変化は徐々に
ある日の事でございました。
私はいつも通り、お昼休みに入りジェイコブ様をお待ちしていました。
ジェイコブ様は私を見つけるとはにかんだ笑顔でこちらに来て下さり、私にとっては至福の一瞬でございました。
次の一言があるまでは。
「ねえ、シシリー。毎日俺を待ってくれているけど、俺も用事があるし待たなくていいよ?」
「えっ・・・。私は、ご迷惑だったのでしょうか?」
「うーん、そうじゃないけど俺もやりたい事あるから。
一緒に昼食行ったり、他に何かしたい時は声をかけるよ。」
「承知・・・しました。」
「うん、分かってくれてありがとう。じゃあ、またね!」
ジェイコブ様はこちらを振り返る事なく、楽し気に去って行かれました。
残された私は呆然とするばかりでした。
友人には喧嘩したのかと心配されましたが、翌日普通にジェイコブ様に話しかけられ昼食も一緒にいただきました。
ジェイコブ様のお気持ちが分からなくなる最初のきっかけでした。
更にしばらく経ったある日、昼食の帰りに放課後お買い物に行かないかお誘いした所少々帰宅してやる事があるので今日はごめん、と断られました。
それ自体は全く問題なかったのですが、その直後一緒に歩いている時にジェイコブ様はご友人に誘われてその方や他の友人方と出かける事を了承されました。
私は驚いて、友人が去られた後にジェイコブ様にご用事があるのでは?と伺った所
「うーん、そうなんだけどね。今は新しい友人を大事にしたいんだ。
今だけだから」
どうやら、新しいクラブに参加されたそうで、馴染むために当分そちらを優先されるとの事でした。
理屈としては分かります。
分かりますが、私の気持ちは酷く傷つきました。
私はジェイコブ様にとって、なんなんだろうと思い始めたきっかけでした。
後日、まだどんな人たちか分かっていないので、見極めの時期でもあり、私に紹介しても大丈夫だと判断したら徐々に紹介するよと言われました。
実際何人かは、現在友人としてのお付き合いはございます。
ただ、この頃ジェイコブ様より私から色々誘われるのは嬉しいが、今忙しく毎回断るのも心苦しいので当分誘わないで欲しいと言われてしまいました。
お声をかけるのも躊躇われる毎日に、心に溜まるモノが増えて行きました。
そして、他の方々と楽しそうに過ごされているジェイコブ様の姿を見る度に心は痛みました。
何故、私と婚約されているのだろうか、と悩まない日はありませんでした。
とは言え、私から婚約を破棄する訳には参りませんので、私は現実逃避するように図書館に籠るようになりました。
元々本は好きです。
様々書物から得られる知識、物語などの創作、全てが楽しく、どちらかと言われなくても本の虫のタイプでございましたので、ジェイコブ様と離れている間は本に没頭しました。
そんな日々の中で、弟の年上の友人と知り合いました。
私の3つ下の弟ユリウスの友人の、マックス男爵家のタリス様です。
タリス様も本が好きなようで、偶然図書室で顔を合わせてから何度かお話し、お互い好きな本が似ていた事から友人となりました。
そんな何気ない出会いから、またトラブルに発展するとは思いもしませんでした。