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思い出の情景  作者: 翔鳳
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何故、敵とエールの交換をしなければならないんですか?

 「また僕は負けてしまうのか。もういい加減勝っても良いと思うんだけど、本当に僕が悪いのだろうか? 」


 勝利に飢えすぎて、最近色々と拗れすぎだと思う。野球でも勝てなかったら、とうとう運動会でも負けてしまっている。負け組なんて言葉を聞いてしまったせいで、意識してしまう自分が情けない。

 運動会というものが、たった1人で奮戦した程度でどうにかなる代物ではないことぐらいは分かっているものの、それでも悔しいのだ。

 大阪人として、阪神タイガースの応援に行けば負けてしまい、じゃあオリックスブルーウェーブの応援だと思って行けば、見事に負けてしまう。もはや敗北の女神様とディープキスでもしているのではないかとすら思う。

 そんなことを考えていると、運動会で最も忌み嫌うプログラムのアナウンスが流れてきた。


「それでは、紅白応援団による応援合戦です!」


「炎の色は……赤! 救急車の色は……赤!」


「雲の色は……白! ご飯の色は……白!」


 毎年のように、訳の分からない応援が繰り返される。こんなことをしたところで得点に繋がるわけでもあるまいし、ただの休憩時間だと思っている。そんなことより、次に始まるあれが嫌なのだ。


「それでは、エールの交換です!」


 ふざけるんじゃない、なんで今から叩きのめさないといけない相手を応援しなきゃならんのだ。


「こら、今からエールの交換をしないといけないのに、離れるんじゃありません」


 先生に見つかってしまった。そらプログラムから離れる生徒がいたら指導するか。


「先生、僕は決して敵を応援したくないです。戦う相手を勇気づけてどうするんですか、せめて相手を罵倒して戦う気を無くさせましょう。近鉄バファローズから学びました!」


「そんな口の汚い球団の言葉を聞くんじゃありません。みんなと一緒に宣誓したでしょ、スポーツマンシップに則って戦いなさい」


「僕はあの場にいましたが、同意したわけではありません。目立ちたがり屋の彼が、何かを唱えていたのを見ていただけです」


 先生がプルプル震えている。僕が1週間連続で宿題をサボった時ぐらい怒っている。


「そんな考え方をしてはいけません。そんな考え方をしている人は、学校生活だって上手くいきません。もっと相手のことを敬いなさい」


「えっ……先生? 敵ですよ。今日の数時間は残念ながら敵じゃないですか。先生すら……じゃなくて、敵は分析して倒す観察対象です。先生は負ける悔しさを知らないんだ! いい加減観に来ているお母さんに勝っている姿を見せないといけないんですよ」


 そう、野球をすれば負けた話をお母さんにし、運動会をすれば負けた結果をPTA経由で知ってしまう。勝ちに飢えて誰が悪いんだって話だよ。


「良いですか? スポーツとはお互いに称え合い、そして共に健全に高め合うものなのです。貴方の考え方は野蛮人そのものです、先生は道徳の授業でそれを教えているはずです。相手を認めて、そして仲良くしなさい」


「敵として認めています!」


「屁理屈は止めなさい!」


 運動会で先生に怒鳴られるのは自分くらいだろう。あのクラスの親御さん達はピクニック気分でブルーシートを広げながら、子ども達が競い合っているのを肴にして飲んでいる。小学生にも満たない年少達は、運動会には興味がないと言わんばかりにキャーキャー言いながら走り回っている。

 のどかな雰囲気の中、僕の半径3mだけ弾劾裁判所になっているのだ。


「分かりましたよ、先生。心にもない言葉を交換してきますよ。ただ一言、僕はやはり敵を敬えません。敬い称えるというのは、勝者の特権なんです。相手を打ち負かしてから初めて、相手を褒めたたえることができます。敵を誉めてこちらが称えられるのは、勝っているからです。負けている人に言う資格何てありません。それは自分が負けたのは相手が強かったからだという言い訳をしたいから褒め称えているとしか思えないのです」


「これ以上は言いません、応援に行きなさい」


 結局自分の意志に反して、敵を応援することになってしまった。あまりに勝ちたいという意識が低すぎる。こんなことばっかりやっているから負け犬根性が付いてしまうんだ。運動会の日なんて、ただの“屈辱の日”なだけだったよ

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