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「――いや。両方とだな」


 そう答える女性は、同性でも見惚れてしまうほど、綺麗と凛々しさを兼ね備えていた。

 艶やかな黒髪は、肩できっちりと添えられ。大きな黒い瞳が、とても印象的だった。


「私は蓮華れんか。お前の名は?」


「わ、私は――美咲、と言います」


「美咲? 祖母の名前から取ったのか?」


「そうみたいです」


「となると、付けたのは祖父か?」


「はい。おじいちゃん、おばあちゃんのことが大好きで、私にもおばあちゃんのような優しい人になるようにって」


「ふふっ、そうか。――あいつが考えそうなことだな」


「考えそうなって――?」


「いや、こちらの話だ。月命日に通っているとは聞いていたが、本当に通っているのだな」


「はい。とは言っても、私は学校が休みの時だけなんですけど」


「それでも素晴らしいことだ。最近では、一年に一度でも参るか分らないような家族もいるのだから

な。――今日は、一人で来たのか?」


「いえ、おじいちゃんもいますよ。疲れたみたいなので、今は休憩してます」


「なら帰る前に、挨拶でもしておこう。――では、いずれまたゆっくりと」


 話を交えような、と言い残し、女性は優雅に立ち去る。

 それに私も挨拶を返し、去って行く後ろ姿を、しばらく眺めていた。


 *****




「いい子に育ったようだな――あおい




 椅子に腰掛けるなり、蓮華は隣にいる男性――美咲の祖父に話しかけた。


「大事に育てているのがよく分かる。さぞかし、溺愛しているのだろうな?」


「溺愛、かは分かりませんが――まあ、それなりに」


 葵は嬉しそうに、目を細めながら笑みを浮かべる。


「あなたから託されたからではなく、本当の子供のように育ててますから」


「そこは心配などしておらぬ。お前たち二人ならと思い託したのだ。――ある意味、それが【罰】でもあったがな」


「何を言いますか。これは罰とは言いません。――私たちは、幸せな時間を頂きました」


「そう思っているのならよいがな。――咲の最後は、どのようなものだった?」


 明るかった口調が、暗いものへと変わる。神妙な面持ちになる蓮華に、葵の口調も、何処か引きしまったものに変わった。


「〝普通〟、でしたよ。人が死ぬのと同じ。普通に歳を取り、普通に体が衰えていく。――〝人として〟生をまっとうしました」


「――――〝人として〟、か」


「えぇ。それがあなたたちからすれば、一瞬の命だというのは分かっています。ですが――私たちにとっては、本当に幸せな時間だったのですよ?」


 尚一層目を細め、笑顔を浮かべる葵。その表情に、蓮華も口元を緩めた。


「こうものろけられるとはな。――幸せに過ごせたのならよかった」


「私たちのことより、今はあの子のことを……」


「……あぁ、分っている。うろついているのがいるようだが、手出しさせないよう注意をはらっておこう。一応は私の子だ。そう簡単には連れて行かれまい。――先程近付いて分かったが、術の耐性も少しはあるようだしな」


木葉このはさんにも言いましたが、どうか、よろしくお願いします」


「…………木葉?」


「目覚めたばかりで忘れましたか? あなたのそばにいるもいる男性ですが――」


 自分の近くにいる? 確かにいつもいる者はいるが、その者は別の名前のはず――。

 考え込む蓮華。なかなか思いだせないのか、葵にその者の特徴を聞いた。

 耳が隠れる程度の長さをした、黒髪の若い男性。瞳は焦げ茶色で、蓮華に使える立場だというのに、いつも意見を述べる(どちらかと言えば叱るが近い)人物だと言う。


「――――あいつか」


 どうやら最後の説明で、誰なのかわかったらしい。自分に意見する者など一人しかいない、と確信を持っているようだ。


「そういえば、本当の名は捨てるとかどうとか言っておったな。――なるほど。今は木葉と名乗っておるのだな」


「まだお会いになってなかったのですか?」


「あぁ。珍しいこともあるものだ。目覚める時は必ず、犬のようにそばにいるくせにな。おそらく、お前の家や周辺を調べているのだろう。あいつは病的なほど仕事熱心だからな。――さてと」


 そろそろ戻る、と言いながら蓮華は立ち上がる。


「機会があれば、また会おう」


「えぇ。その時は是非とも、お茶でもゆっくりと」


「茶であれば、立ててくれるといいのだがな」


 そんな注文を挨拶代りに、蓮華はあっと言う間に姿を消した。


「お茶ときましたか。――帰ったら久々に、立ててみますかね」


 嬉しそうに笑みをこぼしながら、葵も立ち上がり、美咲の元へ歩いて行った。


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