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「……変なの」


 ふっと、口元を緩める男性。それは今まで見た怪しいものではなく、とても、やわらかな表情だった。


「なんか、気分削がれちゃったなぁ~。アンタ、耐性でも付いて――?」


 一瞬、男性の動きが止まる。どうしたのかと思い、体の緊張が少し解けた途端、


「この匂い……そうか。近くにいるんだね?」


 わずかな隙間もないほど、さっきよりも更に密着されてしまった。


「これなら話は早いね。アンタ、こっち側のヤツだろう?」


 言ってる意味がわからない。ただ男性を見つめていれば、知らないの? と、不思議がられてしまった。


「アンタからは、人と違った匂いがするってこと」


「!? 人じゃ……ない?」


「そっ。でも、オレたちとは違うね。もしかしたらハーフって可能性があるけど」


 余計に頭が回らない……。私のことを人じゃないとかって。


「悪いけど、これから付き合ってもらうよ」


「っ、どう、して……」


「だって、アンタからは匂いがするし。それに――ちょっと、味見もしたいし?」


 左耳に、男性の吐息がかけられる。思わず身をよじれば、男性は面白がってそのまま話す。


「その反応からすると――男を知らない、ってとこか」


「ひゃっ!?」


「おっ、イイ反応~。まだやりたいけど、続きはあっ」


「離れろ」


 射るような低い音声が、男性の声を遮る。

 その声が聞こえたと同時。体にあった感覚は消え――強い風が、周りを吹き抜けていく。

何が起きているのか知ろうにも、目を開けることが出来ないほどの強風。しばらくその場で耐えていれば。


「忠告は無駄だったか。――出るなと言っただろう?」


 呆れた声が、耳に入ってきた。聞き覚えのある声。恐る恐る目を開ければ、そこには青い瞳の人物がいて――予想どおりの少年の姿があった。


「掴まれ」


 短い言葉を発するなり、少年は素早く私を抱えると、その場から一気に跳ね上る。家の屋根を軽々と越え、まるで、空を飛んでいるような感覚だった。


「しっかり掴まれ」


 もう一度言われ、私はようやくその言葉に従った。

 すごい速さで駆け抜けているのに、目はやけに、その光景をクリアに脳へ伝えていく。あまりの出来事に、瞬きするのも忘れるほど。今起きていることから、目がはなせなかった。


「――ここならいいか」


連れて来られたのは、少年と初めて出会った丘。公園からここに来るには、結構かかるはずなのに……。頭の中は混乱し、少年に色々聞きたくても、うまくまとまってくれなかった。


「――立てるか?」


 心配そうに聞く少年。それに私は、まだまともに言葉を口にすることができなくて。首を横に振るだけで、一人では立てないことを伝えた。すると少年は、私を抱えたまま歩きだし、体を気遣いながら、そっと、ベンチに座らせてくれた。


「――――あ、あり、がとっ」


 ようやく言葉を発したものの、まだうまく話せなくて。お礼の言葉は、なんともたどたどしいものとなってしまった。


「気にしなくていい。それよりも……首は、大丈夫か?」


 どうしてそんなことを聞くのかと思えば、首を見せてほしいと、少年は頼んできた。理由が気になるけど、彼なら、変なことはしてこなさそうだし。きっと大丈夫だと、自分でも不思議なほど安心感がわき、胸まである髪を片側に束ね、首筋をあらわにして見せた。


「――っ?!」


「大丈夫。俺は、何もしない」


 指先が、そっと首筋に触れる。くすぐったくて身をよじれば、それを逃げようとしていると感じたのか、少年は私の腰に手を当て、ぐいっと密着するように引き寄せられてしまった。


「傷は無い、か。――あいつに、何かされなかったか?」


「だ、大丈夫……です。あ、あのう……さっき、のっ。それにあなたは?」


 誰なの、と言葉を紡げば、少年は少し間をおいてから話し始めた。


「――叶夜だ。色々知りたいだろうが…話はあとだ」


 急に、少年の雰囲気が変わった。

 私の前に立つなり、ただじっと、真っすぐ前だけを見つめていて――それに私も、自然と体が強張った。


「――早かったな」


 呆れたような声で、少年――もとい叶夜君は言う。その視線の先にいるのは――。


「そりゃあこっちだって同じことできるからね」


 さっきまで一緒にいた、男性だった。

 チラッと横から確認すると、その視線に気付いたのか、男性は私を見るなり、


「その子、こっちに頂戴よ」


 と、笑顔で指差してきた。

 途端、震え始める体。怖くなった私は、ぎゅっと、目の前にいる少年の服を掴んでいた。


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