Cafe Shelly お前はバカか?
「ねーねー、聞いてよ。あのさー」
「あーもう、うるさいっ!」
「そんなこと言わずに、イズミの話をきいてよー」
「イズミくん、今何をする時かわかってるのかな?」
「うん、自習時間でしょ」
「自習時間というのは自ら学習をする時間です。お話をする時間ではありません」
「委員長、そんなこと言わずにさー」
また委員長に無視された。でもボクはそんなの関係ない。だって、みんなとお話がしたいし、もっとみんなと楽しみたいんだから。
高校三年生も残りわずか。みんな受験前で必死になっているのはわかる。けれど、勉強だけじゃつまらないじゃない。せっかくだからもっと楽しもうよ。
そんなボクの気持ちとは逆に、クラスの雰囲気はどうもギスギスしている。うちの学校は進学校ってわけでもないし、ボクも就職することにしているから。あ、就職と言っても実家の花屋を手伝うんだけどね。今は人手不足で、しかも家族経営の花屋だから。
けれど、クラスの多くは進学をするらしい。専門学校に行くって人も多い。この時期にのんびりしているのは、就職が決まったボクみたいな人たちだけみたい。だからなんとなく最近つまらない。
夏くらいまではみんなと和気あいあいとしてたのになー。
委員長がダメなら、同じ就職組のあさかーくんだ。
「あさかーくん、あさかーくん」
「イズミ、何度いったらわかるんだ。オレはあさかーじゃなくて浅川。お前からあさかーなんて呼ばれると、アホになったみてぇじゃねぇか」
「いいじゃない。なんかアサカワなんて呼ぶのめんどうじゃん。それよりさ、イズミの話きいてよー」
「なんだよ。あまり騒ぐとまた委員長からにらまれっぞ」
「うん、さっきにらまれた」
「ったく、イズミはホントバカみてぇになれなれしいな。で、何の話だよ?」
さすがあさかーくんだ。ボクのことちゃんとわかってくれてるな。
「あのさ、あのさ、この前ね…」
話し始めた途端、今度は隣の藤井さんがぎろりとボクの方をにらんだ。
「イズミくん、ちょっと静かにしてくれない。私達、今受験に追い込まれているんだから。もっと周りのことを考えてよっ!」
おぉっ、こわっ。そんなににらまなくてもいいじゃない。まったく、このクラスいつからこんなに楽しくなくなったんだ。受験受験って、そんなに自分を苦しめてどうしようっていうんだろう。もっと人生楽しく生きなきゃ。
ってことをみんなに言いたいけれど、ボクだってさすがにそこまで空気読めない人じゃない。
結局、自習時間は黙って過ごすしかなかった。なんだかつまらないな。もっとみんな、明るくいこうよ。そんなに暗い顔で勉強ばっかやってたら、ホントつまらない人生を送ることになるよ。
「イズミ、先生が呼んでるぞ」
放課後、帰ろうとしたときに委員長からそう言われた。なんだろう?ボクは疑問を持ちながらも、職員室へと向かった。
「イズミくん、また自習時間に一人でおしゃべりしてたってね」
安岡先生、ボクの顔を見るなりいきなりそう言ってきた。
「だって、みんな暗い顔しているんだもん。もっと明るく、笑顔にならなきゃつまらないでしょ」
「あなたにはいつも言っているでしょう。みんなの勉強の邪魔をしないようにって。みんな受験に向けて必死なんだから。イズミくんは卒業したら、実家のお花屋を手伝うことが決まっているから、気楽にすごせるでしょうけど」
「気楽じゃないですよ。あ、先生お花屋の大変さ知らないでしょ。朝は早く起きて、市場に仕入れに行かなきゃいけないし、昼はお店の接客と配達。夜はいろんな会合とかもあって休む暇がないんだよ。だから…」
「だから?」
「うちのお父さんは、いつも笑顔でいることが大事だって、いつもボクに言ってました」
安岡先生、ボクの言葉を聞いて黙り込んでしまった。ふふふ、どうやらボクの勝ちみたい。お父さんの言ったこと、これはボクの大のお気に入りの言葉なんだ。いつも笑顔でいること、これが何よりも大事なんだってこと。
「わかった、もう帰っていいです」
「わかってくれました?ありがとうございます」
安岡先生、ちょっと渋い顔してたけど、ボクの気持ちをわかってくれたんだ。さぁ、帰ったらお父さんの手伝いしなきゃ。最近、遊んでくれる人が少なくなったから、お店の手伝いするしかないもんなぁ。
けれど、事態はボクが思っていない方向へと向かっていった。
「イズミ、お前学校で何かやらかしたのか?」
家に着くなり、お父さんがそう言ってくる。けれど、その顔はボクを叱るという感じではなく、いつものようににこやかに笑いながらのものだった。
「えーっ、別にやらかしたってわけじゃないよ。ただ、先生には呼び出されたけど」
「イズミ、お前はバカだなぁ。そういうのをやらかしたっていうんだよ。ハッハッハ」
豪快に笑うお父さん。ボクはこういうお父さんを尊敬する。
「さっきな、お前の担任の先生から電話があって、一度お父さんと話をしたいって言ってきたんだよ」
「えーっ、安岡先生が?」
「そう、安岡先生。確かまだ若い女の先生だったろ?」
「うん、結構美人だよ。あ、お父さん安岡先生を口説いちゃダメだよ」
「はっはっはっ、お前が高校にいる間はまだ口説かないよ」
