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落書き小話  作者: Cornix
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古い鏡・秘密・雨

 ある都市の、ある屋敷、ある貴族のご令嬢。彼女の持つ大きな鏡には秘密があった。


「ねえ、鏡さん」


 彼女は鏡に話しかける。すると鏡はきらりと光り、鏡の中の彼女が消え、白く濁り煙渦を巻いたようになった。

 この鏡は彼女の祖先から受け継がれてきたとても古い鏡。元々は金色に輝いていたであろう枠はくすみ、ところどころ欠けたような傷がある。しかし鏡面だけは未だ澄んだ水面のような輝きを持っていた。


「今度のお茶会、あの方と上手くいくかしら?」


 この古い鏡には不思議な力があった。そしてその力で彼女の一族は財を成したのだった。


「あなたが勇気を持って話かければ必ず上手くいくことでしょう」


 鏡は彼女の問いに答えた。鏡は未来を見通すことができた。

 彼女はさらに問いかける。


「何を話せばいいのかしら」


「あなたの趣味については話したらどうでしょう」


「受け入れてくれるかしら」


「あの方もあなたの趣味には興味がありますよ」


「まあ本当!? それで、あ……」


 鏡は輝きを失った。窓の外を見るとさっきまで強く降り注いでいた雨が止んでいた。不思議な鏡は雨が降っている時にしか使えなかった。

 後日、彼女のお茶会はとても上手くいった。そして想い人を彼女の家に招くことになった。


「ああ、どうしましょう。どの服を来たら良いかさっぱり分からないわ」


 今日の空は曇りひとつない快晴で、鏡の力は使えない日だった。


「鏡さんに聞くこともできないし……ああもう約束の時間になってしまう」


 彼女は一番よく着る、派手すぎない服を選んだ。


「やあこんにちは」


 訪れた彼は派手すぎず装飾の少ない服装を纏い、それが彼の端正な顔立ちを際立たせていた。


「大丈夫かい?」


 彼女は完全に見とれてしまっていた。慌てて気を取り直すと彼に家の内装を紹介する。

 そして彼女は自分の部屋に彼を招き入れた。

 今回は彼を趣味の話をしたいと言って呼んだのだ。

 彼は部屋を見回すと古びた鏡に気が付いた。


「これはどうしたんだい? だいぶ年季の入った物みたいだけど」


「これは私がお祖母様から受け継いだ物なの」


「僕が新しいもの買ってあげようか」


「いいのよ、この鏡じゃなくちゃいけないの」


「でも……」


 その時、窓の外がカッと光り、轟音が鳴り響いた。耳を澄ますとザーという音も聞こえてくる。

 ふと見ると鏡はまた白く濁り始めた。


「お嬢様、その者はよからぬ事を企んでおります」


「どういうこと?」


「どういうことだ?」


 2人は同時に疑問を投げかける。


「その者はお嬢様をだしに意中の者に近付こうとしているのです」


「そうなの!?」


「なんで鏡が喋っているんだ!?」


 鏡は答えず話し続ける。


「お嬢様はその者から離れるべきです」


「あなた悪い人だったのね!」


「ご、誤解だ!」


 男は焦り必死に否定するが彼女の疑いの目は晴らせない。


「その者は……」


「もう黙れ!」


 なおも続けようとする鏡に苛立ったのか、男は拳を振り上げ勢いよく鏡を殴りつけた。鏡はパリン、とあっさり割れ、破片が飛び散った。


「ああなんてこと!」


「あ……いやすまない、こんなことをするつもりじゃ」


「出て行ってください!」


 男は自分のした事が信じられないというような表情をして弁解しようとしたが、彼女は聞き入れなかった。

 何せ彼女の一族が受け継いできたものを壊されたのだ。到底許せる行為ではなかったが、彼女の優しさで男を追い出すに留まった。

 彼女は蹲り床に散らばった破片を拾い集める。


「ああ、許して鏡さん、彼がこんなことをする御方だなんて知らなかったの。私、あなたなしでこれからどうやって生きていけばいいのかわからないわ」


 気付けば外は日が照り始め、先程まで雷が鳴っていたことが嘘のように晴れ渡っていた。

 彼女は拾い集めた破片を整え、一番大きなものを手鏡として生まれ変わらせた。

 そしてもう二度と壊されることのないように常に持ち歩くようになった。


「鏡さん……」


 彼女は時折そう呟き、もう鏡を頼れないことを悲しんだ。


 ある時、彼女の涙が鏡に落ちた。


「あらいけない。拭かなきゃ」


 そう言って彼女が布巾を取りに行こうとした時、手鏡がきらりと輝いた。


「その必要はありません」


 耳に馴染みのある声。彼女が振り返ると鏡は以前のように白く濁り、渦を巻いていた。


「あなたのおかげで復活することができました。ありがとう」


「私、もう鏡さんと話せないのかと思った……良かった!」


 そうして復活した不思議な鏡は、生涯にわたって令嬢の良き友となり彼女を支えたのだった。


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