スオウのラストターン
最終決戦とかいわれても、あたしはピンとこない。立場がちがうだけ。
「前からおもってたんだ。君たちはどうしてボクたちの邪魔をする?」
「いまさら?」
ミナのやつ、意気込んじゃって。
「おまえが魔王だからだよ、バーカ。おれたちが思ったより強そうでビビってんのか?」
違う。脳筋はこれだからダメだ。ミカゼ、いいやつなんだけどもったいないね。
「ボクはいつも考えるんだ。このまま、いつまでも続けばいいのにって。だってこんなに楽しいことはないじゃないか。世界をかけて、ボクたちと君たちが戦う。悩みもあるかもしれないけれど、少なくとも君たちはひとつにまとまっただろ?」
「命乞いならもう少しまともなことを言うんだな」
それも違う。ヨミとは最後まで価値観が合わなかった。
「ボクが消えたら、きみたちは必ずお互いを傷つけあうよ。そんなの寂しくないか? このままずっと遊んでいようよ。ボクのほうだって、こうみえても有象無象の魔物を束ねてきたんだぜ。こっちはこっちでほら、管理職なわけだしさ」
あたしはこれからころす相手に、妙な親近感を覚えた。もちろん、だからといって心変わりするほど、あたしたちの状況はやすくない。
「いくよ」
あたしは会話を叩き割る。
「盗賊王スオウ。君がいちばん、わかるはずだ」
「あー、そーゆームズカシイことはヨミとかに言って? あたしはおまえにキョーミないからさ」
「君が信頼しているその仲間は、ボクが消えたあとも、ほんとうに君の隣にいるのかなあ」
「スオウ、相手にしちゃだめ」
ビスが叫ぶ。ほんとお節介。
「君はもともと悪党だろう? 勇者ご一行として、最初は歓迎されるかもしれない。でもね、人間はそんなに我慢できる生き物じゃない。そのうち、そこの勇者さまに誰かが横からささやくよ。『あんな盗賊、いいんですか』って。なあスオウ、いままでに何人ころしてきた?」
あたしのなかで何かがはじけて、走り出していた。そして、最終決戦がはじまる。魔王はため息をつい
た。
「残念。そんじゃあ、仕切り直しだね」
ターンがはじまるのかと思いきや、ふしぎな力でカラダが動かない。これまでにも何度かあった。誰よりもすばやく動けるあたしを止める、このちから。
「『勇者ミナとその仲間たち。準備ができたら、やってみろ。貴様らがいくら知恵と力を振り絞ろうとも、結果は同じことだ。さあ、こい』」
動ける。
あたしは最初からやることを決めていた。盗賊になってから、ずっと守り抜いてきたあたしだけの技術。
「罠をはるから、下がって」
魔王の姿は影になっていて見えないが、これはたぶんヨミあたりがなんとかしてくれるだろう。
ならば、あたしの役割はサポート。空間を四方八方にとびまわり、仕事はすぐに終わった。
「はい、あとよろしく」
「え、もうやったの?」
ビスが間抜けな声を出す。最初もこんな感じだったね。なつかしい。あたしは振り返らずに、魔王をにらんだ。
「魔王。おまえが何をいいたいのか、手に取るようにわかるよ。あたしはきっと、おまえがいうとおり、次の世界で、また盗賊に戻るかもしれない」
「この特技。なるほど」
うまく話題をそらそうとしたのに、さすが王さまは頭がキレる。いちおう、目で確認できないくらい細いケーブルでつくったんだけど。
「でも、そんなのあたしにはカンケーないんだよね。そんときはまた、どっかのお節介さんにお願いするから」
「きっと後悔するよ。ふふ」
「はーあ、魔王っていうくらいだからもうちょっとさ、おおものなカンジを出して欲しかったなー。これじゃクサナギの連中にメンツがたたないよ。じゃあね」
ナイフでぱちん、と、目の前のみえないケーブルを断ち切る。
その音は、あたしの過去にさよならを告げる音だった。
「テラ、ミカゼ」
あたしは魔王をにらんだまま、言った。
「この技があるかぎり、アイツは動けない。こいつ、ちゃんと実体がある。普通の攻撃も通るよ」
つまり、ミナ以外でも体力は削れる。
「なんだ、たいそうな物言いをするから、てっきりバリアかなんか張ってんのかと思ったぜ。うちのターンは後にもってく必要があるのかと」
「おれとテラでボコボコにできるってことか?」
「そ。あと、動いた瞬間にこいつのカラダは『とうぞくの巣』できりきざんでから拘束できる。どっちに転んでも勝ち確定」
あたしは、いいながら自分の手のひらを見た。あーあ、やっちゃった。ケーブルの強度、調整をまちがえた。ラストバトルの前に、凡ミス。でも、確認してる時間なんてなかった。
血まみれになった指。たぶん、もう一回やったら何本かとはさよならだ。
でも、次なんてない。
そうじゃなかったら、あたしが捨ててきたものと釣り合いがとれないっての。