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15-4 蝕まれる家族
「これ以上はやめてちょうだい」「私の勝手だろう」
飲む、いや飲ませない、と押し問答するふたり。親の争う様子、とりわけ酔ってろれつの怪しい父さんの姿は見るに耐えなかった。
部屋に戻ろうと思ったとき、僕はその光景を目にした。
乾いた音がした。
僕は目を見張った。父さんが、母さんを打ちすえた。
「ぶったわね……」
母さんは頬を押さえ声を震わせた。信じられないといった表情で父さんを見つめる。父さんはうろたえた様子でうつむいた。
やがて母さんは押さえる手を頬から口に移し、小走りに駆けだした。リビングの入口にいた僕と目があったけど、横をすり抜けて自分たちの部屋に飛び込んだ。
とても悲しそうな顔をしていた。僕は目の前のできごとに、口をぽかんと開け突っ立っているしかなかった。
父さんも同じようにその場にたたずんでいたけれど、そのうちふらつきながらキッチンに消えた。ああ、またお酒を飲むんだろうな、と他人事のように思った。




