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◇◆◇◆◇


「今日は、なんだか機嫌がいいのう」


 食事後のお茶を飲んでいると、おじいちゃんからそんなことを言われた。


「そう? 私、そんなに楽しそうに見える?」


「あぁ。なんとなく、な」


「ふふっ。なんとなくなんだね」


 おじいちゃんが言うとおり、今日は気分がいい。体調がいいっていうのもあるけど、一番は、あの少年と会ったことだろう。思い出したら、自然と笑みがこぼれていて。なにがあったのかと聞くおじいちゃんに、自分と似た病気を持つ人と会ったことを話した。


「そうかそうか。そりゃあ話もはずんだじゃろう?」


「うん。でも、ちょっとしか話せなかったんだよね。名前だって、聞きそびれちゃったし」


「大丈夫じゃよ。きっと、また会えるとも」


「そうだと嬉しいぁ」


 お茶を一口飲み、しばらくぼぉーっと湯呑を眺める。本当、また会えたらいいんだけど。そうしたら……今度はもっと、色々話したいな。


「――もう、時期なんじゃな」


 ぽつり、おじいちゃんが呟く。何て言ったのかと思えば、もうすぐおばあちゃんの命日だな、と言われた。


「じゃあ明日にでも、お花買わなくちゃ」


「急ぐことないぞ。今週中に買っておいてくれ」


 この家には、私とおじいちゃんの二人だけ。おばちゃんは去年他界してしまって、両親は物心つく前に亡くなってしまった。

 二階建ての家に二人だけっていうのは、時々やけに広く感じることもあるけど――少しずつ、それにも慣れつつあった。


「じゃあ、じいちゃんはそろそろ寝ようかのう」


 湯呑をシンクに置くと、おじいちゃんはおやすみと挨拶をして、部屋に戻って行った。

 ……私も、早めに寝ちゃおうかなぁ。まだ九時を回ったばかりなのに、今日はちょっと眠気があった。自分でも気付かないうちに疲れが溜まっていたのかなぁと思いながら、二階にある自分の部屋に行く。寝巻きにしている白のTシャツと水色の短パンに着替え、さぁ寝ようかと背伸びをしていれば、


『――もうすぐ』


 ふと、どこからか、声が聞こえた気がした。でも、周りを見ても音を発するものは無いし、ましてや誰かがいるなんてこともない。

 外から、かなぁ……?窓を開け辺りを見回したけど――やっぱり、それらしいものは見つからない。ただの気のせいだと思い、窓を閉めようとした途端、


『もうすぐ――始まる』


 今度ははっきり、そんな声が聞こえた。


「――――っ!?」


 途端、目の前が真っ白に染まっていく。瞬きしても、目を擦っても。視界に映るものは、何も無かった。

 ! そ、そうだよ……ここは、部屋のはずっ。

 突然のことに驚きながらも、ここが自分の部屋ということを思い出し、なんとか気持ちを静めていく。窓なんて開けっぱなしでいい。早く眠ってしまおうと、ベッドがあるであろう方へと歩いた。――歩いてる、はずなのに。

 ?……なにも、ない?

 数歩でベッドに着く。たったそれぐらいの短い距離なのに、未だベッドに着くことはおろか、壁にもぶつかることもなかった。

 どうして……。私、本当はもう寝てる、とか?

 どこまで歩いても、なにも無い真っ白な世界。普通ならあり得ない光景に、これはいよいよ夢なのかと思い始めていれば、


「―――――?」


 何度目かの瞬きで、ようやく視界が開けてきた。


「よ、よかったぁ……?」


 ほっとしたのも束の間。私は、今自分の目に映る光景が信じられなかった。

 見間違い……だよ、ね?

 目に映るのは、部屋では絶対に見ないもので。星空が、視界いっぱいに飛び込んだ。周りをよく見れば、そこは近所にある、小さな公園だった。


「なん、で……私、おかしくなった、の?」


 頭を抱え、なぜ自分がここにいるのかと考える。寝巻きで、しかも裸足のまま外に出るなんて……普通なら、こんな恰好で出歩くはずない。――だとすれば。


「……副作用、とか?」


 思い付くのが、それしかなかった。自分は薬を飲んでるし、それならこうしてうろついてしまったのも、納得がいく。きっとそうなんだと結論付け、早く家に帰ろうと走りだせば。


「――――っ?」


 途端、目の前が歪み始めた。くらむ意識の中、私は寝る前の薬を飲んでいないことを思い出した。そんな状態で走れば、こうなってしまうのは当然のことで。呼吸をするのも辛くなり、これはいよいよ危険だと、私は座れそうな場所を探し、ベンチを見つけるなり、倒れるように横たわった。


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