最終回
最終回と言ってもこの第三話で小説が最終回なのではない。
試合が最終回なのだ。
1対0
依然少女チームがリード。
少女チームが先攻だから相手のこの最終回ウラの攻撃をゼロに押さえれば少女チームの勝ちである。
しかし
二塁にランナーが出ている。
ただ
相手チームもすでにツーアウト
ツーアウト二塁。
つまり
次打者を抑えれば勝ちなのだが
ワンヒットで同点
ホームランでも打たれようものなら逆転サヨナラ
この状況で相手チームのバッターは?
「あれ、たぶんちいき新聞に載ってた子だよね!エースで四番。三年生だけどね」
礼儀正しく一礼して右バッターボックス。長身である。
「うわ、アイドルみたい」
「アイドルというよりモデルだな」
モデル体型。
試合のため束ねているが
黒髪ロングストレート。
脚も長い。
長いだけではない。
やはり引き締まっている。
体幹を鍛えているのだろう。
第一球は?
外角低め
ギリギリだがストライク!
バッターは見送り。無理に手を出して当てても内野ゴロがせいぜいだろう。いい判断とも言える。
コンビニ少女が目で二塁ランナーをけん制。ホームに向き直りながら
ちらりと我々を見てくれた?
頬が上気している。
投げた!
振った!
「わわっ!」
ファウルボールが我々に向かって来る!
金網があるから当たりゃしないのだが
思わずのけぞる女神様。私に乗っかかって来る。
重い!共倒れするではないか!
「だいじょうぶですか?」
おお!ユウキは優しいではないか!
コンビニ少女もこちらを見やって心配そうに頭を下げている。キミのせいではないのだがね。
打者の美少女も頭下げてるし。
気を取り直して
次の球!
カッ!
鋭い音がして
ファウルチップ!
が
ユウキの顔面に!?
「おっと」
もちろん金網越しだが
ヒョイとかわすユウキの身のこなしはさすがである。
さすがであるが
コンビニ少女が両手で口元を押さえつつ
ユウキの顔を心配顔で見ている。
「申し訳ありません!」
全身が語っているようだ。眉が八の字である。
そして深々と最敬礼。
打者の美少女も深々と一礼
一礼したが
コンビニ少女の顔を見ながら
ペロリ
舌を出した!?薄笑い!?
「あっ、やば!」
女神様!?何がやば!?
「だいじょうぶかなあ」
「何が?」
「にぶいなあ。たぶん、あの子にとってユウキ先輩は単なる先輩以上の人なんだよ。今の顔見りゃわかるでしょ!!」
「えっ、そうなの!?」
確かに表情がこわばって見える。
ムキになるなよ。マジとムキは紙一重。
制球は精神力。
平常心で投げろ。
が
投球がそれた。
キャッチャーが身体で止めて前に落とす。
ミットに収まらなくても後逸さえしなければだいじょうぶ。
しかし、この間にランナーは二塁から三塁へ進塁。ピンチが広がる。
内野陣がマウンドに集まる。
「中学生だからなあ」
女神様も心配顔である。
内野が各ポジションに戻ろうとしたそのとき
すーっとどこかで息を吸う気配
「三中っ!ファイッ!!」
ユウキが顔を金網に押し付けている。両手がメガホン。目がマジだ。コンビニ少女は!?
目が合った!?
すーっと今度はコンビニ少女が深呼吸。
キャッチャーが立った。敬遠?
いや腰に手を当てコンビニ少女と
視線が交錯?
両者が深くうなずき
キャッチャーが両手を高々と
内野に前進守備を要求?
ランナー三塁だから当然と言えば当然だが
だいじょうぶか?
長打でなくとも
内野の頭を越えたら1点である
打者の美少女
無表情に見えるが
ナメられた?
と思ったのか?
構えが大きくなった?
強振?
まず1点でなく
サヨナラ狙いなのか
だいじょうぶかよコンビニ少女!
?
視線を下げた?
!
あの時だ!コンビニの時!
少女の腕が回った!
内角!?
球は速くない
打ちごろ!?
しめた!
引っ張って内野越えで1点
右中間に長打なら逆転サヨナラ!?
なんだ!?
バットを振ろうとした美少女に
球が向かって行く!?
スライダー!?
本能的に
美少女がのけぞる
ごっ!
球は転々と
デッドボール!?
いや
キャッチャーが球をつかんだ
そして打者にタッチ
アウトッ!!
主審の判定である
ゲームセット!?
「バットのグリップに当たりましたね」
我々を見るユウキが笑顔である
「いや、当てたのかな?」
当てた!?
大リーグボール1号かよ!?
私が心で突っ込むのと
ここまで来て盗作かよ!
読者がツッコむのがほとんど同時であった
打者の美少女は尻もち
作り笑いもできない様子だ
続く。