お父さん、冗談なんだか本気なんだか。でも、そんな冗談みたいな言葉が出てくるところがいいんだよな。ボクもあんな感じで、周りをクスリと笑わせて笑顔にさせる、そんな人になりたい。
実は、我が家でお父さんの更に上手を行くのがお母さんだ。お母さん、天然ボケが入っているから本当に笑わせてくれる。恐ろしいのは、自分がボケていることを自覚していないところ。
「えっ、今どうして笑ってるの?」
なんて感じで、自分が言ったことややったことの自覚がない。だから我が家はいつも笑顔が絶えない。ボクが結婚したら、こんな家庭をつくってみたいといつも思っている。
「ところでイズミ、これからお店手伝えるんだろう?」
「うん、そのつもりで帰ってきたから。あ、着替えてくるからちょっと待ってて」
「いや、そのままでいい。ちょっと行って欲しいところがあるんだけど」
「制服のままでいいの?」
「いや、制服のままのほうがいいんだ。こいつを届けてほしいんだ」
制服のほうがいいなんて、どういうことだろう?そうしてお父さんからはお花ではなく、一冊の本と手紙。それを一つの封筒に入れたものを手渡された。
「どこに届けるの?」
「ここなんだ」
今度は地図を書いたものを渡された。どうやら住宅街にある普通の家みたいだけど。
「じゃ、まかせたぞ」
「うん、わかった」
そうしてボクはお父さんのおつかいに出ることになった。この場所まではバスじゃないと行けないところだ。しかも駅前で乗り換えないといけない。ちょっと時間かかるかな。ま、いいや。
そうしてまずは駅までのバスに乗る。ここまでは問題ないけれど、ここから先が問題。なにしろ始めていく場所だからなぁ。確か行き先は神城団地ってところだから…
駅前はバスターミナルになっていて、たくさんのバスがここに集まる。それだけに乗り場もたくさんあって、行ったことがないところだとどこから乗ればいいのかわからない。けれど大丈夫。こういうときは素直に案内所で聞けばいいんだから。
「こんにちはー」
「はい、何か御用?」
「えっと、ここに行くにはどこから乗ればいいですか?」
明るく笑顔で質問すると、案内のお姉さんも明るい笑顔で応えてくれる。うん、これだよ。
バスのりばを教えてもらい、いざ出発!こういうときは自然と鼻歌がでてきてしまう。何の曲ってわけじゃないけれど、なんだか気持ちがいいから歌っちゃうんだよね。周りの人はなぜだかクスクス笑っているけど、別に気にしないよ。
バスに乗ると、乗客はわずかしかいない。目的地までは十五分くらいだってことだから、あまり目にしない外の景色を楽しむことにしようかな。
そう思ったときに、ふと前に座っているおばあさんが気になった。何が気になったかって言うと、おばあさん何かを探している様子だったから。気になったらつい声をかけちゃうのがボクなんだよね。
「おばあさん、何か探しものしてるの?」
「あ、えぇ、いつも使っている定期券をどこにしまったかなって。あれぇ、病院に行くときにはちゃんとあったんだけどねぇ」
そう言ってバッグの中を一生懸命探している。
「おばあさん、どこまで行くの?」
「神城団地までなのよ」
「じゃぁボクと一緒だ。じゃぁ、探すのお手伝いするね。えっと、普段は定期はどこにしまってるのかな?」
「ふだんはこのバッグの中なんだけど…」
「じゃぁ、行きのバスではあったんだから、バスを降りてからいつもと違うことしなかった?」
「いつもと違うこと…あ、そういえば」
おばあちゃん、何か思い出したみたい。このとき、一冊の本を取り出した。そしてその本を開く。すると、探していた定期券がそこに挟まっていた。
「そうなのよ、この本をお友達に借りて、バスの中で読んでいたんだった。降りるときにあわてていたから、定期券をしおり代わりに挟んだのを今思い出したわ。思い出させてくれてありがとうねぇ」
おばあちゃん、とてもニコニコしている。うん、ボクが見たいのはこれなんだ。そこから神城団地のバス停に着くまで、おばあちゃんと話をした。お孫さんがボクと同じ年齢らしい。気遣いができて、器量の良い女の子だとか。大学受験で塾に通っているらしいけれど、毎晩帰りが遅くて心配だって言ってた。
そうしてバス停に到着。
「あなたはこれからどこに行くのかしら?」
「あ、ボクはお父さんのおつかいで、この家に行くんです」
メモをおばあちゃんに見せる。するとおばあちゃん、驚いた顔をした。
「あらま、ここウチじゃない。まぁ、こんなことあるのね。あ、ということはあなたは大崎花店の方?」
「はい。フラワーショップオオサキって名前に変わっていますけど。おばあちゃん、お父さんの知り合い?」
「まぁ、びっくりだわ。そう言われるとあなた、お父さんになんとなく似てるわね。うふふ」
で、結局一緒におばあちゃんの家に到着。すると、今度はこの家の奥さんが出迎えてくれた。
「こちら、大崎花店さんの息子さん」
おばあちゃんのほうが先にボクのことを紹介してくれた。
「こんにちは。あ、これをお父さんから預かってきました」
そう言ってボクはお父さんから預かった本と手紙を手渡した。
「わざわざありがとうございます。よかったら上がってください」
「はい、ありがとうございます」
こういうのは遠慮なく受け止めることにしている。にしても、お父さんとはどんな関係なんだろう?
