第9話
今、俺達4人の真ん中にはドラム缶を真ん中からぶった斬った物の中に炭を入れて
その上に網を乗せて簡易BBQ台だ。
ド田舎なら、野ウサギを狩って来たり猪を罠にかけたりして肉を調達するんだけどな。
俺達が用意出来たのは、畑の横にある無人販売所から買ってきた野菜とスーパーに行って米と調味料のみだった。
ホームレス達は、色々と道具を持っている。
これはどうしても忘れられない芯なんだと思う
シエさんは精進料理を作っていた調理場の人間の様で包丁数種類持っていた。
カベさんは仏像を彫ったり寺の修繕していた様でノミや鉋を持っていた。
「ノミは物凄く大事だよ?でもなぁ鉋は実はな」
そう言うと、ちょいちょいと手を招いて来るので
耳を近付けると
「シエがな?鰹節削るのに使いたいってな?後は、山に行って香木見つけたら燻製したいってな」
何て、ちょっと面白い事を聞いた
シエさんはその時、鰻を捌いていて
俺達はカベさんが持っていた飯盒で飯を炊いていた。
俺達は、ミニBBQでこの路上生活をちょっと愉快に暮らしていた
そんな食べて飲んでを繰り返して
焚き火のみになった時にカベさんが俺に質問を投げてくる
「タイガ明日は何日だ?」
スマホを出して確認をする
「明日は15日ですよ?炊き出しか何かあるんですか?」
俺は、ホームレスになってこの人達に出会ってまぁ愉快な部分しかまだ見てない
真剣な表情を浮かべているカベさんに疑問を持った
カクさんやシエさんもうんうん頷いている
カベさんが口を開く
「明日は奴らが来る日なんだもう1つの『世間の怪物』がな。奴らの言葉を聞く限り『収穫』って言ってるけどな」
『世間の怪物』?なんだそれは
不可解な言葉にも驚いたが不穏な『収穫』にも顔が渋ってしまう
「まぁ、そんな顔をするな。奴らは貧困ビジネスって言われている守銭奴だよ。優しい顔して地獄へ連れていく誘惑の甘言さ」
数年前に、貧困ビジネスとは有名になったが
これ程までにホームレス達には周知されている事に驚いた
カベさんの話を聞いた情報を整理する
貧困ビジネスには、それなりに良い所と地獄の2つがある
それなりの所は、無料低額宿泊所を運営していて
そこに行くと生活保護を受けさせ家賃収入と法人で貰えるお金使って住む場所を提供するという物らしい
地獄は、生活保護と住む場所を提供するまでは同じだが
その上食事提供と金銭管理と称して徹底的に金を貪る団体で
最低の地獄だと、施設の出入りすら監視され軟禁状態になるという。
宿泊所を持たない団体は、アパートやマンションを生活保護で借りる所まではサポートするがその後は『働け、働け』と切迫して来るらしい
まぁ、そこは当たり前だと思う。
生活保護は全力でその人の技能、経験を持って生活の再出発をする為の制度だからね。
そういう団体は、炊き出しの際に声掛けをしてるらしいが
前述した団体は、固定の日や曜日に公園内やリサイクルショップ内の店舗内に居ると
服装等で話し掛けて来て
いかにこうだと良い所だけを話してその施設に連れて行ってしまうという。
逃げ出した人は数知れないという
ここには、あくまでも良い施設も本当にあれば嘘みたいなタコ部屋にぶち込まれるケースもあるという
カベさんも1度信じて行ったら、生活保護を受けながら働かされて体を壊したという
「え?それって働いてるから賃金発生しますよね?」
俺は信じられないという思いで聞いてしまった
「あぁ、何か連中の中で貢献度やら何かのラインがあるんだろうな。貢献度が高い奴は働いた賃金を職員と同じ額になる様に設定されてるんだよ。その貢献度が下の連中は…生活保護の切り取りが行われない月1.5万円しかくれないよ」
20日8時間働いて月1.5万円…
絶句してしまった職員の給料は20万円らしい
なので生活保護費を抜いた給料とすると
約8万~9万円になるという
何その地獄…
高い方ですら時給約560円、低い方は約94円だよ。
まぁ、どちらも生活保護法違反と労働基準法違反
こんなタブータブーが現存しているという。
「違反に加担させられるんですか?それって通報も出来ないですよね?だってしてる当事者も違反者、犯罪になりますからね」
俺はそう言うと、
カベさんは笑いながらこう答えた
「そうなんだよなぁ、そしてこの問題の厄介な所はな?普通の職員の中にはホームレス上がりの職員じゃなくて誘われて働いた連中が居るから職員の中にもその意識がある奴と無い奴が混ざってるから。大体働いてる奴は脅されてる皆叩けばホコリが出てくる連中も居るからな。皆我が身可愛さで金銭トラブル何て抱えたくないから逃げるしか無いのさ」
ホームレスの抱えてる問題は深い人も居れば
唯の俺みたいに楽観的失敗者も居る
これは世間の圧力も元々あると俺は思っている
『働く(いている)のが正義』これは正しい言葉ではあるが
立場に寄ると俺は思っている
苦境に投げ出されている人間やその状況に立ち向かっている人には
この言葉は毒であり、重圧である
それが『当たり前の事』だからだ
しかし、楽に楽に逃げている人間にはいくら投げかけても響かない言葉だ
むしろ、この多数派が居ないと自分達を支援してくれている制度や団体が立ち行かない事にすら気付いてないのだ。
学歴重視が多数派になってから数十年経つが
この多数派の動きによって階級制度の精度が高くなってしまったのも闇の1つでもある
貧困層の子供は貧困層から抜け出せないのはこれである
学歴が無くても自分は暮らせたと時代が変遷しているのにも情報がなく気付けず
自分の子供に同じ立場を強要してしまう
奨学金制度があるじゃないか?と中間層や富豪層は言うが
奨学金制度の奨学金は基本的に貧困層では大学では無く高校生の時に使わされ
その奨学金の理念である"学び"に使用ではなく
生活費用として使われてしまうのが今の現状なのだ
大学で奨学金制度を使える人は、最貧困層ではなく中間層と貧困層の中間の人なのだ。
まぁ、話が脱線してしまったが
ちなみに生活保護の利用頻度の高い人は
大卒が多いのもこういう情報活用術が最貧困層には無いし情報自体持っていない事が上げられる
生活保護の申請は基本的に1度役所では断ろうとする場所が実は多い
話を聞かなければ調べる必要が無いからだ
しかし情報を持っていて活用出来れば
役所は申請権の行使を遮ってはいけないという情報を知っていれば
立て直しに必要な支援を受けれる事を知れた筈なのだ
まぁ、そんな事を上手くグレーゾーンとして扱うのが貧困ビジネスなのだが。
カベさんの話は
「明日は、奴らが勧誘をしに来る日だから公園内に行かない方が良い」
という事であった。
最近は化け物共もこちら側には来なくなっているのでいつも通り武器を顕現させた状態で
カクさんと徒手空拳で組手をするのだが
化け物共よりもよっぽどカクさんの方が化け物に見える程ボコボコにされて
俺は眠りにつくというより気絶して次の日起きるという夜を過ごしていたのであった
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