トラブルは唐突に。
ジェイコブ様とお昼を一緒にしたり、放課後は良く図書館に行き、稀にタリス様と図書館でお話したり、私は寂しくならないよう過ごしていたいたある日の事です。
ジェイコブ様と今日は街へ出かけようと話していた所へ、ジェイコブ様のご友人であるミンタナ伯爵令嬢様が私達の元へといらっしゃいました。
ミンタナ伯爵令嬢様はどうしてもジェイコブ様の手助けが必要だと仰り、私は視線で抗議するもジェイコブ様は一緒に行かれてしまいました。
私には「すぐ戻るよ」と仰ってくださいましたが、ミンタナ伯爵令嬢様の勝ち誇った顔に打ちひしがれ、ジェイコブ様を待つ気力はなくその日はそのまま帰宅いたしました。
夕方にジェイコブ様は訪ねて下さいましたが、「何故待っていなかった」と叱られ、ミンタナ伯爵令嬢様に心配をかけた事も叱られました。
しかしながら、流石に私も今回の事は思う所が多いにありましたので、初めて言い返しました。
なぜ、一緒にでかけようと話している時に別の女性の方についていくのかと。
ジェイコブ様は同じクラスの友人が困っていて、男手が必要だったんだと仰いましたが、ジェイコブ様のすぐ近くにジェイコブ様のクラスメイトの男性もいらっしゃいました。
ご友人なのでお気づきでしたよね?
何故その方にお願いしないのでしょう?私たちは明らかにこれから出る所だったのに、と申し上げたら決まり悪そうな表情をされていました。
今日は私に申し訳ない事をした、と仰いつつも友人が困っている時はそちらを優先すると言われた私は失望を禁じえませんでした。
ジェイコブ様はミンタナ伯爵令嬢様のあの表情を見ていないから、分からないのでしょうが、あれは明らかに悪意をもった行動でした。
そして、またしてもこのミンタナ伯爵令嬢様の悪意に晒される事なりました。
もう、割と慣れっこになってしまった一人の放課後、私はジェイコブ様の誕生日が近いので街へと買い物に出ていました。
もうお判りでしょうが、人気のカフェで2人で楽しむジェイコブ様とミンタナ伯爵令嬢様を見てしまったのです。
その日はジェイコブ様はご友人と勉強会だと仰っていたはずでした。
嘘をつかれ、別のご令嬢とデートされている現実を私は受け止めることが出来なく、お2人の姿から目を離せませんでした。
しばらくして我に返り、すぐに離れましたがミンタナ様は私に気付かれていたようです。
ジェイコブ様は気付いておられませんが、ミンタナ様は私に目を止めてにやりと微笑まれました。
逃げるように帰宅し、その3日後、ジェイコブ様のお誕生日でしたので昼食時にプレゼントをお渡しましたが、私の心はここにあらずでした。
私の心は「何故」でいっぱいでした。
そんな私の態度が気に障ったのだと思います。
珍しくジェイコブ様がイライラとされているようです。
「ねえ、シシリー。俺に話さなければいけない事があるんじゃないのかな?」
「えっ?!」
思いがけない言葉に私は驚きました。
今プレゼントとカードはお渡しして、お祝いの言葉もお伝えしました。
首をひねっている私に、ジェイコブ様の言葉が続きます。
「まさか自分の婚約者が浮気をするとは思っていなかったよ・・・。」
「ええっ!・・・浮気?誰がでしょうか?」
「なんだ、すっとぼけるのか?
一昨日も、その少し前も君は図書館で男と2人で逢引きしていただろうが!」
まさかの発言に私の思考は停止しました。
恐らくタリス様の事でしょうが、正直そんなに会っていた記憶はございませんでした。
「図書館と言いますと、確かに私は本が好きなので良く行きますし、同じ本好きで弟の友人と顔を合わせる事はございます・・・」
「ほう、浮気を認めるのか?」
「いいえ、弟の友人と申し上げました。たまに顔を合わせ短時間お話することが逢引きとなるのでしたら、ジェイコブ様はどうなるのでしょうか?」
「なんだと?俺にやましい事なぞないぞ!」
「先日カフェでミンタナ伯爵令嬢様とお2人でデートされていましたよね?」
途端に苦々しい表情となるジェイコブ様に、益々私の心は冷えるようだった。
「見てたのか・・・。」
「ええ、先ほどお渡ししましたプレゼントを1人で探しに買い物に出た時に。」
「アレはシシリーの考えるようなものではない。」
「左様でございますか。」
視線を彷徨わせながらジェイコブ様がお話下さった内容をまとめると、ミンタナ伯爵令嬢様より私が図書館で浮気をしていると聞き、私がタリス様とお話しているのを目撃してどうするべきかと相談していたとの事でした。
何故わざわざ人目に付くカフェで2人で話していたのかと聞くと、やましい事がないのとミンタナ伯爵令嬢様のご希望だったそうです。
あの方は、本当に私の事が気に入らないのでしょう。
もしかしたらジェイコブ様と婚約したかったのかもしれませんので、その事を折角なので聞いてみた所予想外な反応が返ってきました。
なんと、ミンタナ伯爵令嬢様には思いを寄せる方がいらっしゃると、ジェイコブ様は本当にただに友人で話を聞いて貰っていただけとの事でした。
しかしながら、ミンタナ伯爵令嬢様が私を嫌っているのは間違いがなく、ジェイコブ様にもそう仰ったそうです。
「ねえ、シシリー。君は俺の婚約者なのに、彼女は俺に君のことが嫌いだ、なんて言ってくるんだよ?
ふざけていると思わない?自分の大切な人だと言っているのに・・・」
衝撃でした。私はどうやら一応大切に思われているようでした。
ですがそれなら何故そんな方とご一緒されるのでしょうか?私には理解できませんでした。
ジェイコブ様曰く、それとこれとは別なのだそうです。
訳が分かりません。どなたか解説をお願いしたいくらい私は混乱しております。
とりあえずタリス様の誤解は解けたようですが、私も気を付けなければいけませんね。
そして、思った通りミンタナ伯爵令嬢様は私に敵意をお持ちのようですが、私はあの方と関わったことがほぼないのですが、なんでそんなに嫌われているのでしょうか?
恐らく、聞くことはありませんが、何とも言えない気分になります。
ジェイコブ様に婚約破棄をするお気持ちは全く無いようなので、私の婚約はまだ継続するようです。
スッキリされたジェイコブ様の表情とは反面、私の気持ちは複雑怪奇でございました。