「わざわざ届けてくれてありがとうね。大崎さん、まだあのこと気にしてるんだから」
「えっ、あのことって?」
これについてはおばあちゃんのほうが口を開いてくれた。
「この子ね、大崎さんと高校の頃の同級生なんだよ。まったく、お互いに好き同士だったのに、ちゃんと思いを伝えないからこうなったんじゃないの」
「お母さん、もう、それは言わないでよ」
ますます興味が湧いてきた。お父さんとここの奥さんに何があったんだろう?
「あ、コーヒーって飲めるかな?美味しいのがあるんだけど」
「はい、いただきます」
「うふふ、大崎くんの若い頃そっくりだね」
そう言って奥さんはコーヒーを淹れに行った。すると今度はおばあちゃんがボクに話しかけてきた。
「あなた、とても明るくて元気よねぇ」
「はい、みんなを元気に、笑顔にさせたいから、ボクが元気じゃなきゃ。でも、ボクが明るく話しかけても、みんなは受験でピリピリしてるから邪魔もの扱いされちゃうんですよ。もっとみんなには笑ってほしいんだけどなぁ」
「そうよねぇ。うちの瑞穂も同じなのよ。受験を控えているから、すごく神経質になっちゃって。ホント、困っているのよねぇ」
「大丈夫ですよ。家族のみんなが笑顔で見守っていれば、ちゃんと良い成果がでますよ」
「あなたの言葉、とても元気になるわ。ありがとうね。あ、そういえばあなたの名前を聴いていなかったわね」
「ボク、イズミっていいます。大崎イズミ。名前の通り、みんなの元気の泉になりたいなって思ってます。でも、周りからはお前はバカかってよく言われちゃうんですよ。元気だけが取り柄ですからね」
「いいじゃないの。元気の泉、ぜひそうなってほしいものだわ。私も元気になれたもの」
うん、これだよ。みんなにもそうなって欲しいんだよ。
「はい、コーヒーが入ったわよ」
奥さんがコーヒーを運んできた。
「ありがとうございます。じゃぁ、さっそくいただきます」
ボクはインスタントコーヒーや自動販売機のコーヒーは飲むけれど、本格的なのは初めてかもしれない。カップを手にとり口に近づけると、とてもいい香りがする。そして口に含むと、今まで飲んだことがない味が口に広がる。
「すごくおいしいです。わぁ、今まで飲んでいたコーヒーとは全然違いますね」
「でしょう。ここのコーヒー、お店で飲むとさらにおもしろいことが体験できるのよ」
「どんな体験なんですか?」
「うふふ、それは体験してのお楽しみ。あ、そうだ、今度一緒にお店に行かない?娘も連れて行こうと思っていたから」
「はい、ぜひ!」
こういった誘いは断らない。どんな体験なのかが楽しみだ。
「ところで、うちのお父さんと何があったんですか?」
「そうねぇ、そのことは今度お店に行ったときに話すわね。うふふ、学生服姿のあなたを見ていると、若い頃のときめきを思い出しちゃうわぁ」
お父さん、それを狙ってわざわざ学生服姿のままボクをここによこしたのかな?お父さんの狙いもよくわからないなぁ。でも、おもしろいことになりそうだ。
それからこの日は、美味しいコーヒーを出してくれるお店に行くための待ち合わせを決めて家に帰った。残念ながらこの家の娘さん、瑞穂ちゃんは塾で遅くなるということで会うことはできなかった。奥さんが可愛い感じだったから、瑞穂ちゃんもかわいいのかなって期待している。
家に帰ってお父さんにこのことを報告。
「はっはっはっ、お父さんにも青春時代があったんだぞ」
「で、そこの奥さんと何があったの?」
「それは、そのコーヒー屋さんに行くまでのお・た・の・し・みっ!」
うぅん、気になるなぁ。ま、次の日曜日にそれもわかるから楽しみにしておこうっと。
その週は日曜日がくるのが楽しみで仕方なかった。
「イズミ、何かいいことあったのか?いつもニコニコしているけど、さらに輪をかけて笑顔じゃねぇかよ」
「そう?まぁ、楽しみが待ってるのは確かだけど。うふふっ」
「きもちわるっ!」
とまぁ、学校ではこんな感じで過ごしていた。そうして迎えた日曜日。昼の1時に駅前の噴水で待ち合わせることになっている。さて、瑞穂ちゃんってどんな子なのかなぁ。
「イズミくん、おまたせ」
現れたのは奥さん。うちのお父さんと同じ年齢とは思えないかわいらしい姿で登場。
「こんにちは。あれ、瑞穂ちゃんは?」
「あの子ね、ちょっと寄るところがあるから後から来るんだって。さ、行きましょ」
