾わなければ、このペンが持ち主のところに帰る可能性はかなり低くなるかもしれない。

 結局僕はそれを拾うことにした。金の飾りが付いている、黒いボールペン。横に金色の文字が彫ってある。英語ではないと思う。ドイツ語とかその辺かな。

 周囲を見渡して何か持ち主のヒントがないか探してみる。何も見当たらない。それはそうか。

 次に車内の停車駅の案内を見てみる。僕が乗ってきた時、入れ替わりで持ち主が降りていったのだとしたら今いる所から五駅くらい前かな。このことがヒントになるかはわからないけれど、駅員さんに伝えて損は無いと思う。

 次の駅で降りるからそこで駅員さんに渡そう。高そうなボールペンだし、持ち主もきっと探している。

 僕はペンを持ったまま席を立ち、電車を降りた。

 そして辺りを見回して駅員さんを見つけてペンを渡した。僕が席に着いたときにあったから参考になるかはわからないけれど、六駅前かもしれないということも伝えてみた。持ち主が見つかるといいな。

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