3-2 僕たちの婚約
「当たり前じゃない。なに言ってんの」
居心地が悪くなって僕はまた目をそらした。彼女と同じ色の頭をかきながら僕は続けた。
「好きとかそういう気持ちもまだよくわかんないし、なんにも勝てない子と夫婦になるのってあまりいい気がしないっていうか」
「じゃあ」言いながら彼女は僕の横に座った。「ミリーと結婚する?」
「そういうわけにはいかないだろ」顔を覗き込む彼女に僕は口をとがらせた。「ミリーはグミと結婚するんだから」
ミリーは彼女の妹で、グミは僕の弟だ。
僕とマリー。
グミとミリー。
僕ら子供たちは、それぞれ同い年のいとこが結婚相手と決まっている。生まれたときから、いや、正確には生まれる前から。
「そう。決まっていることなのよ。私たちが自分で選ぶことじゃない」
なんの感慨もなさげに彼女はさらりと言う。
「マリーは僕と結婚することに抵抗とかないの? 君にあまり勝てない僕と」
「別にー。クコと夫婦になるのは小さい頃からわかってたことだし、今さら特に思うことなんてないよ。クコはコンプレックスを感じすぎよ」
彼女はけらけら笑う。いい気なもんだよ。負ける側の気持ちなんて知ったことじゃないんだろうな。
じとっと見ても彼女はにやつくだけだ。
「私はクコのお嫁さんになるの、嫌じゃないよ。クコのこと結構好きだし」
僕は彼女の視線から逃れるように背中を向けた。面と向かって好きだなんて言われるのは気恥ずかしい。
「照れちゃった? まあそんな難しく考えず結婚しようよ。どうせしなきゃいけないんだし」
僕は膝を抱えて顎を乗せた。
僕とマリーは十八歳になったら結婚しなくちゃいけない。父さんと母さん、おじいちゃんとおばあちゃん、ひいおじいちゃんとひいおばあちゃん。みんながそうであったように、僕たちはルールに則って、決められた相手を伴侶としなければならない。この真っ暗で広大な空間を、ただひたすら進み続ける二家族が存続するために。