うぅん、ちょっとがっかり。けれど期待感は高まる。だって、この奥さんがこんなにかわいらしいんだから、娘さんがかわいくないわけがない。ったく、お父さんもとんでもない人を好きになってたんだなぁ。
「さ、ここよ」
案内されたのは街なかの裏通り。パステル色のタイルが敷き詰められて、両側にはたくさんの店が並ぶ。道幅は広くないけれど、なんとなくウキウキする通りだ。こんなところ、通ったことがなかったなぁ。
そしてお目当てのお店は通りの中ほどのビルの二階にある。奥さんが先に階段を上がり、ボクが後ろからついていく。
カラン・コロン・カラン
扉を開くと、心地いいカウベルの音。同時に聞こえる「いらっしゃいませ」の声。さらにコーヒーの香りの中に甘い香りが混じって、ボクの身体を包み込んでくれる。なんだかいい気分だ。
「こんにちは。今日は私の彼氏を連れてきちゃったわ」
そう言ってボクのことを紹介する奥さん。なんだか照れちゃうな。
「こんにちは。どうぞこちらへ」
店員のおねえさんに通されたのは店の真ん中にある丸テーブル。
「マスター、シェリーブレンドを二つおねがいします」
「かしこまりました」
カウンターでは渋い中年の男性がコーヒーを淹れている。なんだか絵になるなぁ。ボクのお父さんは軽い感じがするから、あんなふうにはなれないな。ということは、ボクもあんなふうに落ち着いた感じにはなれないってことかなぁ。
「イズミくん、お父さんに私の事話したんでしょ。何か言ってた?」
奥さんがちょっとイジワルっぽくボクに話しかける。
「はい。奥さんとの関係を聞いたんですけど、このお店に来るまでのお楽しみだって言われちゃいました。だから今日のことが楽しみだったんです。お父さんとはどんな青春時代を送ったんですか?」
「うふふ、聞きたい?」
「ぜひ、お願いします」
「ホント、イズミくんってお父さんそっくりだね。お父さんも高校生の頃はそんな感じで明るく振る舞ってたな。でも、それって誰に対してもそうだったからなぁ」
「誰に対しても、ですか?まぁ、ボクもそうですけど」
「じゃあ、イズミくんって今好きな女の子とかいないの?」
「す、好きな女の子ですか!?」
そう言われると困ってしまった。まぁいいかなって子とか仲のいい子はいるけれど、恋愛ってほどじゃないし。
「今は特にいません。でも、誰とでも仲良くしたいって思ってます」
「あはは、お父さんと同じだ。私ね、高校時代に明るく振る舞うイズミくんのお父さんが大好きだったの。でも、誰とでも仲良くしてたから、きっと私のことなんて見てくれてないんだって、ずっとそう思ってた」
奥さん、遠い目をしてそう言ってくる。
「でね、卒業式のときに離れ離れになっちゃうから、思い切ってラブレター渡したの。そうしたらお父さん、どうしたと思う?」
「どうしたんですか?」
ここが一番肝心なところだ。ちょっとドキドキするな。
「お待たせしました。シェリー・ブレンドです」
ちょうどいいタイミングで、おねえさんがコーヒーを運んできてくれた。
「あはは、続きはこのコーヒーを飲んでからね。飲んだらどんな味がしたのか、ぜひ教えてね」
あらら、残念。これからってときだったのに。そう思いつつも、さっそく運ばれてきたコーヒーを口にする。うん、この香りはこの前飲んだものと同じだ。いや、それよりもさらに香りが際立つ。さすが、プロが淹れたものは違うな。
口に含むと、さらにコーヒーの味が際立つ。すごく美味しく感じる。その味が口の中いっぱいに広がっていくのがよくわかる。
「わぁ、なんだかすごいです。前に飲んだ時も美味しいと思ったけど、ここで飲んだときには口の中いっぱいに美味しさが広がっていきました。すごい、すごい!」
ボクが一人で興奮していると、お店のおねえさんがこんなことを言ってくれた。
「ということは、何かを広げてみたいっていう願望を持っているのかな?」
「はい、ボクはみんなに笑顔になってもらいたいんです。実は今、ボクの周りは受験で笑顔がなくなっちゃって。みんな厳しい顔つきしているんです。だから、ちょっとでも明るくなって欲しいって、そう思ってます」
「そうなんだ。まぁ私も受験したから、あの頃はちょっと険しい顔してたかもなぁ。マスター、私ってどうだった?」
すると、カウンターからマスターがこんな答えを返した。
