お話合い:ケース1
「ねえ、シシリー。俺は無駄な事をするのが好きじゃないのは知ってるよね?
君と別れるなら、さっさとそう言って婚約を破棄しているよ。
でもそうじゃないから、こうして話したいんだ。
前に進むために、君が何に怒っているのか分からないとまた同じことが起こるよ?
それは建設的じゃないし、無駄でしょ?」
これはジェイコブ様とお話合いになる時に良く言われる内容です。
最初に言われたのはいつだったでしょうか・・・?
ミンタナ伯爵令嬢様がかかわった時か、ジェイコブ様が新しいクラブへ参加された時だったかと思います。
私の誘いを断られた直後に、他の方に別のお誘いを受けて即答で了承された時でした。
当然私はショックでした。
何故私の誘いはお断りされたのに、しかも研究だったか勉強をしなければいけないので、と言う理由でしたのに、他の方のお誘いは受けるのかと。
そして、私の誘いもその別の方の誘いも「お茶に行きましょう」といった類のお誘いなのでその内容に大差はないはずです。
私も流石に怒り、その場で「今のはどういう事でしょう?」と言いましたが、ジェイコブ様は「ごめんね、シシリー。また後で」と言いつつさっさと行かれてしまいました。
もちろん怒り心頭でそのまま帰宅しましたし、その後我が家に訪ねていらしたジェイコブ様にもお会いしませんでした。
遠回しに言っても伝わらない御方なのはこの時点で理解しておりましたので、「今はジェイコブ様にはお会いしたくございません」と伝えるように侍女に言いましたがそのまま伝えたかは不明です。
翌日も私からジェイコブ様にお会いしには向かわず、図書館へ行ったり、他の令嬢方とカフェへ行ったりしておりました。
その間、もちろんジェイコブ様からお手紙一ついただく事はなく、次第に私の気持ちは悲しみでいっぱいになっておりました。
ジェイコブ様とお話したのは、更に3日後でした。
お昼休みに食堂へ向かう途中でジェイコブ様から話しかけて下さいました。
「やあ、シシリー。最近は忙しかったの?」
と、いつも通り何事もなかったかのように仰います。
その時の私の心境は「ああ、この方は私が怒っていた事も既になかった事になっているのだろうな」でした。
なので、必然的に私の返答も冷たいものとなっておりました。
「お忙しいのは、いつもジェイコブ様では?」
「うーん・・・そうかもね。
でも、いつもならシシリーから会いに来てくれるでしょ?」
正直な反応をするなら、「はあ?!」って言いたい所でしたが、子爵とは言え私も令嬢ですし相手は婚約者とは言え格上のお家の方です。
「普段ならそうかもしれませんが、私が伺ってもジェイコブ様にはお邪魔でしょう?」
「うーん。シシリーがそう思うのならそうかもね。」
「・・・・・・どういう意味でしょうか?意味が分かりかねます。」
立ち話はなんだと言われ、中庭に場所を移しお話を伺った所、要はジェイコブ様は別に邪魔だと思っていなくても私がそうだと感じたのであればそうなのだろう、と考えられたとの事です。
意味が分かりません。(2回目)。
流石に不可解なので詳しく聞いてみると、結局は相手がどう受け取るかなので、自分の気持ちよりも私がどう受け取ったかが事実になるのではないかと考えられていたそうです。
仰ることは分からなくはないのですが、私がお伺いする事をジェイコブ様が邪魔と思うかどうかはやはりジェイコブ様のお気持ちで、私はあくまでも「邪魔しているのではないか」と推測したからこその発言だと申し上げるとやっと「邪魔ではない」と返答をくださいました。
まあ、ここで実は「邪魔だと感じていた」と言われた日にはきっと私は立ち直れなかっただろうと思いますので、本当に良かったです。
なので、素直に私はジェイコブ様に「邪魔だ」と思われ、もしやジェイコブ様は私との婚約解消も視野に入れられているのではないかと思っていたと言いました。
それに対する返答がこちらでした。
「ねえ、シシリー。君と別れたいなら、さっさとそう言って婚約を破棄しているよ。
きみと別れる気なんてないから、君が何に怒っているのか分からないとまた同じことが起こるからこうして話しているつもりだよ。
君は違うの?シシリーは俺との婚約を解消したい?」
私としてもジェイコブ様と別れたいとは思っておりませんでしたので、そんな事はないと素直にお伝えすると、「良かった」と微笑まれました。
ジェイコブ様はずるいのです。
その後とりとめのない話をしつつ、ようやく先日の話へと辿り着きました。
ジェイコブ様のお話では、新しいクラブの方なので馴染むためにそちらを優先していたとの事でした。通常であればお断りしているものの、今は仕方ないので最優先事項にしているがあくまでも「今だけ」なので理解して欲しいと本当に困っている様子で言われましたので私は理解を示しました。
ですが、1つだけ約束をしていただきました。
今後似たような事がある場合は先に言って欲しいと、後から言われても言い訳のようにしか聞こえず、私も傷つくのですと申し上げたら、そこは素直に「ごめん」と仰い約束していただけました。
そんなジェイコブ様とのお話合いの1つでした。
蛇足になるなとカットした部分をおまけとして追加。