3-1 僕たちの婚約
切り札をきったはずだった。
手札のなかで最強のレトログリーンドラゴンが吐き出すブレスは、マリーの全モンスターに壊滅的なダメージを与え、僕が勝つ。そのはずが。
「ほら、やっぱりここで出してきた。お見通しなのよ」
モニター上の甚大な被害を前にして彼女は涼しい顔だ。平然と手元の端末を操作している。
顔色を変えなければいけないのは僕のほうだった。
「【天使と悪魔のささやき】!? なんでそんなカード持ってんだよっ」
「SSレアを引くコツがあるのよ」
彼女と僕のモンスターのダメージ量が入れ替わった。もう勝ち目はなかった。あっという間に僕のカードは蹴散らされた。
「はい五連勝」特にうれしがることもなく、彼女はすまし顔でモニターの勝敗数を口にした。肩まで伸ばした黒のストレートヘアを揺らし僕を見る。
僕は操作端末と一緒に手足を放り出した。
「あー、だめだ。勝ったの、最初の二回だけだ」
「クコは変なところで大技を狙うのよね。堅実にやりとおせば勝てるのに」
「はいはい、君は僕より強いですよ」僕はそっぽを向いた。
この幼なじみの女の子はなにをやっても僅差で僕の上をいく。どのゲームもそうだし、勉強も運動もなにもかもだ。
小さい頃、母さんに不満を言ったら、女の子のほうが成長が早いから、となだめられたけど、もう僕らは十五歳だ。体だけなら僕のほうが有利になっているはずなのに、いまだに身長も同じだ。
「そのうち腕相撲とかなら私に勝てるようになるよ」だだっ子でもあやすように彼女は僕の背中をなでた。同い年なのに子供扱いだ。
「なあ、僕たちってさあ……、結婚、するんだよな」
振り向いた僕の目を見て、彼女はきょとんとする。
少しの間、じいっと眺めて彼女は言った。