「マイのあの頃は、正直近寄りがたかったなぁ。すごくピリピリしてたもんな。担任だった私も、ちょっと声をかけられなかったぞ」
「そういえば、マイさんはマスターの教え子だって言ってたわね」
奥さんはマスターとおねえさんの関係をわかってるみたい。ボクは話についていけずに、ポカンとするしかなかった。
「実はね、この二人年の差カップルなの。マスターは元高校の先生なのよ」
その事実には驚いた。けれど、年の差はあってもなんとなくお似合いなのが伝わってくる。二人とも明るくて、笑顔がとてもいい感じだもん。
「そういえば奥様はどのような味がしたのですか?」
おねえさんが奥さんに味をたずねる。すると奥さんはちょっと微笑んでこう答えた。
「懐かしいロマンスの味かな。でもね、そのロマンスをいまさら私が味わおうとは思っていないわ。今度は私の娘にそれを味わってもらいたい。そう願ってるの」
「ロマンスの味?」
なんのことだかよくわからない。それに、よく考えたらどうして味のことなんか質問するんだろう。
「このコーヒーって、飲む人によって味が違うんですか?」
思い切ってこのことを質問してみた。これについてはおねえさんが答えてくれた。
「このシェリー・ブレンドには魔法がかかってるの。飲む人が今望んでいるものの味がするのよ」
望んでいるものの味がする。そう言われればまさにそうだ。ボクが望んでいるのは、多くの人に笑って欲しいということ。だから、ボクはたくさんの人を笑わせたい。
「そういえばさっきの話の続き、聞かせてくださいよ」
ふと思い出した。お父さんにあてたラブレターの話の続きを教えてもらわなきゃ。
「あはっ、そうだったわね。私ね、卒業式のときにイズミくんのお父さんにラブレター渡したの。そうしたら、お父さん、なんて言ったと思う?」
「なんて言ったんですか?」
「どうして今なのーって言って、急に泣き崩れちゃったのよ。あんなにバカみたいに明るく振る舞っていた人だったのに、あれは意外だったな。これは後から聞いた話だけど、私の事ずっと好きだったんだって。でも、なかなか振り向いてくれないから、どうにかして振り向いてもらおうとして、ずっと明るく、バカみたいに振る舞ってたんだって。ホント、お父さんってバカだよね」
なるほど、そういう理由でお父さんは明るくバカみたいに振る舞ってたんだ。でも、なんかお父さんらしいや。
「でね、私はそのまま都会の方で就職しちゃって。その間にイズミくんはお母さんと結婚しちゃって。私は向こうで知り合った人と結婚してね。でも、夫の転職でこっちに戻ってきて、今は私の実家で暮らしているの。私が都会に行っている間に、私のお母さんがいつの間にかお父さんのお花屋を見つけて、それで私とお父さんは再会することになったの」
奥さん、遠い目をしてそう語ってくれた。ちょっと切ないロマンスの話だったな。
「またお父さんと恋をしたいっていう気持ちにはならないんですか?」
ちょっとイジワルな質問をしてみた。けれど、奥さんは意味ありげな笑いをしてこう答えた。
「さぁ、どうかしら?それよりも、今は娘の瑞穂の方が気になるかな。私の目から見てもかわいいと思うんだけど、恋愛についてはさっぱりなのよ。もっと青春を謳歌してほしいんだけどなぁ」
「そういえば瑞穂ちゃん、まだ来ないんですかね?」
そのとき、カウベルの音が鳴り響いた。
「いらっしゃいませ」
おねえさんがすぐに反応。ボクもつられて入り口の方を向く。そのときだった、ボクの身体に電撃が流れたのは。
そこにはかわいらしい制服姿の女子高生が立っていた。長い髪に大きな目。まさにボク好み。
「瑞穂、こっちこっち」
奥さんが手招きをする。あの子が瑞穂ちゃんなのか。急にドキドキし始めた。
「こ、こんにちは」
さっきまでのボクの元気はどこへやら。自分でもその違いにとまどいながらも、かろうじて小さな声であいさつするのがやっとだった。
けれど、瑞穂ちゃんの答えはいきなりこうだった。
「あなたがイズミくん?まったく、うちの母が会わせたいからっていうからどんな人かと思ったら。あんた、バカ?」
「こらこら、瑞穂っ。イズミくん、ごめんなさいね。瑞穂ったら最近ちょっと口が悪くなってて」
「お母さん、何いってんのよ。失礼しちゃうわ」
瑞穂ちゃん、確かにカリカリしているな。勉強のストレスでも溜まっているのかな?ならば、この手はどうかな?
「あのさ、あのさ、瑞穂ちゃんってここのおねえさんみたいな、きれいな髪してるよね」
ここのおねえさんも、長いストレートのきれいな髪をしている。
「あ、ありがとう」
急にしおらしくなる瑞穂ちゃん。さらに追い打ちをかけてみる。
「目もパッチリしてて、すっごくドキドキしちゃった。どっかのアイドルかと思っちゃったもん」
「でしょう、私の自慢の娘だもん。瑞穂って、もっと磨くといい線いってると思うんだけどなぁ」
「なによ、それ。まぁ、いいけど…でも、バッカみたい。初対面の相手にそんなこと言う?」
「でも瑞穂、イズミくんにそう言われてうれしいんでしょ」
「うぅん、悪い気はしないけど」
「イズミくん、周りを明るくしてくれる人なんだよね。だからお母さん、イズミくんがもっと身近に感じられる人になってくれるといいなって思うんだよね」
「な、なによそれ。お母さん、イズミくんを彼氏にしようってこと?」
「ふふふ、だったら瑞穂は賛成してくれる?」
「バッカみたい。娘と同じ年齢の彼氏だなんて。イズミくんも、こんなおばさんのどこがいいのよ?」
あらら、なぜだかボクが奥さんの彼氏になるってことになっちゃってるけど。なんだか話がこじれてきちゃったな。
「ボクは奥さんってとてもステキだと思いますよ。とてもうちのお父さんと同じ年齢だと思えないです」
「ありがとう。そう言ってくれると、お母さんなんだか自信がでちゃうな」
「あんたバカ?こんな年増の女性を口説いてどうすんのよ。口説くんなら私みたいな女の子を口説きなさいっていうの!」
「あら瑞穂、あなたイズミくんに口説かれたいの?」
奥さんがそう言うと、急に顔を真赤にする瑞穂ちゃん。その様子がさっきまでの勢いとはギャップがあって、さらにかわいく見える。
「な、な、何いってんのよ、お母さんっ!」
「ふふふ。ということでイズミくん、瑞穂を口説いてあげてね。こう見えてもやさしいところあるのよ。あ、マスター、瑞穂にもシェリー・ブレンドを一つお願いします」
「かしこまりました」
瑞穂ちゃん、それっきり黙り込んでしまった。えっと、何か話題を出して盛り上げなきゃ。どんな話題がいいかな?
「あのさ、あのさ、瑞穂ちゃんってどこの大学受けるの?」
「私?私は地元の国立大。それと東京の私立も受けるけど。私、こう見えてもリケジョなんだよね」
「リケジョ?」
「理系の女子ってこと。特に生物が得意だから、バイオテクノロジー関係の研究職に就きたいの」
「わぁ、かっこいいなぁ。瑞穂ちゃん、頭いいんだ」
「まぁね。でもね、希望しているところって今結構ギリギリのラインだから、ちょっと焦ってるのよね」
瑞穂ちゃん、自分のことを質問されてだんだんと調子が出てきた感じがする。どうやらプライドは高いって感じだな。ならばこれはどうかな?
「じゃぁさ、大学に合格したら豪華な花束をプレゼントするよ」
「そういえばイズミくんって花屋の息子だっけ。まぁ私は花より団子かな」
「それなら、花束にチョコレートをつけてあげよう」
「あ、それいいね」
瑞穂ちゃん、最初はちょっとクールで冷たい感じがしてたけど。話してみるととてもノリがいい。そう、そうなんだよ、ボクが目指しているのはこんな感じ。心の壁を取り払って、こうやって明るく前向きに会話をしてほしいんだ。
「二人とも、なんだか気が合う感じじゃないの。お母さん、すごくうれしいわぁ。」
「ちょ、何言ってんのよ、お母さんっ!そんなんじゃないってっ!」
瑞穂ちゃん、あわてて否定するけれどボクはまんざらでもない。
「おまたせしました」
そのタイミングで、おねえさんがコーヒーを運んできた。すると瑞穂ちゃん、照れ隠しなのかすぐにコーヒーを手にとり飲み始めてしまった。さて、どんな味がするんだろう?
