16-5 クコは立ちあがる
「――引っ込みがつかないからじゃない?」
父さんから表情が、消えた。
まるで石像のように――おとぎ話に出てくる怪物ににらまれ石に変えられてしまったかのように、父さんは固まった。
こしゃくな指摘だから怒られるのを覚悟していた。しかし、父さんはすっかり言葉を失っている。
僕はここを先途と攻勢をかけた。
「父さんは技術と知識に自信がある人だから、ハッチの問題は時間をかければ解決できると踏んだんじゃない? 一方で、時間がかかれば、船を行き来できない子供にかかる精神的な負担を想定しきれなかった。なぜならそんな経験を過去にしたことがなかったから」
父さんは宙空を見つめ黙って聞いている。いつ叱りつけられるか内心びくびくだった。それをおくびにも出さず僕は続けた。
「コクーンの制限についても過小評価があった。使えなくなることがこれほど精神に影響をおよぼすとは想定していなかったんだ。そして調査に時間を要するうちにどんどん状況が悪化。ハッチの異常が解決してもいないのに使っていいとは今さら言えなくなった」
やはり父さんは押し黙っている。母さんがなにか言いたそうに僕と父さんを見ていた。
「僕も父さんの子だからわかるんだ。困難な問題を意地でも解決してみせるって気持ち。僕もその意気込みで勉強してたから」
クコ、と母さんが、たまらずにといった様子で割って入った。僕は、最後まで話させて、とそれを制して言った。
「父さんを責めたいわけじゃないんだ。僕はただ、元の暮らしに戻りたいだけだよ。みんなが笑いあえて、将来に不安を感じなくて済む生活に。頼むよ、父さん。僕たちは子供だ。大人にお願いするしかないんだ」
父さんのプライドを傷つけないよう、慎重に言葉と態度を選んで懇願した。理詰めでの説得はもう終わりだ。あとは心情に訴えるしかない。




