屈辱の金メダル
「乾~杯!! 優勝おめでとう!!」
僕は1軍の優勝の祝勝会に来ていた。2軍の僕達は同じ野球クラブとは言え、1軍と2軍の2チームでエントリーして、大会に参加した。
残念ながら僕達2軍は1回戦で敗退してしまい、ひたすら1軍を応援するだけだった。1軍はとても強く、圧倒的な強さで優勝してしまった。にも関わらず、何故か全員分の金メダルが配られていた。訳の分からないことに、1回戦敗退の人間の目の前に金メダルがあった。そして全員で首にかけて集合写真を撮られる。
僕は一体どのような罪を犯したと言うのか! 何故このような屈辱を受けなければならないのか! 口から身体中の血を吐き出してしまいそうになるくらいはらわたが煮えくり返っている!
「やっぱりこのチームは強いな、次の試合も優勝だ!」
1軍のお父さんたちがビールを飲みながら愉快に騒いでいる。ふざけるな、今すぐにこのメダルを外に投げ捨てたかった。辛い……僕は終始無言で祝勝会を過ごした。何か喋ったような気がするけど、記憶にない。確か目の前に食事が出されていた気がするけど、味を覚えていない。ただ口の中に血の味が広がっていたような気がする。たぶんずっと唇を噛んでいた気がする。
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ずっと気落ちしたまま家に帰った。家ではお母さんが食事を作りながら待っていた。
「あら、金メダルをもらってきたの? 良かったね! 飾っておこうかな?」
お母さんは洗い物をしていたのか、手を拭きながら玄関に来てくれた。でもそんな言葉を受け入れたくない。
「お母さん、このメダル捨てたい!」
「何でそんなことを言うの?」
「1回戦で負けて、1軍のおまけで分け与えられた金メダルなんていらない。なんだこれ、参加賞の金メダルってなに! だったらなにもくれない方が良かった。負けた人に慰めのメダルなんていらないよ。富士山で買った良く分からない記念メダルの方がまだ幾分か価値があるよ!」
「そんなことを言うのは止めなさい。みんなで1つのクラブチームでしょ、1軍も2軍もないのよ。」
「嫌だ、こんな金属の塊なんて価値はないんだ! なんだこれ、ゴミやん! 参加賞の金メダルって……」
「……だったら勝ちなさい、そう思うなら勝ちなさい、悔しいなら勝ちなさい、これを恥ずかしいと思うのだったら、勝つしかないのよ。結局負け犬の遠吠えでしかないのよ、口だけの男の子になりたくないでしょ?」
「お母さん、野球ってチームスポーツだよ。1人で頑張っても勝てっこないよ。まずピッチャーがストライクに入れることが出来ないんだもの」
「いい? 4番キャッチャーっていう1番重要なポジションにいるのに、勝てないのは他人のせいにするの?」
「僕の打率は八割近くだよ、それなのに責任を取らされるなんておかしいよ」
「ねえ、キャッチャーって守備をしている時にみんなと違う方向を見ているよね? それは何でか分かる?」
「ピッチャーの球を取らないといけないんだから、背を向けるわけにはいかないよ」
「そうじゃないのよ、キャッチャーは1人だけ違う方向を向いているのよ。だからみんなと違う視点で物事を考えられなきゃいけないの。それって、キャッチャーだけに出来る仕事じゃないかな?」
「……うん、わかった。色々考えてみる。このメダルは捨てないけど、押し入れの一番奥にしまっておくね」
「そうしなさい」
お母さんは食事の準備の続きがあるのか、台所に帰っていった。
僕はこの何か模様が書いてある金属の丸みを帯びた円形の何かを押し入れに放り込んだ。でもこれは初めてのことじゃない、もうすでに五枚目だ。流石に勝ち取っていないお情けメダルが増えてくることに、嫌気がさしてきた。
そして、この状況を平然と受け入れることが出来る2軍のみんなにも腹が立つ。なんで悔しくないんだ、真面目に野球をしていないのかな。
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翌日、少し気持ちを取り戻すために外に出た。そして少し歩いたところに花屋さんがあって、その花をずっと見ていた。
「ナンバーワンにならなくてもいい、もともと特別なオンリーワンか……」
こんな歌を最近聞いた。そしてみんながこの歌を歌って、教師の人達もこの歌を歌わせようとしている。
「ナンバーワンにならなくても良いなら、試合なんてする意味が無いよ。競い合うから嬉しさと悔しさがあるんじゃないか」
花屋の前でそんなことを言ってしまう。花屋には罪がないけども、僕はつい悪態をついてしまう。
「ねえ神様? ナンバーワンを目指さない人がオンリーワンを言うのっておかしくないですか? ナンバーワンを目指して頑張るから輝くことが出来て、初めてオンリーワンって認めてもらえるんじゃないんですか?
神様、僕は間違えていますか? 人間は競争に勝ってきたからライオンだってゾウだって従えることができているんじゃないんですか? だったらみんな負けてよ、僕たちのチームを勝たせてよ。オンリーワンでいいんでしょ?
みんながオンリーワン、だから手を取り合って進もうって言うなら、僕たちはナンバーワンを取らせて欲しいよ。
僕は認めない、ろくに考えずにオンリーワンって有難いって言う連中なんて認めるもんか。ナンバーワンを目指して、それで負けた人達のことをオンリーワンって言ってやるんだ」
僕はみんなと違うのかもしれない。考え方だって特殊なのかもしれない。だったらみんなの考えたに合わせた方が楽なのかもしれない。でもそんなのって、自分じゃないや。
「オンリーワンにならなくてもいい、みんなで目指そうナンバーワン!」
うん、これの方が健全だ。あの戦いを舐めている連中の目を覚ましてやる。