「ホントにお母さんったら。私はね、もっと堅実で真面目な男性を見つけて、ちゃんとした恋をして結婚したいの。あら、このコーヒーすごくおいしい。なんだか飲んでると笑顔がでてきちゃうな。うわぁ、なにコレ、なんかすごくおもしろい」
瑞穂ちゃんの口調が、とんがっていたものから徐々にやわらかく、そして楽しみを感じられるものに変わってきたのがよく分かる。表情も徐々にニコニコしてきた。
「うふふ、ということは瑞穂は笑顔になることを望んでいるんだね」
ここで奥さん、ボクにウインクしてきた。言いたいことはよくわかる。つまり瑞穂ちゃん、口では堅実で真面目な男性なんて言っているけれど、本音は楽しくて笑顔が出る家庭を望んでいるんだな。そういう彼氏が欲しいっていうのが瑞穂ちゃんの本当の願いなんだ。
「えぇっ、なによ、それ」
「私には瑞穂の気持ちが手に取るようにわかっちゃうんだから。ごまかしても無駄よ」
奥さん、イジワルっぽくそう言う。まぁ、ボクにも瑞穂ちゃんの気持ちがわかるんだけど。シェリー・ブレンドのおかげでね。
「さてと、イズミくん、ちょっとお願いがあるんだけど」
「はい、なんでしょうか?」
「あなたなら瑞穂を任せられると思うの。だから瑞穂のこと、お願いしていいかしら?」
「お願いって、お母さん、勝手に私の彼氏を決めないでよっ!」
「あらぁ、お願いって瑞穂はそういう意味でとらえてたんだ」
またまた奥さん、イジワルっぽくそういう。っていうか、ボクもそういう意味で捉えちゃってたんだけど。違うのかな?
「私がお願いって言ったのは、このあと瑞穂の買い物に付き合ってほしいってこと。私、もうちょっとここにいるから。イズミくん、瑞穂の荷物持ちお願いね。瑞穂ったら、すごい量の買い物しちゃうんだから」
「あはは、わかりました」
「んとにもうっ、誤解するようなこと言わないでよ。じゃぁ、またこの店に戻ってくればいいのね」
「あ、そのまま家に帰っちゃっていいから。イズミくん、今日は晩御飯ウチで食べて帰ってね。お父さんには伝えておくから」
なんだかんだで、瑞穂ちゃんと思わぬデートとなった。といってもボクはたんなる荷物持ちではあるけれど。でも、これが思わぬ方向へと進んでいった。
「イズミくんってホントバカだよね。ウチのお母さんの口車に乗せられちゃってさ。まぁ私としては助かるけど」
「いやいや、ボクはお母さん大好きですよ。うちのお父さんも明るいけど、瑞穂ちゃんのお母さんもとても明るい人じゃない」
「そうなのよ。お父さんと正反対なの。お父さんって真面目一本だから、なんかつまんなくてさ。でもね、お母さんが明るくなったのは最近のことかな。なんでも、昔好きだった人に再会してかららしいのよね」
「あ、それうちのお父さんのことだ。そのこと、さっき聞いたんだよ。瑞穂ちゃんのおばあちゃんがうちのお店を見つけて、それがきっかけだったらしいけど。あ、瑞穂ちゃんっていつこっちに引っ越してきたの?」
「私が中学二年生のときだったな。お父さんの転勤でね。転校したときは私もちょっと落ち込んでたなぁ。せっかく馴染んだところを離れなきゃいけなかったから。でも、お母さんの明るさのおかげで、助かってるかも。それもイズミくんのお父さんの影響なんだね。ありがとう」
瑞穂ちゃん、ちょっとツッパってるところもあるけれど素直なところもある。なんだかよけいにかわいく見えてきちゃった。
「瑞穂ちゃんって、とってもかわいいところあるね」
つい素直に自分の気持ちが口から出てしまった。すると瑞穂ちゃん、今度は態度を一変。
「あんたバカ?私をそうやって口説こうなんて十年早いわよ!」
あ、そうきたか。ならばこう反論してみるか。
「じゃぁ、十年後なら瑞穂ちゃん口説いていいってこと?」
「そ、それこそあんたバカなの?こんなにかわいい女の子を今口説かなくてどうすんのよっ!」
なんか言ってることが支離滅裂になってきたな。言った瞬間照れてる瑞穂ちゃん。またこういうところがかわいいなぁ。
「ほら、バカなこと言ってないでこのお店に入るわよっ!」
このお店って、下着屋さんじゃないの。ったく、これでもボクは男の子なんだから。そんなことおかまいなしに、これどうかな、こんなのよくないってボクに聞いてくる瑞穂ちゃん。これ、ある種の拷問だなぁ。
とまぁ、こんな感じで次々と洋服とか小物とか買う瑞穂ちゃん。ボクの両手は買ったものでいっぱいになった。気がつけば空は暗くなり、寒さも増してきた。お腹も空いてきたし。
「たくさん買い物できたな。イズミくん、付き合ってくれてありがとう」
「い、いえいえ。にしてもホントたくさん買ったね。ところで、どうしてこんなにたくさん買い物したの?」
