雪山から来ました
なろうラジオ大賞5参加作品です。
使用ワードは「雪山」。
「深津美雪です。…雪山から来ました。」
転校生の挨拶に、教室は一瞬ザワっとしたが、担任の声ですぐに静まった。
でもみんな、内心は静まってなんかないだろう。
色白美人の転校生は、初っ端の挨拶と口数の少なさで、見事にクラスメイトから遠巻きにされた。
でも、彼女はそれで不自由を感じている様子はなく、淡々と日々を過ごしているように見えた。
僕は、つい目で追ってしまうくらいには、彼女に興味があった。話しかける事はできなかったけれど。
「失礼しまーす!深津先輩はいらっしゃいますか!」
それは昼休みに唐突にやってきた。いつも通りの騒がしさで。
「あっ!わかっちゃった〜♪」
誰かが返事をする前に、ソイツは転校生が1人でお弁当を食べている所へ駆け寄り、
「1年の美山ユキナです!深津先輩ですよね!」
と話しかけた。
「…そうだけど。いきなり何?」
深津さんはやや迷惑そうに言った。そりゃそうだろう。
だけどユキナはどこ吹く風で、
「単刀直入に伺います!先輩、雪女混ざってますよね?それか生粋?」
と言い放った。みんなが気になりながらも聞けなかった事を、ツルッと。
「え…」
深津さんは箸を持ったまま固まってしまった。
僕は内心ため息をついた。
ユキナはテンションが上がりきっていて、まともにコミュニケーションがとれる状況じゃない。…クラスメイト達からのお前がなんとかしろという圧も感じるし、非常に不本意だが、助け舟に入るか。
「深津さん、大丈夫?ユキナ、初対面の先輩に失礼すぎ。あと単刀直入過ぎるだろ。」
ユキナは僕を見るとパッと笑顔になり、
「コウキ君!」と腕に絡まってきた。いつもながら細いくせに力が強い。そして、
「こーゆーのは先手必勝なんだから!」と言うと、
「深津先輩、ご覧の通りです!コウキ君は私が先に見つけたので、好きになっちゃダメです!違う子を探して下さい!」
と言い切った。
ほぼ喋ったこともない僕を、深津さんが好きになる訳が無いとか、そもそも深津さんは本当にユキナと同じ雪女の血筋なのかとか、そのあたりをまるっと無視して言いたいことを言い終えたユキナは、
「じゃ、私お昼まだなので失礼しまーす、コウキ君、また放課後ね!」と帰って行った。
嵐が、去った…。
「川上くん…大変そうだね。」
深津さんが気の毒そうに言ってくれたが、雪女の血筋が異常に情が深いと知らずにユキナを好きになったのは僕なので、まぁ自業自得と言えなくもない。
皆も、雪女には気をつけてね。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました!