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◇◆◇◆◇


 ぼやけた視界。

 聞こえるのは、草を踏む音。

 呼吸は荒く、どこかへ急いでいるみたい。

 立ち止まると、目の前に木のドアが見えた。

 周りが暗いから、多分、夜なんじゃないかと思う。何をするんだろうと思えば、体は勝手に行動し始めた。ドアに手をかけ、ゆっくり、中へ足を踏み入れて行く。

 入ってわかったけど、どうやらここは納屋。そこには藁が積まれていて、その上に、誰かが横たわっている。

 私はその人に近付くと、体に付いた泥や血を拭っていた。

 この人――誰なんだろう。

 暗くてよく見えないけど、男の人っぽい。

 必死になってるのは、知り合いだからなのかなぁ?


「――――…」


「――――気が付いた?」


 口が勝手に動く。思い通りにならない私に、見ているしか出来なかった。


「っぐ――――だ、れ」


「それはこっちの台詞。勝手に私の納屋で倒れて――こらっ、手当てしてるんだから動かない!」


 起き上ろうとする男性を寝かせ、私は作業を続けた。

 触られるのが嫌なのか、手を払いのけようとする。


「ちょっ。これじゃ拭けなっ――もう、大人しくしなさい!」


 パシッ! と、体を拭いていた布を男性の顔に投げつける。

 な、なんで自分の体なのにぃ~!

 自分の意思と反して、しゃべったり動いたり。目の前にいる男性に、申し訳ない気持ちだった。


「お前……それがケガ人にすることか」


「話す元気があるなら大丈夫ね。ほら、ちょっと寄りかかって」


 男性を起こすと、お腹にある傷に薬を塗りこんだ。

 納屋の小窓から、月灯りが照らす。

 顔を見れば、男性の髪は耳が隠れるほどの長さ。瞳も大きくて、こうして黙っていれば、女性と間違えてしまいそうなほど綺麗な容姿で――その人は、雅さんだった。


「これでよし、っと。歩ける?」


「……多分な」


「じゃあ移動ね」


 そう言い、雅さんの腕を肩に回す。なんでここに居るのかとか聞きたいのに、体も声も、思うように動いてくれない。まるで、過去を体感しているみたいだ。


「んなことしなくても、すぐ出てってやるって」


「残念。その逆」


 ゆっくり納屋から雅さんを移動させると、少し離れた場所に、小さな家があった。

 中に入れば、質素な寝床と最低限の家具。


「ここで寝てなさい」


「……正気、なのか? 見ず知らずの、しかも男を連れ込むなんて」


「ケガ人になにができるの?――あなたの方が、よっぽど正気じゃないわ」


 胸が、ズキリと痛む。

 途端、ここでの状況が頭に浮かんだ。




 私は一人――ここで生活してる。




 近くの村までは、馬を走らせ半刻ほど。

 私には、村の人とは違うことがある。だからみんなとは一緒にいれないし、一緒にいてはいけない。


「私はね――魔女。だから、こんな場所に暮らしてる」


 そう、私はみんなと違う。

 森で生活してきたせいか、草花には詳しい。そこからどうすれば傷に効くか、毒になるかを、長年家族から伝わっているからよくわかる。

 でも、それは他から見れば恐ろしい。

 知らないことを知っている。そしてそれを解決できる者は、異端でしかないんだ。


「早く治らないと、あなたまで仲間だって思われるわよ?」


「……別に、今と変わらない」


 つまらなそうに言う雅さんも、同じ状況なのか。特に私のことを気にする様子はない。




「アンタも気を付けな。――オレ、血を吸うバケモノだから」




「欲しいならあげるわよ?」




 髪を右側に束ね、左肩を露にする。

 血をあげるなんて怖いって思うのに、ここにいる私は、すんなりとそんなことを言ってのけた。


「アンタ……ホントに正気じゃないな」


 そりゃそうだよね。

 自分でも、こんなことをされればそうなると思う。


「ホントに吸ったら――どうするつもり?」


「死ぬほど吸われるのは嫌よ。それが守れるならあげる」


 にこやかに言う私を、雅さんは唖然とした表情で見ていた。


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