ボクは両手に山のような紙袋を持って、さらに背中には荷物を背負っている。ちょっと異常な買い物の量だな。
「もうすぐクリスマスでしょ。実はね、私クリスマスの日に生まれたの。だから年に一度、この時期にクリスマスと誕生日を兼ねて、予算の範囲で買い物をしていいってことになってるの。特に来年には大学生になるでしょ。だから、ちょっと大人っぽいものを買いなさいって、予算を多めにもらったの」
「そ、そうなんだ。いいご両親だね」
「うん、お父さんは真面目、お母さんはあんな感じ。そしておばあちゃんは世話焼きだけど、私は家族が大好き。イズミくんはどうなの?」
「うちのお父さんは、ちょっとふざけたところもあるけど明るくしてくれるから大好き。お母さんはうまくそれを受け止めてくれるし。まるで漫才コンビみたいでね。とても大好きな両親だよ」
「私も将来は、明るくて楽しい家庭をつくりたいなぁ」
「あれ、堅実で真面目な男性じゃなかったの?」
「もう、イズミくんのバカッ!」
照れる瑞穂ちゃん。あはっ、ボク、この子好きになってきちゃった。
「ただいまー」
「おかえりなさい。まぁ、こんなにたくさん買ってきたのね。イズミくん、ごくろうさま。さ、上がって」
「はい、おじゃましまーす」
明るく挨拶をする。すると、食卓はすき焼きの準備ができていた。そこにはおばあちゃん、そしてちょっと堅物そうなお父さんが座っていた。
「紹介するね。この子がイズミくん。将来の私の息子になる人よ」
奥さん、その紹介の仕方って、ボクが瑞穂ちゃんと結婚するってことになるんですけど。
「そうか、イズミくん、よろしく頼むよ」
おいおい、お父さん、そこは「なんでやねん」ってツッコむところでしょ。このお父さん、真面目になんでも受け止めちゃう人みたいだなぁ。
「お母さん、もうやめてよ。私、まだイズミくんと出会ったばかりなんだから。勝手に決めないでね。さ、ご飯食べよ。おなかすいちゃった」
瑞穂ちゃん、否定しながらも照れてる。ボクはあえて否定しない。本当にこんな感じで食卓を囲むのが当たり前にできる、そんな日がくるといいなって思ってる。瑞穂ちゃんが言っていた、明るくて楽しい家庭をつくる。これはボクも夢見ているところだから。
そんなこんなで、楽しい時間も終了。
「イズミくん、今日は娘につきあってくれてありがとうね。これからもよろしくお願いするね」
「はい、瑞穂ちゃんのこと、しっかりと面倒見ます」
「おい、勝手に私の彼氏になったつもりになるんじゃないの。ったく、あんたバカ?」
「うん、ボクはバカだから。だからこれからも、もっと瑞穂ちゃんのことを楽しませてあげたいな」
「ホント、バカなんだから。まぁいいわ、私も楽しかったし。今度は大学に合格したら会ってあげるね」
「楽しみにしてるよ。あ、そのときはまたあの喫茶店に行こうね」
「わかった、約束してあげる。よし、頑張らなきゃね。今日はありがと」
うん、元気な気持ちを瑞穂ちゃんに与えられたみたいでよかった。ボクももっとがんばらなきゃ。
週が開けて月曜日、今日も元気に学校へ。すると、あさかーが勢い良くボクのところにやってきた。
「おいイズミ、昨日一緒に歩いてた女の子は誰なんだ!」
「あ、見られてた?」
「お前が山のように荷物を持って、美人の子と一緒なの見ちまったんだよ。おい、オレに黙っていつの間にあんな彼女を見つけたんだ?」
「えっ、なになに、イズミくんに彼女できたの?」
「おい、どんな子だよ?」
クラスのみんなが、急にボクのことで騒ぎ始めた。ボクに彼女ができるって、そんなに大きなニュースなのかな?
けれど、みんなの顔は笑っている。なんだか楽しそう。
「あはは、まぁまぁ、みなさん待ちなさい。これから事の真相を話してあげよう」
「イズミ、なに偉そうなこと言ってんだよ。さっさと話せよ!」
みんながボクを注目している。ここでボクはちょっと盛って話をはじめる。ところどころ笑いを入れたほうがいいからね。まるでボクと瑞穂ちゃんが運命的な出会いをしたかのように話をすると、みんな信じられないって顔をする。
「じゃぁ、その子今度会わせろよ」
「いやいや、大学に合格しないと次は会えないんだよ。くぅ〜っ、これは精神的な遠距離恋愛だなぁ」
ちょっと芝居仕立てで話をすると、みんな笑い出す。
「ったく、イズミくんってバカよねぇ。女心がわかってないんだから」
「じゃぁ、その女心とやらをぜひワタクシめに教えていただけないでしょうか。できれば実演付きで」
「ったく、ホントイズミくんってバカなんだから」
ここで大きな笑い。クラスのみんながリラックスできた瞬間だ。これこそがボクが望んでいたものなんだ。これからもみんなを笑わせてやるぞ。
<お前はバカか? 完>