竹藪焼けた
夏のホラー参加作品です。
連載と短編のチェックを間違えてしまいました。
一話完結となります。
蝉の音が暑さを増す日、私は田舎の墓参りに来ていた。
祖父母の墓参りと小さい時に行方不明となった伯母の墓参りだ。
伯母は小さい頃、まだ幼かった母と家の近くで遊んでいた時に行方不明となった。
祖父母の家の近くには昔から入ると神隠しに合う竹藪があると噂されていた。
勿論今でも手付かずでそのままだ。
ある日、幼い母と一緒にボールで遊んでいた時、母の投げたボールが竹藪の方へ飛んで行ってしまった。
それを追いかけ竹藪に入った母の姉、つまり私の伯母は行方不明となり、大人達や警察が探しても見つからず帰らぬ人となった。
近所の人は皆、竹藪の神隠しにあったのだと噂した。
その事を小さい時から聞かされていた私は竹藪には絶対に近づく事はしなかったのだが、私も大きくなりその事を忘れてしまっていた。
田舎の家は昔ながらの平家で古く、エアコンが居間に一台しか無い。 その癖に広いのだ。
扇風機で我慢していたが、耐えられず近くのコンビニに行こうと家を出る。
近くとは言っても都会の近くでは無い。
田舎あるあるの距離で、扇子を仰ぎながら向かう。
コンビニには竹藪をぐるっと回って行かないといけない。
蝉の鳴き声が暑さを倍増させる。
本当に鬱陶しい。
汗をかきながらコンビニに入ると冷房が天国のようだ。
氷菓系のアイスを選び、家に戻る間食べる。
溶けたアイスの氷が喉を通る度に至福を感じる。
しかし竹藪を回って戻る間にこの至福の時間は終わってしまうだろう。
なら竹藪を突っ切れば良い。
この竹藪は人の手が入っていない割に雑草が無く綺麗に生えている。
真っ直ぐ進めば直ぐに家に辿り着く。
私は竹藪を進んだ。
やはり竹藪を回るよりも遥かに早く家の近くまで来れる。
何事もなく抜けた先で、女の子が一人でボールをついて遊んでいる。
私は気になったが、そのまま家に帰った。
アイスも食べ終わり、そのまま畳にゴロンと寝っ転がる。
そして、さっきのボールで遊んでいた女の子が気になった。 この辺では見ない子だからだ。
気になった私はまだいるのか見に行ってみる事にした。
熱中症になってたら大変だしな。
竹藪の前にはその女の子はいなかった。
帰ったんだと思い、私も家に戻ろうとした時、竹藪からボールが転がってくる。
まだいるのかと、ボールを拾い竹藪に入って行く。
ただ、さっきと違って道が無い。
竹藪もどんどん奥まで続いている。
こんなに広かったか?
やっと竹藪を抜けた先はいつもの景色と違った。
何処かの家の部屋に入ってしまったようだ。
扉なんて無かったよな?
部屋の中には誰もいない。
開けた覚えの無い扉を開けようとノブを回すが鍵がかかっているかのように開かない。
すると一瞬にして部屋の壁が燃え始めた。
メラメラと音をたて、焼ける臭いと煙で前が見えなくなる。
扉を開けようとドアノブに手をかけると、ジュッ! と音と共に手が火傷した。
私は息苦しくなり、その場に倒れてしまった。
部屋は瞬く間に崩れ始め、間一髪、扉が開き、小さな手が私を部屋の外へ連れ出した。
意識が薄れていく中、最後に見たのはボールで遊んでいた女の子の姿だった……。
竹藪で倒れていた私は日も暮れた頃に目が覚めた。
そして家に竹藪を抜け、家に帰ると夢でもみていたのかと思い出す。
しかし、手に残る火傷の跡、かすかな手の感触は本物だった。
こうして不思議な体験をした私はあの竹藪の話しを後で聞いた。
あの竹藪があった場所は昔、大きなお屋敷があった場所で、屋敷の当主が突然狂ったように火を付け火事になり屋敷は全焼、一家も全員焼死してしまった場所らしく、その後家を建てても火事ばかり起こるので焼け残った数本の竹をそのまま放置していたら竹藪になったらしい。
そしてこの辺の人は決して入らず近寄らずの場所となった。
屋敷の当主は燃えている屋敷の窓から最後に何か呟いたと言われている。
何故それを知っているか?
それは私が今、燃え盛る炎の中であなたに話しているからだよ。
「竹藪焼けた」
読んで頂きありがとうございます。